米軍の工作船、横須賀沖に出没


7月28日から31日にかけて、横須賀基地沖の錨地に停泊していた特殊作戦支援船オーシャン・トレーダー(23.7.30 星野 撮影)


7月28日、横須賀沖に現れたオーシャン・トレーダー(23.7.28 星野 撮影)


7月29日も横須賀沖にいたオーシャン・トレーダー(23.7.29 非核市民宣言運動・ヨコスカ 撮影)


7月29日には巡洋艦シャイロー(CG67)も、基地から錨地に出て停泊した。オーシャン・トレーダーとは無関係のようだが(23.7.29 星野 撮影)


艦橋の上部にレーダーが多数並んでいるのが確認できる。また、船の前部のスペースは、オスプレイや大型ヘリも離発着できる飛行甲板になっている(23.7.30 星野 撮影)


7月30日、横須賀沖の錨地の方から基地に走ってきた、星条旗を掲げたボート。オーシャン・トレーダーと何らかの関係があるのだろうか(23.7.30 星野 撮影)

7月28日から31日にかけて、横須賀基地沖の錨地に奇妙な船が滞在していた。

一見したところ民間の貨物船のような外観ではあるものの、AIS(船舶自動識別装置)の信号を一切出さずに浦賀水道を通ってやってきて、AISの信号を出さないまま横須賀基地の錨地に滞在し、31日の夕方に再びAISの信号を出さないまま浦賀水道を通って太平洋に出て行った。

しかし、7月31日に横須賀の錨地を出ていく前に、東京湾海上交通センターHPの浦賀水道航路大型船入航予定情報に、辛うじてこの船の入航情報が掲載された(7月28日に浦賀水道に入ってくる前にも情報が掲載されたかどうかは、筆者は確認できていない)。
それによると、この船の名前はオーシャン・トレーダー(OCEAN TRADER)だ。

船舶の位置情報を表示するウェブサイトのマリントラフィックでは、このオーシャン・トレーダーは自動車運搬船ということになっており、(2023年8月5日時点では)2017年5月14日にスペイン、ジブラルタル湾のアルヘシラス港でAISの信号を発したのが確認されて以降は所在不明ということになっている。
だが、全長193メートルの大型自動車運搬船が、自動車運搬業務を行いながら、2017年からAISの信号を出さずに隠密行動をとり続けているということは考え難い。

米国のシンクタンク、Center for International Maritime Security(国際海洋安全保障センター)のHPに2017年10月17日付で掲載された記事「The Ultimate Stealth Ship」によれば、このオーシャン・トレーダーは米軍の軍事海上輸送司令部(MSC: Military Sealift Command)が米特殊作戦軍(USSOCOM: U.S. Special Operations Command)のためにチャーターしている特殊作戦支援船だ。

この記事によれば、オーシャン・トレーダーは、「合計209名の特殊作戦要員、45日間の作戦に十分な貯蔵品と食料、海上での補給・補充能力」や、無人機(UAV)の発進、回収、補給などの能力、オスプレイや各種軍用ヘリの昼夜運用が可能な飛行甲板、ゾティアックボートやRHIB(Rigid-hulled inflatable boat: (特殊部隊の潜入などに使用する)複合型ボート)さらにジェットスキーといった小型艇の保管と発進が可能な船尾ランプなどを備えている。
また、実際にこの船をよく見てみると、艦橋上にはレーダーが多数設置されており、高度な電波情報傍受収集能力を持っているらしいことがうかがえる。

上で紹介した国際海洋安全保障センターHPの記事のタイトルは、「The Ultimate Stealth Ship」(究極のステルス船)というものだが、きわめて高度な特殊作戦支援能力を持つオーシャン・トレーダーが、一見すると民間の自動車運搬船や貨物船のような外観で、民間船の中に姿を隠すことができてしまうということを表現しているようだ。

さらに、このオーシャン・トレーダーは、海上軍事輸送司令部(MSC)の艦船目録には名前が掲載されておらず、上記の国際海洋安全保障センターHPの記事によれば、海軍の年次報告書にもこの船についての記載はなく、MSCの契約リストにも、オーシャン・トレーダーについての契約の記録は掲載されていないという。

しかし、国際海洋安全保障センターHPの記事だけではなく、GlobalSecurity.orgのHPなどもオーシャン・トレーダーが特殊作戦支援船であることを指摘している。
GlobalSecurity.org によれば、オーシャン・トレーダーは2011年に建造された当初はクラッグサイド(Cragside)という名前の船で、2015年に現在の名前に改称された。しかし、クラッグサイドと呼ばれていた時から、MSCがチャーターしていたという。

これらの情報が正しいとするならば、横須賀沖に現れたオーシャン・トレーダーは特殊作戦支援船、つまり米軍が特殊作戦部隊、すなわち多数の工作員たちを出撃させる洋上基地として、秘密裏に運用している工作船だということだろう。

オーシャン・トレーダーは、今回横須賀に出没する前、今年6月6日に沖縄のホワイトビーチ沖に現れ、数日間停泊していたことが、琉球新報や沖縄タイムス、NHKによって確認され、報道されている。
どうやら、日本列島を含む東アジア周辺で、米軍はこの工作船を使った何らかの工作活動を行っているということだろう。

しかし、秘密裏に運用しているはずの工作船を、米軍はなぜわざわざ報道機関や多くの人びとの目に触れるようなかたちでホワイトビーチや横須賀に出没させたのだろうか。

また、この工作船は横須賀で、大型船であるにもかかわらずAISを切ったまま交通量の激しい浦賀水道を出入りするという乱暴なふるまいをしたが、これは、米軍の工作活動の都合のほうが市民や交通の安全よりも優先されるということを、敢えて見せつける意図もあったのだろうか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


7月31日のオーシャン・トレーダー。艦橋の下の方の甲板と接する辺りに黒い四角い口が開いているが、おそらく飛行甲板で運用するヘリなどの格納庫になっているのではないか(23.7.31 非核市民宣言運動・ヨコスカ 撮影)


7月31日、横須賀の錨地を出発するオーシャン・トレーダー。船の後部が、小型艇などを発進したり収容したりできるランプになっているらしいことが分かる(23.7.31 星野 撮影)


観音崎の横を通過するオーシャン・トレーダー(23.7.31 星野 撮影)


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