海自護衛艦、ついに台湾海峡を通過


9月22日10時の海自呉基地。中央の艦艇は「さざなみ」か。艦番確認できず(右側の艦艇は大型揚陸艦「おおすみ」)。
「さざなみ」は、22日の15時頃、呉を出港した(24.9.22 木元 撮影)

 9月25日、海自の護衛艦「さざなみ」(DD113)は、海上自衛隊の歴史上はじめて台湾海峡を通過した。

同日、オーストラリアのイージス艦シドニー(DDG42)と、ニュージーランドの補給艦アオテアロアも台湾海峡を通過。

木原前防衛大臣は9月27日、記者からの質問に、「正に自衛隊の運用に関する事柄であることから、お答えを差し控えさせていただきます。特定の海域の国際法上の地位につきましては外務省にお尋ねいただければ幸いです。」、核心的なことには何も答えなかった。
一般論として、「防衛省・自衛隊としては、ICBMを含む中国の核・ミサイル戦力をはじめとする軍事力の増強や、中国軍の我が国周辺海空域における活動の動向について、引き続き重大な関心をもって注視するとともに、情報収集・警戒監視に万全を期しつつ、毅然と対応していく」と述べた。

 ニュージーランドのコリンズ国防相は26日の記者会見で、同国とオーストラリアの海軍艦艇が25日に台湾海峡を通過したと発表したが、海自については触れず。「艦艇2隻が現地時間25日午後2時から台湾海峡を通過した。国際法に従った通常の活動としている。ニュージーランド海軍の艦艇が台湾海峡を通過するのは2017年以来」だ(ロイター通信)。
9月13日にはドイツのフリゲート艦バーデン・ヴュルテンベルクも、台湾海峡を通過した。


8月2日 南シナ海で日本・フィリピン共同訓練。護衛艦「さざなみ」、フリゲート艦ホセ・リサール(写真は海上幕僚監部発表)

1.台湾海峡通過までの艦艇の動き



(日米NATO等、●は横須賀から出港した艦艇)

8月2日 南シナ海で日比共同訓練。護衛艦「さざなみ」、フリゲート艦ホセ・リサール
8月22日 横須賀を母港とするイージス駆逐艦ラルフ・ジョンソン(DDG114)が台湾海峡通過
8月27日〜29日 日豪伊独仏共同訓練 
ヘリ空母「いずも」(●DDH183)、護衛艦「おおなみ」(●DD111)、潜水艦(不明)、P-1哨戒機(不明)
イタリア海軍 空母カブール(●C550)、フリゲート艦アルピーノ(●F594)、哨戒艦モンテクッコリ(P432)
ドイツ海軍 フリゲート艦バーデン・ヴュルテンベルク(●F222)、補給艦フランフルト・アム・マイン(●A1412)
フランス海軍 フリゲート艦ブルターニュ (●D655)
オーストラリア海軍 イージス艦シドニー(DDG42、訓練終了後横須賀に寄港)


8月27日、横須賀を出港するイタリアの軽空母カブール。ステルス戦闘機F-35Bを搭載(24.8.27 木元 撮影)


イタリア海軍のフリゲート艦アルピーノ(24.8.27 木元 撮影)


8月27日、横須賀・長浦港から出港したドイツの補給艦フランクフルト・アム・マイン(24.8.27 木元 撮影)


8月27日、横須賀を出港するフランス海軍のフリゲート艦ブルターニュ(24.8.27 木元 撮影)


8月30日、逸見岸壁に停泊するオーストラリアのイージス艦シドニー。旭日旗は前に停泊している「むらさめ」のもの(24.8.30 木元 撮影)

8月31日〜9月2日 「いずも」、石垣島に進出して錨泊。八重山防衛協会、一部の市議が乗艦視察。
9月04日 補給艦アオテアロア、朝鮮海峡で米強襲揚陸艦ボクサー(●LHD-4)に洋上給油
9月13日 日本・ニュージーランド共同訓練 九州西方で護衛艦「せんだい」(DE232、舞鶴。全長109m、満載排水量2,500t)と補給艦アオテアロアが洋上補給訓練
9月22日〜25日 日米共同訓練、沖縄東方でイージス艦「こんごう」(DDG173)、米強襲揚陸艦ボクサー。


2.台湾海峡通過までの艦艇の動き(中国・ロシア艦艇)



 統合幕僚監部の発表によると、8月12日から13日にかけて、中国海軍2隻目の空母山東(全長316m、満載排水量67,000t、南海艦隊所属・司令部広東省湛江)とレンハイ級イージス艦延安(艦番106、全長180m、満載排水量13,000t、同)が台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通過した。(下記の地図は統幕が作成して発表したもの)

 レンハイ級とは、海自の最新のイージス艦「まや」「はぐろ」を上回る大きさの、中国海軍最大のイージス艦である。
統幕は「与那国島の南約530kmの海域を航行しているのを確認した」「第5護衛隊所属「あきづき」(佐世保)により、警戒監視・情報収集を行った」と発表している。
海自はバシー海峡を潜水艦通過の重要海域と位置付けているが、護衛艦がこの海域にまで出動して警戒監視に当たるのは、ちょっと驚きであった。


2024年8月14日 統合幕僚監部報道発表資料「中国海軍艦艇の動向について」より引用
(https://www.mod.go.jp/js/pdf/2024/p20240814_01.pdf)

この後も、中国・ロシアの艦艇の日本周辺での動きは頻繁であったが省略する。

9月17日から18日にかけて空母遼寧(305m 59,439t、北海艦隊・司令部青島所属)とルーヤン(旅洋)V級イージス艦2隻(成都、淮南、同)が、与那国島と西表島の間の海域を通過した。しかも領海の外側の接続水域を通過した。
統幕は「中国海軍所属空母が---この海域を航行したのを確認したのははじめてである」と発表した。
横須賀の護衛艦「たかなみ」、舞鶴の「せんだい」、鹿児島県・鹿屋基地の哨戒機P-1、那覇の哨戒機P-3Cが出動して警戒監視・情報収集。


2024年9月18日 統合幕僚監部報道発表資料「中国海軍艦艇の動向について」より引用
(https://www.mod.go.jp/js/pdf/2024/p20240918_01.pdf)

3.台湾海峡通過後の動き

 台湾海峡を通過して、南シナ海に移動した「さざなみ」とアオテアロアは、横須賀基地所属のイージス艦ハワード(DDG83)、フィリピン海軍のフリゲート艦アントニオ・ルナ、哨戒艦エミリオ・ハシントと合流して、「日米豪比新共同訓練」を行った。

 統幕は、「日米豪比新5か国による海上協同活動(Maritime Cooperative Activity)として、米海軍、オーストラリア海空軍、フィリピン海軍及びニュ ージーランド海軍と下記のとおり共同訓練を実施しました。海上協同活動は、航行の自由及び上空飛行の自由を支持するとともに、国連海洋法条約(UNCLOS)に反映された国際法上の海上における権利を尊重する活動です」と発表した。
意味不明確な文章であるが、4月16日のフィリピン海軍幹部の記者会見が、何を目指しているのかを明確に物語っている。
「中国海警局による妨害で比海軍職員に負傷者を出す事態にまでエスカレートする南シナ海の補給任務について、「同盟国・同志国の支援を受け入れる選択肢は持っているか」とのまにら新聞の質問に対し、トリニダッド准将は「持っている」と明言。今月比日米豪4カ国の海軍種が比の排他的水域(EEZ)内で実施した海洋共同活動が「(補給任務に関する)多国間支援の兆しとなっている」との認識を示した」(「日刊まにら新聞」24年4月17日)

4月7日の「共同声明日米豪比4か国による海上協同活動について」でフィリピンのテオドロ国防長官は、「一連の二国間・多国間の海上協同活動は、フィリピンの個別的・集団的自衛能力を構築する上での一助となる」と主張している。

中国−台湾のみならず、中国−フィリピンの紛争にも、高性能のイージス艦を派遣して介入する準備を進める米国のやり方は、さらに緊張を激化させかねない。

「さざなみ」は10月2日、佐世保に寄港したが、5日現在、母港の呉にはもどっていない。

(木元 茂夫)




9月28日南シナ海で、アオテアロアから洋上給油を受ける「さざなみ」。自衛艦隊司令部FBより


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