10月21日の電波標識ダウン、厚木のEA6Bのしわざか


関東南部で10月後半に3回、航空無線関係のトラブルが続いた。2回目は21日午前中に起きた。
「21日午前11時23分ごろ、千葉県館山市と伊豆諸島の新島、大島にある3カ所の航空無線施設で、電波が一時停止する障害が発生した。
約30分後に復旧し、航空機の運航に影響はなかった。国土交通省は、複数の施設が同時に障害を起こして同時に復旧したことから、故障の可能性は低く、電波障害の可能性が高いとして、在日米軍や防衛庁、総務省に調査を依頼した。」(共同通信)

1回目と3回目のトラブルは混信が原因で、周波数を切り替えて対処した。しかし21日の2回目のトラブルでは、機器自体がダウンしてしまった。機器がダウンするほどの電波の強さは、混信程度のものではない。強力な電波障害もしくは電波妨害があったと見られる。
強力な妨害電波を浴びせて、レーダーや通信機器を無力化するのは、空爆をする前に先ず行われる攻撃だ。この電子攻撃を専門に行うのが電子戦機で、米軍の場合はEA6Bがその任務を行う。自衛隊では、空自のRF4も電子妨害ポッドを積んで飛ぶ。

航空無線標識は、それぞれが異なる周波数を用いている。3ヶ所の施設をほぼ同時にダウンさせるような強力な電波を発信出来るのは、軍隊以外にはないだろう。21日の電波標識ダウンの犯人探しの第1歩は、妨害電波が出された方角ではなく、ダウンさせるほど強力な電波発信が可能なものを絞り込むことだ。


厚木基地と艦載機の訓練空域、ダウンした航空標識の位置関係(イカロス出版・航空無線ハンドブックの図より作成)

航空標識がダウンしたのは10月21日11時23分ころだが、その直前の同日11時ころ、厚木基地からキティーホークの艦載機EA6B(NF504)が北向きに離陸、その後針路を南にとった。艦載機が訓練を行う米軍提供空域R116に向かったものと思われる。周波数の異なる電波標識をダウンさせる能力のある機体が、ちょうどその時間に電波標識の近くの空域を飛行していたのだ。
ちなみにR116は米軍専用空域で、空自百里基地のRF4の訓練空域ではない。また、海兵隊のEA6Bが、事件当日に厚木に飛来して訓練を行った、という情報は無い。「容疑者」は絞られてきた。

訓練とはいえ、米軍が民間施設に(摸擬)攻撃をかけるはずがない、と言われるかもしれない。実は目標として民間施設を選ぶことがよくあるのだ。
98年7月から99年1月にかけて、三沢のF16が2回、岩国のFA18が1回、墜落やオーバーラン事故を起こした。この時の事故報告書には、これらの3機がいずれも低空飛行訓練を行い、その後もしくは低空飛行ルート上で摸擬爆撃を行う飛行計画だったことが書かれている。

爆撃訓練の目標は、F16が釜石の南の小白浜の港、もう1機のF16が北海道・江差の南、上ノ国の小学校や港だった。
岩国のFA18はオレンジルートの途中にある、徳島県宍喰町の変電所や愛媛県西条市の発電所に摸擬攻撃をかける予定だった。

電波妨害により近い例としては、米国会計検査院(GAO)レポートの中に以下の記述がある。
「三沢のF16の 主任務が95年に変わった。全ての目標に対する爆撃という任務から、敵の対空防御を制圧するという任務への変化だ」「RIPSAW RANGE(天が森射爆場)が狭く、訓練空域も狭いので、レーダー波発信装置が2つしか置けない。また、使用する周波数域が厳しく制限されている。そのため、気象レーダーや民間電波標識を目標に加えている」
F16の場合は、対空レーダーの電波を探知してミサイルを打ちこむ訓練だ。EA6Bは探知したレーダー電波に対し、ジャミングを行う。3つの電波標識を敵のレーダーサイトとみなして、妨害電波を発信する訓練をし、何らかの設定ミスで本当にジャミングをかけてしまった可能性は大きい。

電波妨害を出来る能力、現場近くを飛行していたこと、民間施設を目標とした米軍機の訓練実態。米軍EA6Bに対する疑惑はクロに近い灰色だ。事件当時、どのくらいの強さの電波が浴びせられたのか、どんなタイミングで3つの電波標識がダウンしたのか、がはっきりすれば、航空機による電波妨害かどうかはより明確になるだろう。
国土交通大臣さん。国民の命と暮らしを守るためには、米軍に対する気兼ね無しに、疑惑の強い米軍機に対する調査をしてほしいネ。

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
3つの事故報告書の関連ページ(インデックス)
GAO報告(2002年4月)「米本土以外に駐留する米軍の演習の制限について」を読む (02.7.14)


訓練空域から厚木基地に帰投したEA6B。胴体下に電子妨害ポッドが見える(10.12 撮影)


'2005-12-5|HOME|