「最終合意」ロードマップを読む

これではまるで「厚木居座り宣言」だ


ホーネットが編隊離陸した厚木基地。爆音は倍になり、接触事故の危険も増す(06年4月4日 撮影)

ロードマップの4.厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐の項目をよく読んでみると、同じ岩国への移駐について、厚木の艦載機と普天間の空中給油機とで、なぜこんなに表現が違うのか、とまどってしまう。以下、●で始まる文節は、ロードマップの日本語版(仮訳)だ。

●第5空母航空団の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐は、F/A-18、EA-6B、E- 2C及びC-2航空機から構成され、(1)必要な施設が完成し、(2)訓練空域及 び岩国レーダー進入管制空域の調整が行われた後、2014年までに完了する。

●KC-130飛行隊は、司令部、整備支援施設及び家族支援施設とともに、岩国飛行 場を拠点とする。航空機は、訓練及び運用のため、海上自衛隊鹿屋基地及びグア ムに定期的にローテーションで展開する。KC-130航空機の展開を支援するため、 鹿屋基地において必要な施設が整備される。

厚木からの移駐は「航空機で構成され」と、まるで物体としての艦載機が移動するだけみたいな書き方だ。一方空中給油機については、「KC-130飛行隊は、司令部、整備支援施設及び家族支援施設とともに、岩国飛行場を拠点とする」として、指揮・整備・家族を含んだ移駐であることを明記している。
なぜ厚木の艦載機部隊について、これと同じ書き方が出来なかったのか。第5空母航空団司令部、第102戦闘攻撃飛行隊など第5空母航空団指揮下の各飛行隊の司令部機構、整備支援施設、家族支援施設について、空中給油機部隊と同じ記述がなぜなされなかったのか。

わざわざ仮訳と断ってある日本語訳ではラチが明かないので、正文である英語版でこの部分を確かめると、"The relocation of Carrier Air Wing Five (CVW-5) squadrons from Atsugi Air Facility to MCAS Iwakuni, consisting of F/A-18, EA-6B, E-2C, and C-2 aircraft, will be completed by 2014, subsequent to the following: (1) completion of necessary facilities, and (2) adjustment of training airspace and the Iwakuni RAPCON airspace."となっている。
第5空母航空団の F/A-18, EA-6B, E-2C, C-2 飛行隊(squadrons)は岩国に移駐する、ということだから、各飛行隊の司令部機構や整備支援部隊も岩国に移駐する、と読むのが普通だ。その上で英語の正文を見ても第5空母航空団(CVW−5)の司令部が厚木から動くとは書いてないのだ。
日本語の仮訳に戻ると、なぜ飛行隊という言葉が訳文から落ちてしまったのかが気になる。
外務省官僚の語学力が決定的に不足しているのか、それともわざと飛行隊という言葉を落としたのかのどちらかだろう。

訳し間違いをあれこれ言っても始まらないから、この際、実態としてこの文章が何を表現しているのかを、責任ある立場の外務省なり防衛庁がはっきりさせるべきだ。各飛行隊の司令部機構、整備支援施設、そして家族住宅などは厚木に残るのか岩国に移駐するのか、この点をはっきりさせないと、2国間の合意文書が意味不明な文書となってしまう。

仮訳についてこだわるのは、重箱の隅をつついているのではない。厚木基地からの艦載機の移駐という、米軍再編の「目玉」と日本政府が宣伝していることが、本当に厚木基地周辺から艦載機の爆音の解消につながるのか、という本質的な問題とリンクするからだ。


岩国基地では普天間から飛来したKC130空中給油機のタッチアンドゴー訓練が繰り返されている(06年4月26日 撮影)


厚木から岩国への移駐の項目の次に、岩国から厚木への海自機の移駐について触れている。

●厚木飛行場から行われる継続的な米軍の運用の所要を考慮しつつ、厚木飛行場 において、海上自衛隊EP-3、OP-3、UP-3飛行隊等の岩国飛行場からの移駐を受け 入れるための必要な施設が整備される。

「厚木飛行場から行われる継続的な米軍の運用の所要を考慮しつつ」という文言は「中間報告」にはなかったものだ。この部分は正文では "taking into account the continued requirement for U.S. operations from Atsugi. " となっている。所用という言葉がわかりにくいのを除けば、ほぼ正確な逐語訳だ。厚木基地から、今後も米軍が運用(オペレーション)を継続して行う、という文言が新たに付け加えられた。艦載機の訓練を、今後も厚木から行うとしか読めないのだが、この文言の意味しているのは何だろうか。
艦載機が厚木から居なくなる、ということと、艦載機の訓練が厚木から続くということとは、どうつながるのだろうか。

●訓練空域及び岩国レーダー進入管制空域は、米軍、自衛隊及び民間航空機(隣 接する空域内のものを含む)の訓練及び運用上の所要を安全に満たすよう、合同 委員会を通じて、調整される。

この訓練空域の調整が、米軍再編の矛盾の一つであることを、中間報告発表以来私たちは指摘してきた。岩国の戦闘機が倍になったとき、これまで岩国基地の海兵隊機が使用してきた訓練空域だけでは、足りなくなるのは目に見えている。だからこそ「合同委員会を通じて、調整される」のだが、今厚木の艦載機が使っている大島沖から八丈のさらに南の防空識別ラインまでの広い空域(R116,R599)を岩国近辺に設定することは難しい。また渋川上空空域(R589)で行っている対地攻撃訓練を、岩国近辺の浜田上空空域(R567)に集中させれば、この空域の下の住民は、墜落の危険と爆音被害が倍になる。
だから、米軍はこれまで厚木の艦載機が使っていた空域を「合同委員会で返還を決める」のではなく、従来通りに使用する方向で主張する可能性が強い。その場合、片道で40分から50分飛行時間が増える岩国からの訓練空域への往復はせずに、厚木をこれまで通り訓練の発進基地として使うことは想像に難くない。

先にも述べたように、「中間報告」にはなかった「厚木飛行場から行われる継続的な米軍の運用の所要を考慮しつつ」という文言が、わざわざ付け加えられた。岩国への「航空機の移駐」にかかわらず、従来通りの空域を使用することにともない、艦載機の厚木使用を「継続」する米軍の必要性(所要)を、日米両政府が合意した、という以外の解釈がありうるのだろうか。
厚木基地周辺自治体の首長さんたち、「手放しで喜んでいる」場合じゃないですよ!

1.R116,R599,R589の空域は米軍が使用しなくなるのか、
2.艦載機が本当にいなくなるならば「地位協定第2条3項」により日本側に返還されなければならない厚木基地内の米軍への提供部分が、合同委員会で返還されるのか
少なくともこの2点については、早急に防衛庁に問い合わせをして、はっきりとした回答を得ることが是非モノだ。
基地周辺住民が肌で感じている、米軍はやはり好き勝手に厚木基地を使うのではないか、という恐れは、これまでの過酷な飛行実態に裏打ちされている。周辺自治体の首長が厚木基地からの米軍機の騒音や危険を本気でなくそうと思えば、「米軍艦載機が厚木からいなくなる」ことを裏付ける、上記の措置がとられるのかどうかを、先ず確かめなければならない。

(RIMPEACE編集部)


地位協定2-1-a に基づき米軍に提供されている厚木基地の格納庫と駐機場(06年4月4日 撮影)


'2006-5-13|HOME|