返還して当然、これまでの艦載機の訓練空域は

「ジェット艦載機は厚木からまったく居なくなるんですね?」 鋭い質問が原告団の女性から発せられたとき、外務省日米協定室主任事務官は思わず口篭もった。「ここでは約束できないが努力します」
それまで何度も「厚木から艦載機が岩国に移る」と繰り返していた主任事務官は、詰まりながらこう答えるのが精一杯だった。
11月15日、第3次厚木爆音訴訟の原告団が外務省に要請行動を行ったときの一幕だ。

艦載機が岩国に移る、というのは中間報告に明示されている。それなら、ジェット艦載機の騒音はなくなる、と考えるのが、基地周辺住民としては当然のことだ。ところが、「騒音ゼロ」は努力目標でしかなかったことが、この日のやり取りではっきりした。

「すべての米海軍及び米海兵隊航空機の十分な即応性の水準の維持を確保するための訓練空域の調整」という項目が「中間報告」にある。これまで厚木の艦載機が「十分な即応性の水準の維持を確保する」ために使っていた訓練空域は大島南東のR116空域、そして、あまり知られていないがR116に隣接しているR599という空域だ。この2つの空域への飛行は、2004年の例では厚木の艦載機の3分の2を占める。

このR116とR599で艦載機が訓練を続ける限り、厚木からジェット艦載機の爆音が消えることはない。岩国からこの空域に来るまでには、厚木からの飛行と比べて多大な時間のロスを生じる。同じ飛行時間ならば、岩国・訓練空域間の往復の飛行時間を考えると、訓練空域で艦載機が訓練に使える時間はごく少ないものになる。
こうした場合に米軍は、飛行隊ごとに移動先の岩国から厚木に移動して、厚木をベースにこれまで慣れ親しんだ空域で一週間、訓練を行うという措置をとるだろう。現在岩国に展開している海兵隊機が、しょっちゅう嘉手納に部隊移動して訓練を行っている。これと同じことが「十分な即応性の水準の維持を確保する」ために艦載機でも行われることは容易に想像がつく。

「空母艦載機の厚木から岩国への移動」と外務省の努力目標である「艦載ジェット機の騒音ゼロ」がイコールになるためには、これまで厚木の艦載機が使っていた訓練空域を返還させることが必要なのだ。それなくしては、岩国に移動したが爆音は変わらない、という事態に陥る。

防衛庁は神奈川県に対して、厚木から艦載機を移転することを切り札のようにして説得を始めている。だが、訓練空域を返還すること無しには、厚木の艦載機の移動は「爆音解消」の実効性を持たない。「艦載機の移動」をアメにして、キャンプ座間への米陸軍司令部移駐や横須賀への原子力空母の配備を「黙認」させるのが、防衛庁の「説得路線」の根幹だとしたら、米軍の訓練空域の返還無しでは、地元自治体は何重にも騙されることになる。

(岡本聖哉・大和市議)


米国防総省の中の組織、米国画像地図局(NIMA,現National Geospatial-Intelligence Agency)作成の
Operational Navigation Chart G-11(February,2001) を利用

'2005-12-21|HOME|