基地騒音をなくせ

金子ときお相模原市議 (社会新報1月1日付より)


 昨年11月、米空母キティホークの横須賀入港直前に艦載機が飛来する厚木基地で異変が起きていた。通常なら80機もの艦載機が爆音をまき散らして飛来するため、基地周辺は爆音のるつぼと化すのが、この時はいつ飛行機が来たんだと思うほど、静かに飛来。
 地元の大和市長の「米海軍との友好関係断絶宣言」が、自治体の首長の抗議と抵抗が効を奏したのか、結論はまだだが、米軍が静かに飛ぼうと思えば出来ることを実証した、入港であった。
 以下、自治体の首長が始めた、米軍の騒音被害に対する取り組みなどをルポする。



米空母が横須賀に入港すると、艦載機はおよそ30`離れた米海軍厚木基地に移動、ここをベースに有事に備え、そして、離発着訓練を繰り返す。
 従って、厚木基地周辺は空母の横須賀入港とともに騒がしくなる。
 また、艦載機は空母が横須賀を出港すると、再び船に戻るがそのためには、規定の訓練が必要で、陸上基地の滑走路を空母の甲板に見立てて行う、夜間連続離発着訓練(NLP)は限度を越えた騒音を基地周辺にまき散らす。
 厚木基地周辺の住民のねばり強い爆音反対の運動が実をむすび、政府は厚木基地から1200`離れた東京都小笠原村の硫黄島に思いやり予算160億円を投じ、NLP訓練施設を建設、1993年から本格的な使用を開始、夜間訓練の被害を削減したと、成果を誇っていた。
 ところが米軍はここ数年、硫黄島での訓練を減少させ、厚木基地をはじめ、三沢や横田、岩国と本土の空軍、海兵隊の基地でも出港前の訓練を行うようになってきた。このため基地を抱える自治体は住民の激しい抗議の声をもとに、NLPの反対を訴えていたが、昨年 8月から9月にかけての厚木基地の米艦載機による爆音は凄まじく、二回のNLP通告も併せ、基地周辺は昼夜を問わず爆音にさらされた。 そして基地周辺の住民や自治体による様々な抗議行動も取り組まれたが、青森県の三沢市長につづき、ついに土屋侯保・大和市長が米海軍との友好関係の断絶を宣言、横須賀の米海軍司令官に通告に行くという行動に出た。
 そして、11月20日。米空母・キティホークは日米統合軍事演習を終り、横須賀に入港したが、通常なら寄港の前日に、80機あまりの艦載機を次々と編隊で飛ばし、厚木基地周辺に爆音を撒き散らして飛来するはずが、今回は南からの進入という事もあるが、ほとんど知られずに、編隊も組まず、静かに厚木基地に飛来した感がある。
実際、横須賀入港前日の19日に、筆者は厚木基地に行ったが、既にほとんどの艦載機がエプロンに並んでおり、基地周辺で一番被害のひどい、大和市上草柳に住む住民に聞いても降りたのもあまり気が付かなかったと言う。

また、例年12月は厚木基地周辺はクリスマス時を除き爆音になやまされるが、今回はほとんど静かな飛び方をした。これをみても、静かに飛ばすことも出来るんだ、ということが、実感できた。
ところが年明けの8日からは再び厚木基地周辺はかなりの爆音にさらされており、やれば出来るが、静かに飛べる実績を作りたくない、米軍の意図がかいま見られる。
以下、昨年の米軍の爆音被害を追いながら、基地周辺自治体の首長の発言や動き、地方分権の中で動き出した基地反対の運動を追いかけてみる。

 受験妨害、エアーショーでは期末試験も

 厚木基地周辺では一昨年秋の基地開放・エアーショー以来、異常なまでの爆音被害が続いていたが、昨年1月には神奈川県下の県立高校の入学試験日にもNLP(夜間連続離発着訓練)が強行され、その際抗議にいった爆同(厚木基地爆音防止期成同盟)などの声を全く無視し、マスコミのインタビューに米海軍厚木基地渉外部のノア報道官が「受験勉強は日頃からしておくもので、前日がどうこうではない」との暴言を吐く始末。
 その後、長期の航海から6月5日に横須賀に入港した空母キィティホークの艦載機は、再び6月下旬から激しい訓練を再開、7月1日、2日に厚木基地で基地のオープンハウスとデモフライトを行うと発表、事前の練習訓練やリハーサルも含め激しい抗議運動のなか、曲技飛行などを展開した。


 大和市長 『堪忍袋の緒がきれた』

 その後、7月下旬から連日のように、厚木基地周辺は爆音のるつぼと化していたが、8月30日米軍は国・防衛施設庁を通じ、9月5日から9日と、18日から23日までの厚木基地でのNLPを通告、併せて、三沢や岩国、横田でのNLPも通告してきた。
 そして、通告期間の前後も含め、厚木基地は激しい爆音に見まわれ、「通常ならば飛ばない・飛ばさない」爆音被害訴訟の横浜地裁の現場検証の日にも激しく飛ぶという、いつもと違う様相を示した。
そのため住民の抗議や苦情の声も凄まじく、実際にNLPが実施された9月の7日間で、住民からの周辺自治体に寄せられた苦情電話は728件にも上った。
また、三沢や岩国、横田でも、激しい訓練が行われた。
 住民による様々な抗議行動も取り組まれたが、青森県の三沢では、9月19日、三沢市が市主催行事への米海軍幹部の招待を取りやめるなど、異例の強硬姿勢を打ち出し、「何で三沢をホームベースとしていない戦闘機にまで、騒音をまかれなければならないんだ」「これまでは短期間で夜だけ。機種の違いもあってか、ほとんど騒音は気にならず、苦情も数件程度だった。今回は、昼も夜もガンガンと爆音に見舞われた。これまで、米軍はこんな運用をしてこなかったのに…」と三沢市基地対策課。
 9月5〜7日、2年8カ月ぶりにNLPが行われた同基地では、昼夜問わない訓練が三日間も続き、事実上"初体験"の激しいNLPに住民は敏感に反応。市へ寄せられた苦情は五十件近くに達した。
 市会特別委も全会一致で市の決定を支持した。
 三沢市長につづき、9月20日、土屋侯保(きみやす)大和市長は米海軍との友好関係の中断を決めた。翌21日、記者会見を行い「市民も私もなめられている」と怒りをぶつけ、「何かアクションを起こさなければ」とし、友好関係中断の気持ちを語った。
そして10月3日、土屋市長は横須賀の在日米海軍司令部を訪ねて司令官のロバート・C・チャプリン少将と面談、その意向を直接伝えた。同時に、訓練の硫黄島での完全実施をあらためて強く求めた。
 大和市基地対策課によると、土屋市長はチャプリン司令官に「硫黄島でのNLPは日米合同委員会の確認を経て実施された経緯があり、昨年までのNLPは九割以上が硫黄島で行われていた。しかし今回は限定的にしか硫黄島を使用しなかった」と指摘した。7月の航空ショーなどの騒音被害にも触れて「今回のNLPはがまんの限界を超えるものだった」と抗議し、友好関係の中断に至った経緯を伝えた。
 これに対し、司令官は「日米の関係は重要である。市長の話を受け止め、次回のNLPは市民に影響の生じないよう努力したい」と述べた。友好中断の期間について、土屋市長は「NLPの硫黄島での実施を努力すると(米軍が)明言するか、次回の実施状況を見たうえで判断したい」と答えたという。


 神奈川県知事も米海軍司令官に抗議

  NLPについて、岡崎洋神奈川県知事は9月28日の県議会本会議で、先の大和市長の決断に理解を示し、自らも「在日米海軍司令官に面談し、今回の訓練の異常事態と、それに対する住民の気持ちをしっかりと伝える」旨を表明、在日米海軍司令部(横須賀)のロバート・C・チャップリン司令官に直接抗議するとの考えを明らかにし、17日、在日米海軍司令部(横須賀)のロバート・C・チャプリン司令官と面会した。 
県知事が在日米海軍司令官に直接、申し入れを行うのは「長洲一二前知事の時代からも例がない」ことという。
 住民の被害に、自治体の首長がやっと腰を上げたとの感があるが、これが、爆音をなくす大きな力になってくれることを切に望むものである。


土屋侯保大和市長の話

厚木基地周辺の市長はみんな同じ思いだと思うがとして「一昨年の大和市主催の薪能、米軍の司令官は来なかったが、真っ最中に飛行機が上空を飛び、琵琶の演奏が中止となる事態が発生した。これまではこちらが要請をすると、飛行コースを変更してくれたり、何かと配慮してくれた。昨年の9月に入り、2回のNLP、夜10時を過ぎても飛行機が飛ぶなど、今までとは違う状況になってきた。堪忍袋の緒が切れた」「今後、米軍から具体的な明言がない限り続けるつもりだ」とした上で、「次のNLP、確実に硫黄島で努力すべきで、また、オープンハウスで努力のあとがみられれば」「と今後の米軍の動向に注目していくとのべ、さらに「各自治体との情報交換につとめることを進めていきたい」と話した。


'2001-1-28|HOME|