アメとムチの圧力にめげず、岩国市民はしっかり反対!
米軍再編「空母艦載機部隊の岩国移転」に抗して

岩国基地で繰り返し訓練を行う、普天間基地のKC130空中給油機(06年4月 撮影)
2,378億円。これは96年度から07年度まで、今の基地滑走路を海側に1q移動
させる為に進めた「岩国基地沖合移設事業」に費やした税金の総額である。「思いやり予
算」と言う名目で、瀬戸内海国立公園の一角は無残な海面埋め立てが進められ、あと数年
で工事は完成する。
戦前、日本海軍が建設したこの基地は終戦の前日、岩国駅前を中心に未曾有の大空襲で
潰滅的に破壊された。しかし、市街地とは対照的に無傷の基地施設が残り自動的に戦後は
アメリカ軍の基地に代わった。本土で唯一、米海兵隊の航空機部隊が駐留するこの基地で
は、最新鋭の軍用機が日夜の区別なく激しい訓練を繰り返す。
我慢出来ないよう爆音や墜落の危険を避けるために、岩国市民がやむを得ず選択した妥
協策が、「岩国基地沖合移設事業」だった。官民あげて熱心な要望活動が長年続き、よう
やく工事着工にこぎ着けたのは96年、この要望が始まって時は既に30年近く経過して
いた。「悲願!」という枕詞を付け、岩国市民はこの事業完成後の効果を強く期待した。
途中、大きな地震などで工法が見直され工事は3年程度延長、目下は09年度完成へ向
け作業が急がれている。
着工当時、岩国市の人口は約11万人(06年3月の合併で現在は15万人)。地方の
小都市に駐留する米軍基地の迷惑を、二千億円以上の国費を使って解決するという政府の
方針が正夢だったのか、この構想が始まった当初から私は大きな疑問を持った。そして、
基地の恒久化・新たな部隊の受け皿作りだ!と、訴えつづけてきた。
しかし、全国でも稀な爆音訴訟の提起すらない、岩国基地は国の恰好の餌食となった。
何しろ、「基地を拡張してもらう」ことが市民の『悲願』と言う街である。このチャン
スを国は逃すハズがなく、長年の騒音訴訟で困難な基地運用を強いられている神奈川県厚
木基地の移転先を岩国と見定めた。数千人の原告が求めた数十億円の爆音訴訟金をすら拒
否しても、人口11万人の岩国市民の騒音と危険回避では2400億円を投入する、その
カラクリが「岩国基地沖合移設事業」である。
2011年の9・11米同時多発テロ勃発、これを契機にアメリカの基地政策は大きな
見直しが始まった。日米政府の緊密な協議が続き、06年秋には「再編実施のための日米
ロ−ドマップ」が発表された。日本国内の米軍基地負担を、等しく全国にばら蒔こうと言
う再編の意図は正に大金をはたいた岩国への「押しつけ」と言う構図で帰ってきた。
厚木・米空母艦載機部隊59機と、沖縄・普天間基地空中給油機部隊の岩国移転案であ
る。国はしっかり、「基地拡大の受け皿としての沖合移設事業」を照準にしたのである。

岩国基地には今でも厚木基地の艦載機が飛来する。着陸したEA6B電子戦機(06年4月 撮影)
05年秋、国の「中間報告」で正式に岩国基地に現在のほぼ倍の航空機が押しつけられ
る、今回の米軍再編案に岩国市民は大きく反発した。市民の反応は素早く、自治会や多く
の住民団体は署名や決議、市議会も反対の意思を確認した。しかし、年が明けた06年早
々から保守系市議の一部に変化が生まれ、市長の固い反対意思に揺さぶりが始まった。
周辺8市町村で合併が予定される06年3月20日を前に、旧岩国市としての最終意思
を確認するために市長が発議した手段が「住民投票」だった。
数年前、常設条例として定められていた「住民投票制度」に則り、岩国市民の意思がこ
こに集約された。投票率が50%に達しなければ投票自体が開票されず無効になる、大変
な危機感の中で多くの市民が立ち上がった。1ヵ月にも満たない衆知活動、1週間の告示
期間を「3・12投票に行こう!」を合言葉に、岩国市民は高揚した。
3月12日の投票結果は、58.68%の投票率でそのうち89%・有権者の過半数が
「移駐反対」と明確な意思表示を示し、画期的な成果で証明された。
この、他のどの様な説得よりも明確な「移駐反対」の市民意思を背景にした井原岩国市
長は国の執拗な懐柔策をはねのけ、反対意思を貫いてきた。こうした折り、岩国市は老朽
化に加え相次ぐ地震で安全性を危惧される市庁舎の立替えに、3年前着手した。
本体工事費約84億円に対し、防衛施設庁の補助金49億円がこの財源として見込まれ
た。沖縄・普天間基地の空中給油機受入れの見返りという、SACO関連補助金と言う位
置づけだった。この事実を市議会も確認し、庁舎建設工事は05年度から開始され05・
06年度補助金は予定通り交付された。鉄骨も立ち上がった06年の暮れ、国の発表した
07年度予算には岩国市が予定していた35億円の庁舎補助金は1円も計上されてはいな
かった。「米軍再編計画の中で、国の補助方針が変わった。再編計画を容認して頂けない
限り、補助金は出せない」と公言するのである。
この決定で岩国市政は大きく揺らぎ、国へ向けるべき矛先を岩国市長に向けた保守系市
議は公明党まで巻き込んで市長問責決議を可決させたり、挙げ句の果ては07年度の一般
会計予算を3月・6月と否決する暴挙に出た。今、国から補助される約束のない35億円
の庁舎建設補助金は、穴の開いた状態で建設工事だけが急ピッチで進められている。08
年5月には引っ越しの段取りまで準備されながら、異常な状態が続いているのだ。
岩国市長は今、国の行うこの理不尽なムチの仕打ちに抗議し、全国あちこちへの実態を
伝える訴えの行脚を初めた。同時に生まれた「岩国市新庁舎募金の会」と行動を共にし、
東京や大阪などでも街頭に立ち、反響をよんでいる。行政の施設建設に住民のカンパが馴
染むものか疑問は残るが、それよりも国に対し敢然と「艦載機移転反対」を貫き続けてい
る岩国市長の姿勢を大衆な示す行為としては判りやすい形として充分評価できるものだ。
全国の人々が国のこの理不尽な仕打ちを憎み、岩国市民の心意気を共有して下さる意義
は大変大きい。9月末にはこのカンパも1,300万円を額が岩国市に納められた。
岩国では今、こうした市庁舎建設問題よりさらに深刻な事態、「愛宕山地域開発事業」
という大プロジェクトが破綻し、「事後処理」という課題が市民の前に立ちはだかってい
る。まさに前述した「沖合移設事業」の埋め立て用土砂を供給するために、県・市・が協
同で進めてきた「新住宅市街地開発事業」である。主体的に事業を進めてきた山口県知事
は当初からの目的であった「沖合移設埋立用土砂」の供給が達成できたことでこの事業の
破綻・収束を宣言、岩国市長へは損失金の負担を強いてきた。現時点での事業集結で約2
51億円の損失が見込まれ、その三分の一、約84億円が岩国市に負債として残ってしま
う。山口県は造成のほぼ終わったこの開発地へ、米軍再編で岩国へ乗り込んでくる艦載機
部隊の兵士と家族の住宅を誘致する事で見掛けの損失を軽減しよう企んでいる。
これだけ明確に「米軍再編反対」の意思を貫いている市長や岩国市民の意思に逆らい、
財政的な重荷をもってこれを押しつけようとするこうした策動を絶対に認めることは出来
ない話だ。私はその焦点となっている「愛宕山」造成地のど真ん中にある団地に住み、地
域の人々と大きな怒りを持って「米軍住宅反対」の行動に立ち上がっている。
こうした折り、9月中旬には突然何の通告もなく海軍の大型ヘリと60人の部隊が新た
に岩国基地に配備された。国との協議も自治の尊厳も無視したこのような現実に大きな怒
り沸き上がる。行く手は大変困難な状況が立ちはだかろうとも、この岩国に住む市民が「
艦載機移転反対」を貫き、開発地そばに住む住民が「米軍住宅反対」を言い続ける限り、
国がこの暴挙を一方的に実行出来るハズがない。そういう固い信念を持って、私たちは頑
張り続けていく決意である。
田村 順玄(岩国市議) 2007年9月記
「米軍再編と前線基地・日本」(木村朗・編 凱風社刊)収録の拙文も同時に お読みいただければ幸いです。
'2007-10-14|HOME|