今以上の基地機能強化を許さないために・・
今年最初の仕掛けは「岩国基地爆音訴訟」だ!

2008年1月 田村順玄・岩国市議

年末から元日、二日に懸け、温暖化も何処かに消え失せたような大寒波が押し寄せた。街を走る車の数も 少なく、静かな落ちつきを感じる。だがその静かさが、やっぱり何時もと違うことに気づいた。 そうだ、基地から離陸する航空機の騒音が聞こえないのだ。

 毎朝、6時半を過ぎれば基地からの航空機離発着が始まる。しかし年末やクリスマスと新年、さすがの岩国基地も訓練を自粛するらしく 騒音はほとんど聞こえない。広大な基地の上空に静寂が漂い、静けさに不気味ささえ感じる。

 何年か前の年明け、屠蘇気分も残る松の内に空母「インデペンデンス」艦載機の着艦訓練が予告なしに強行された。市民の怒りが爆発し、 関係方面に寄せられた抗議や苦情の電話は1000本を越えた。
あらためて、空母艦載機のNLP(着艦訓練)の凄まじさを実感した経験だったが・・。
その怒りも訓練が終わり数日過ぎれば、また以前の日常生活が繰り返される。
この街ではこうして、基地をとりまく市民生活が60年以上続いてきた。


 今年もまた、こうした我慢と忍耐の環境のもとで基地の街の1年が始まる。しかしここ岩国は厳然として、既に5千人の米兵・家族が 住みつく海兵隊部隊が駐留し、千数百人の海上自衛隊航空部隊が同居している。
これから始めて新しい基地が作られ、軍隊が進駐して来る訳ではない。つまり「米軍再編計画」によって、あらためてこの街に始めて 米軍の基地が出来ると言うことでは無く、いまでも岩国市民は既に駐留している米軍の基地で大きな迷惑を被っているということを言いた いのだ。
だから正月休みが終わればまた、基地からはいつもと同じ激しい爆音が朝から晩まで繰り返されるのだ。

 そういう背景の岩国基地も、2007年は国の仕打ちに翻弄された1年だった。
アメリカの9.11テロから早くも7年目、米軍の世界戦略は大きく変わった。 05年秋、一方的に示された中間報告から06年5月の最終報告・政府の閣議決定は、基地の所在する地域や住民の意向など全く意識せず 突き進められられた。
そう、岩国基地へは、あの厚木の空母艦載機部隊の航空機59機を移転させるというのだ。

 国の押しつける迷惑を素直に受け入れなければ、憲法や地方自治の理念も無視した仕打ちを浴びせかける。
その、最も判りやすい圧力の 成り行きが岩国市庁舎建設補助金のカットだった。この圧力にめげず、補助金の受け入れ条件となった「艦載機受け入れ容認」を拒み 続けた井原勝介市長や岩国市民に対する国の仕打ちは、絶対許せない暴挙である。

 35億円という、人口15万人の地方都市での歳入見込みのつまずきは、行政執行そのものの根幹を揺るがす大事である。
その大変さを知りながら、平然と貫き続ける防衛省の汚いやり口はいま進めようとしている「米軍再編計画」の喉元に、岩国市長や 岩国市民のしぶとい反対姿勢が大きなトゲなって突き刺さっているのだ。


 昨年中岩国市長はこの、国からの35億円の補助金に変え、庁舎建設に合併特例債を財源とする補正予算案を5回も提案した。 政府方針に追随する自民党や公明党支持の市議会議員はその予算案をことごとく否定し、国側のお先棒を担いだ。
このままでは庁舎建設の支払いはおろか、08年度予算編成も見通しは立たず、市民生活は大きな混乱必至の状況となった。 07年12月26日、市議会12月定例会の最終日に、井原市長は時間的にもこれが最後だと念を押しとうとう5度目の補正予算案を 提案した。

 井原勝介市長はこの予算提案に際し、「今回が最後の機会だ。端的に申し上げる。私のクビと引換えに、大切な予算をぜひとも市民の ために通していたただきたい。」と辞職と引換えの可決を求めた。

 もしこの議会でこの予算が可決をみなければ、国へ要請している今年度中の合併特例債借入は不可能になる。この財源を全て一般市費 で賄うことになれば、数百億円分の事業も不可能になるとし、提案した財政当局の職員は必死に容認派議員の理解を求めた。

 しかしあくまで「艦載機移転」を容認し、国からの振興策を眼目に置く彼らは聞く耳を持たず、補正予算を審議した委員会はその議案を 「否決」するという結果に終わった。


 舞台は本会議に移り、このままこの補正予算を否決する影響の大きさは容認派議員の多数にも内部矛盾として残ったのか、修正の動き も出てきた。結果として補正予算は彼らの苦渋の選択「修正案」となって提案され、財源の大部分27億円は合併特例債として残した上で、 彼らが主張し続けている国からの補助金を幾らか計上した妥協案となった。

 市長の提案した原案が否決された一方、何とか当面の財政運営が可能となる修正案について筆者は、議会と執行部の無為なネジレ現象を 一時も早く解消し国への補助金支給を求めて行くためにも、双方歩み寄った議会運営が今求められている課題だと訴えこの議案に賛成し た。そして、その行政を牽引する職員の不安解消も大切というこの主張は議会内に一石を投じることとなった。

 こうして、井原勝介市長の提案した約31億円の合併特例債を財源とする補正予算案は否決されたが、27億円余りの合併特例債を 確保した修正予算案が可決し、1年間続いた庁舎財源問題は終息した。
その顛末として、2月10日投票の出直し市長選挙という大きな問題提起が市民に突きつけられた。出来ることなら、こうしたネジレ現象の 最大の原因者である市議会の解散・同時選挙という選択が最も有るべき解決方法では有ったが、今はそれも叶わない。
筆者も主張した議会と市長のネジレ現象を解決するために、まず市民の艦載機反対の意思を、市長の選挙に総結集することしか今は他に 方法も無いようだ。

 市民から託された議員としての役割よりも、全てが意のままに進まぬ井原市長の退陣こそがかれらの目的で有ることは明白。 原田某を頭目とする井原市長リコ−ル運動の勢力は予定を越え早々と決まった井原市長の辞職に慌て、対立候補の擁立に腐心した。 なんとかまとまった井原勝介市長候補に対する相手候補は、現職衆議院議員擁立という入れ込みからも、その慌て振りがよく判る。

 こうして岩国市民は、一昨年3月の住民投票や4月の新市市長選挙で「艦載機受け入れ反対」を訴え、圧倒的に市民の意思を示してきた にもかかわらず、その思い通りの政策が推進されなかった無念さを跳ね返し、三たび「艦載機移転問題」にその意識を表明する機会を 与えられた。こんどの選挙こそ、国の策動に止めの意味を込めて市民の意思をはっきりと示さなければならない。


 年が明け、もうひとつ新聞紙上に大きなニュ−スが公表された。筆者も参加している市民団体「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」 や「ピ−スリンク広島・呉・岩国」の仲間が昨年中かけ地道に準備を続けてきた、「岩国基地の騒音裁判」を提訴する動きが報道された のである。
全国主要な米軍や自衛隊基地の中で、全くこの種の裁判が提起されてこなかった岩国、国はこうした市民の足元を見て、今回の 様な再編案を岩国へ押しつけてきたと言っても過言ではない。
先月12月17日、厚木基地周辺6,130人の住民は第4次厚木爆音訴訟を横浜地裁に提訴した。
これまでも、全国の基地の町では航空機の爆音に対し訴訟を提起しことごとくその迷惑に対する過去分の補償を勝ち取ってきた。

 個人住宅の防音工事補償区域に住む住民の提訴に、国は確実に補償を続けなければならない、明確な判決が例外なく確立されているのだ。
今回やっと、岩国基地周辺でも該当する騒音区域に住む住民の訴訟提起が決断され陽の目をみると言うことは、今進む国の策略に大きな 一石を投じる意義がある。

 この裁判では騒音による損害賠償だけではなく、「騒音により人格権を侵害される」という趣旨での飛行差し止めを求めていくことにも なるだろう。
 これから、少なくとも100人を越える原告団を募集すると共に、強力な弁護団を結成し今年の早い内に提訴できる体制を急ぎたいと 準備を進めている。早速、1月27日(日)には厚木第4次爆音訴訟団からご支援を願い、市民集会の開催を決定した。
この集会を実質的な「岩国基地爆音訴訟」の出発点として行動を開始したい。ともあれ、2月10日の市長選挙へむけ、大きな判断材料の 一助となれば幸いである。

 今年の最初の仕掛けは「岩国基地爆音訴訟」だ!


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