危うし愛宕山 岩国基地の今
 ---- 2010年度政府予算案をめぐって ----

リムピ−ス岩国   田村 順玄 (岩国市議)

 国民の大きな期待を背負い、民主党を中心にした3党連立政権が誕生して百日余り。財源不足とマニフェストの重圧を克服し何とか 2010年度政府予算案が年末に決定し、間もなく国会での審議がスタ−トする。

 その総額92兆円という国の予算案が今年は、岩国市民にとって例年以上に大きな関心を呼びまた問題をはらみ立ちふさがる。 まさに戦後64年という日々の大部分を自民党という保守政党が支配してきた「日米同盟」という枠組みが、僅か数カ月で変わるなど 到底無理だとは判っていたが、それ以上に厳しい現実が眼前に横たわっていた。

 新政権が抱えている「沖縄の基地問題」、その解決の狭間で改めて岩国市民がこの渦のなかで翻弄されている、波瀾の幕開けとなった 年の始めである。


 米軍再編計画が明らかになって4年、住民投票や多くの市民運動、昨年は「海」「空」「山」に「テ−ブル」と再編に棹(さお)さす 4件の住民訴訟が始まって市民意識の盛り上がりも最高潮に達した。基地拡張工事の土砂調達で使われた愛宕山開発事業の跡地を、米軍 住宅に転用しようと企む国や県・市の方針には短期間で11万人の反対署名も集まった。
「愛宕山に米軍住宅はいりません」と、黄色の幟旗が周辺には今日もはためく。

 厚木基地から空母艦載機59機の岩国への移転案を阻止するためには、こうした裁判闘争や多様な市民の運動が大きな効果を実らせてい ると信じていた。その根幹にはやはり政権交代が実現した民主党マニフェストに示されている「米軍再編の見直し」、これが私たちの運動 の成果として帰結できる証左ともなるだろうと期待していた。

 そして岩国市民に重くのしかかる米軍再編の諸課題を解決するために、私も昨年末迄には4〜5回、旧・新政権に対し上京するなどして、 行動を重ねてきた。とりわけ新政権発足後は従来到底実現する事はなかった政務3役クラスへの直接要望も叶い、具体的に岩国基地問題の 解決を求めてきた。

 しかし年末25日、政府発表で明らかになった米軍再編関連の予算案に岩国市民は驚愕した。昨年中最も大きな精力を傾注した「愛宕山 開発跡地の米軍住宅化反対運動」を全否定する、当該用地の買収予算が何の前触れも説明も無く199億円計上されたのだ。
加えて、今や全国的にもお荷物となってきた「民間空港」予算も20億円余り措置された。岩国基地を活用した「軍民共用空港プラン」 は艦載機移転を地元が受け入れるなら、その見返りに国営空港として国が配慮しようという我が国100番目の民間空港計画である。

 その他「米軍再編計画」の本筋である航空機整備施設や増大してくる独身兵士のための宿舎、ユ−ティリテイ(給汽、給電等)、消音 装置など257億円が計上された。結局、2010年度に岩国基地全体で投入される米軍再編関連予算は、総額で実に474億円という大 きな金額となった。これで、どこが「米軍再編の見直し」と公約したマニフェストが反映された予算と言えるものであろうか、耳や眼を疑 うような情報の提示だった。

 こうした予算案の中、取り分け問題として指摘したいのは愛宕山開発跡地の国買い上げ方針である。これまで、山口県知事と岩国市長は 私たち市民の気持ちを無視し国買い取りを要望し続けてきたが、その要請でさえ使途を「米軍住宅用地」とは決して言えず「目的は定めず 購入してほしい」と焦点をぼかし要望してきた。

 ところが国の今回の愛宕山買い取り予算決定は早々に、「米軍住宅用地としての転用も含め検討する」と地元市長らへ説明しており、 これまで買い取りを要請してきた山口県知事や岩国市長でさえも売却には難色を示す態度を表明した。つまり市長や県知事も一向に解決す る兆しのない沖縄・普天間基地の代替施設の移転先として、改めて岩国基地が候補地にされるのでは・・と警戒する事態に発展してきたの だ。

 岩国基地は約3千億円の税金を投入し、その面積も1.4倍に拡大された。その基地機能は毎年数百億円を投入し現在所属している海兵 隊だけではなく、厚木海軍部隊や沖縄・空中給油機部隊の配備が出来るよう工事が進行している。これだけの国費を投入し岩国基地を拡充 してきた国の思惑が今露呈し、企みが実りはじめたのだ。
まさに海兵隊岩国基地加えて、普天間基地の部隊までもが代替基地として岩国を活用する恐れが、十分以上に想定される状況が生まれて きたのだ。

 民主党新政権にとっての当面の最大課題は結論が先送りされた「普天間基地施設の移転先決定」、この問題を当面解決すれば民主党に とっては国民の大きな期待には応えたことになる。当初は厚木基地の空母艦載機の移転先とされた岩国基地に、さらに過重な負担を加えて でもその解決手段として普天間基地の問題を解決したい。そうした問題解決の要素として、199億円という巨額の国費を投入し愛宕山を 購入しておくことは無駄ではない。こうした推理も全く関係ないとは言えない、渦中の岩国基地である。

 私たちはこの様な岩国基地をめぐる今日の事態に、ただ憤慨していても問題の解決には結びつかない、どうすればこの難局を跳ね返す ことが出来るか、真剣に討議した。
 最も感じる岩国基地の再編課題について、これまで私たちは周囲でのみ、ロ−カルな話題としてしか伝えていなかった。もっともっと 声を大きく岩国基地の実態や訴えを全国の仲間に伝えていくこと、そして岩国問題を沖縄の課題だけで埋没することの無いよう、いっそう の運動を盛り上げていくことが必要だと確認した。

 2010年春はその正念場、私たちの運動・取組をさらに励むと共に、全国の皆さんの変わらぬご支援を大いに期待して、頑張ること を決意し岩国からの報告とします。


昨年4月12日、愛宕山土地開発現場で行われた「米軍住宅用地にするな」集会

〔メ モ〕
「愛宕山地域開発事業と跡地問題」
 総面積約102ヘクタ−ルの新住宅市街地開発事業を山口県と岩国市が共同で進めたが景気低迷で事業は事実上破綻し、土砂採掘跡地約 60ヘクタ−ルと負債250億円が残った。この事業で採掘された土砂は米軍岩国基地の拡張工事の埋め立てに使用され、結果的に国防 事業への協力で生じた負債という位置づけで、その処理に国の買い取りを県と市は求めていた。
 しかしこの買い取り要望先は防衛省であり、その活用目的は厚木から岩国へ移転する艦載機部隊の米兵家族用住宅とする案であること から、地元住民の反対運動が高まっていた。政府はこのたびこの60ヘクタ−ルの内、岩国市の街づくり用地15ヘクタ−ルを引いた 45ヘクタ−ルを199億円で2010年度中に買い上げると予算化をしたものだ。


2010-1-9|HOME|