2008年(平成20年)(行ウ)第6号 埋立承認処分取消請求事件

陳 述 書

2011年1月11日

山口地方裁判所 第1部 御中

田 村  順 玄

 1.私はこの度の訴訟における原告で、岩国基地の沖合移設事業に伴う埋め立て工事を多くの理由により不当と判断している者の一人です。私は1964年11月、岩国市役所に就職し、港湾行政を主任務とする職場に配属されました。以来1995年1月の退職までの30年間、多少機構の改変はありましたが人事異動されることなく一貫して港湾行政の職場で勤務を続けてきました。これは岩国市役所では、大変稀な人事一例ではありましたが、私は労働組合の役員としての任務も果たしており、たまたまそのような経過になったものだと思います。
 私は、長い間の港湾行政における勤務経験から、職場において港湾行政実務の中心的な役割を担いこの行政に習熟したうえ、十分働いてきたと自負しております。

2.岩国市の港湾行政とは、重要港湾「岩国港」(山口県知事管理)と地方港湾「柱島港」に係わる業務です。岩国港に関しては、県知事管理から脱落している市有港湾施設の管理及び県行政が行う岩国港湾内での許認可につき、地元自治体としての是非について判断したうえ意見表明することです。
 柱島港に関しては、岩国市管理のために主体的に全て実行することです。ここでは「岩国港」に特化して申し上げますが、具体的に申せば、「岩国港」に関して公有水面の埋め立て申請が提出されれば岩国市を通じて山口県知事に申請願書が提出され、私が関与する岩国市の港湾行政当局が申請をチェックすることになります。
 まず、県知事に提出された願書は、岩国市が審査することになります。その審査を実務的にチェックするのが私の任務でした。
岩国市は、この願書に問題がなければ、岩国市長の「副申書」が添付され、岩国市より山口県知事へこれらの書類が送付されるわけです。山口県知事は、この願書を受け付けて審査をします。
その後、告示・縦覧等の手続きを経て再度、岩国市長へ「諮問」という手続きがとられるのです。「諮問」とは改めて岩国市長がこの申請願書を市議会に図ったうえで、地元「岩国市」としての意見を「埋立許可権者」である県知事に述べることです。ここで改めて港湾行政職員の出番があり、「諮問議案」を議会に提出し、議決を求める手続きの任務を行います。

3.さらにこの「埋立申請手続き」ではその後も竣工認可まで、申請願書は「岩国市」を経由し、同様の岩国市としての判断が継続されるのです。
 ところが、これまでに特異な実例がありましたので、特記します。それは、まさしく今回の広島防衛施設局(当時)が提出した岩国基地沖合移設事業に伴う「公有水面埋立承認申請」に関しては特別な取り扱いがなされました。この申請に関してはそれまで何十年という前例を変更し、岩国市はこの願書の受け付けを当時の岩国市建設部道路港湾課ではなく、基地対策課が担当として取り扱ったのです。
 つまり、当時、担当課である道路港湾課には私が所属しているため、本件については、基地対策課に所管させ、沖合移設推進を進めようとしたのではないかと思ってしまいます。
 当然、基地対策課は公有水面の埋立実務には精通しておらず、これまでに多くの事例を見てきた道路港湾課がこれまで通り、地元「岩国市」としての責任をもってチェックを行うことが本来のやり方です。しかし、この「岩国基地沖合移設事業」の埋立承認手続きにおいては、このようにまず最初から変則的な取り扱いでスタートしたのです。
 そのような経緯から、その後、岩国市は、埋立実務に異議を挟むことなく、当該申請には主体的な判断など示めさず、蚊帳の外に置かれ、すべて山口県(港湾課)と広島防衛施設局の意向どおりにこの事業推進が図られていき、事業が進められました。こうして国の事業スケジュールに則って、今日の竣工認可に至ったのだと私は考えています。

4.着工当初に、市民を対象に開かれた事業説明会や、それに関係するパンフレットをみれば、この埋め立ての竣工については、多くの疑問が生じます。
 まず、工事途中、数度の設計変更が行われ、そのための変更手続きがなされておりますが、その変更手続きはすべて「添付図書の変更」という簡易な手続きしか行われていません。つまり、当然、これに伴う環境アセスメントの再調査などは行われておらず、多くの疑念を残したまま、それらの変更に承認を与えてしまってきたのです。
例えば、前述のパンフレットを見ますと、「岩国飛行場滑走路移設に伴う埋立事業−広島防衛施設局」(1996年3月発行)では、埋め立ての工程のみを説明し、最終完了は「整地」と表記してあります。すでに、新滑走路が運用されていますが、本当にこうした工事はすべて完了したのでしょうか。
また、最終変更申請願書では東側誘導路と3本の東西連絡誘導路が作られることが記載されていますが、一番北側の東西誘導路や西側誘導路は未だ完成しておりません。また、当初の埋立承認書には、この埋立「条件事業」として「パブリック・アクセスロード」と称する市民に開放する散歩道路が明記されていますが、これは未だ工事中です。この道路は滑走路北端の海岸道路で、かつて市民が親しんでいた最も沖側にあった海岸線が、今回の埋立事業によって数キロに渡って埋立地として召し上げられたため、この道路を開放することを条件とされたのです。
 この道路は、滑走路北端から、海岸線に沿って、滑走路のオーバーランの部分はトンネルとなって、そこを通って、埋立の一番沖側の今津川河口にたどり着く計画となっていますが、現在、この道にあたる市道は、新滑走路北端でストップしたままとなっており、市民には開放されていません。先に述べた通り、この埋立の条件事業として明記されているのですから、それがまだ完成していないと言うことは、本件埋立事業は完了したとは言えません。この道路と、西側誘導路、及び以前からあった弾薬庫跡地の整地がなされなければ、パンフレットに記載された「整地」には該当せず、完工とは言えません。

5.さらに「再編」計画後の変更において、計画平面図は大幅に変更され、埋立目的は、当初の騒音と墜落の危険の軽減から厚木からの空母艦載機部隊などの移駐の受け皿と相当変化しています。つまり、使用目的が勝手に変更され、その施設配置も具体的に説明されていないため、何が埋立地に立地するのか全く不明です。

6.私たち岩国市の港湾行政担当者は、こうした申請をチェックする為に公有水面の埋立手続きの審査で用いる「手引き書」を元に、願書の部分毎にチェックして可否を決めていましたが、現在、私はすでに岩国市の職員を退職しており、その手引き書は持ち合わせておりません。しかしその手引き書通りであるなら当然、先の駆け込み変更承認など出来なかったと私は判断致します。
それは、2008年2月22日付で、山口県知事が、本田博利愛媛大学教授からの公文書の開示請求に対して開示した公文書(山口県が行った本件変更承認申請における「添付図書変更審査表」)を見ると、「地元市町村長の副申はあるか」「特に意見が付されていないか」という審査事項についてはその適否に斜線がされており、岩国市長の「副申書」が添付されていないことが伺われます。しかも、「環境保全に関する措置書」という項目において、「埋立そのものから発生する環境上の影響とその対策について記載されている」という項目も、「環境上の影響がない場合、その理由が記載されているか」という項目についても適否の欄には斜線がなされており、審査すらされていないことは明らかです。さらには、すでに述べてきた通り、駐留する航空機の機数が倍以上になるにもかかわらず、航空機の騒音についての環境保全上の措置については、その記載がなく、照会を受けた山口県環境生活部長からの回答書には、どのような審査がなされたかは全く記載されていません。
 民間事業者による埋立申請では、このような杜撰な活用計画で承認(許可)されることはあり得ません。明らかに身内に甘い判断が罷り通っています。
 その背景には、1992年8月に防衛施設庁長官が岩国市長に対し、「岩国飛行場滑走路の移設について」という依頼文において、「ところで、滑走路の移設実現までの間には、漁業補償、埋立土砂の確保、埋立等に要する法的手続等今後解決すべき多くの問題が残されております。当庁としましては、これらの事情に貴職が理解を示され、今後の関係省庁との調整及び移設事業を円滑に進めるために、貴職の全面的協力を賜りたいと考えておりますので、ご配慮方よろしくお願いいたします。」と記載されており、同年9月1日に、岩国市長貴舩悦光(当時)が防衛施設庁長官 藤井一夫宛に「全面的に協力する所存であります」と回答しており、1992年8月31日に山口県知事、岩国市長、防衛施設庁施設区域整備対策本部長、広島防衛施設局局長名で交わされた岩国飛行場滑走路移設事業を実施する際の山口県及び岩国市からの国に対する協力内容についての覚書において「3 公有水面埋立法に基づく法手続及び県要項に基づく環境アセスメント手続等事業実施に当たり必要となる全ての法手続等について、山口県及び岩国市は、全面的に協力する」と明記されています。つまり、沖合移設事業の埋立承認申請については、山口県も岩国市も便宜を図っていることは明らかです。
 さらに、変更承認申請願書に記述された完工後の平面図と現在どのようにそれぞれの施設が完了しているか、チェックしてみなければ、未だ「完了」という判断は下せないと確信しています。

7.以上、広島防衛施設局(当時)が提出した岩国基地沖合移設事業について、かつて岩国市の港湾行政を担当していた立場からの意見を述べましたが、本来「公有水面埋め立て」という行為は、自然環境を大幅に変更するものであり、地域住民の生活環境に大きな影響を与えるものであり、大変、重要なものです。「公有」という言葉が表しているように、水面は「公のもの」であり、そこでいう「公」は国ではなく、民にあります。そのため、その埋立権限は、国に出はなく、その地方長官の長である「県知事」にあるのです。つまり、県知事は、国のためではなく、民のためにその埋立承認申請について、厳正に審査し、埋め立ての可否を判断するものとされています。このため、たとえ国であったととても、これを逸脱した特権を受けてはならないものです。しかし、今回の埋立については、明らかに山口県と岩国市が国に対して便宜を図っているのです。
 古来より、新たな土地が生じる、出現するという現象は4つしかありません。その1つは、たとえばコロンブスの新大陸発見に象徴されるような「発見」です。2つ目は戦争などにより、力ずくでの略奪・占領といった行為による拡大です。3つ目は、自然現象である火山の爆発による溶岩流出や地震や地殻変動による隆起に伴うものです。恐らく近代の世界では新たに「発見」などという現象は今や見当たりませんし、戦争による略奪も至難の行為です。そして4つ目が「埋め立て」です。今や合法的に可能となる新たな用地を創設する行為は「埋め立て」しかないのです。
 こうしてたった4つしか無い新たな用地出現である埋立行為は、何人にも平等に行われるべきであり、民のものである海を特定のもののために便宜をはかり、この様に安易な判断で取り扱われることに私は大きな憤りを感じます。

8.以上、申し述べたとおり、私は改めて広島防衛施設局(当時)が提出した岩国基地沖合移設事業に伴う公有水面埋立承認申請の取り扱いを行った山口県知事の「埋立変更申請承認」がまやかしであるということを強く述べたいと思います。

                                以上



2005年6月20日撮影


2006年4月25日撮影


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