米軍再編 停滞する沖縄・普天間返還の狭間で拡大強化が続く山口県「岩国基地」

世紀の大愚作、愛宕山の米軍基地化に反対しよう!


愛宕神社からの愛宕山開発跡地(東工区)。建設中の岩国医療センター、右端は老人ホームの工事、
向こうに広がる空き地が、スポーツ施設の建設用地(防衛用地)  (2012.4.27 撮影)

 岩国では40年前から、岩国市民が「悲願」というまくらことばまで付け進めてきた「岩国基地滑走路移設事業」がある。約2,500億円の思いやり予算を投入し、岩国基地の面積を1.4倍 に拡大強化する埋め立て事業である。そこでは広大に埋め立てられ1q沖合に新しい滑走路が完成した。

 その広く新しくなった岩国基地に2014年、新たに配備されるのが「厚木基地の艦載機部隊」である。この部隊の兵士や家族4千人のために、政府が目を付けたのが「愛宕山新住宅市街地開 発事業」の跡地に作る米軍住宅建設計画だ。開発したものの、景気低迷で住宅販売の先行きが見えなくなりあっさり事業は破綻し、活用目的を失った愛宕山開発跡地は事業主の山口県と岩国市に約 250億円の負債と広大な更地だけを後に残した。

 この借金解消と艦載機部隊兵士の住宅確保という一石二鳥の策に悪のりした県知事と岩国市長が、防衛省にこの用地に米軍住宅建設用地とするよう提案した。この要請に飛びついた防衛省は 早速、2010年度から199億円の政府予算を確保して用地購入のチャンスをうかがってきた。

 県知事と市長はこの用地を売却する条件に、米軍住宅と併設して住宅エリアの一角に野球場や陸上競技場など一大スポーツ施設を建設させ、岩国市民に開放するという「アメとムチ」の施策を 要望し実現を迫っていった。この提案に関係スポーツ団体は大喜び、施策実現への強い市民世論を装い事態推進の役を担った。

 要望開始から2年余り、紆余曲折はあったが昨年末、愛宕山売却へ国と県・市の協議は徐々に煮詰まり、2011年の12月に国と県・防衛省の大詰めの協議が整った。12月26日には意思 確認の文書交換もなされ、あとは売却契約を残すのみの2012年を迎えた。いよいよ売買契約を数日後に控えた2月初め、日米政府が進める米軍再編協議の中で又々市民の頭越しにとんでもない 防衛政策が飛び込んできた。

 米海兵隊部隊約1,500名を岩国基地へ移転させるというロードマップ見直しのプランが、昨年暮れ頃から日米当事者の間で俎上に上がっていたという事実が明らかになったのだ。岩国基地へ は元々、米軍再編計画で厚木基地から空母艦載機59機を移転させるという案があるが、岩国市民は6年前から住民投票で圧倒的市民の反対意思を示したにも係わらず、その押しつけが継続して おりこの問題に翻弄される日々が続いてきた。

 その上さらにこの岩国へ、沖縄の海兵隊部隊を上乗せするなどという施策が計画されているなど、とても容認できる話ではない。このニュースを聞いた市民は驚愕し、これまで艦載機部隊の移転 容認を画策してきた県知事や市長、保守系の議員まで大きく反発する声が一斉に上がった。もちろん市民の反対世論は大きく盛り上がり、市議会も3月議会では全会一致の反対意見書を可決した。

 こうした状況の中で防衛・外務両大臣へ愛宕山の売却意思をを伝え、あとは売却の契約だけと構えていた知事と市長は大慌て、愛宕山開発跡地の売却契約を一時留保するという方針変更をとる 事態となった。山口県知事はこの事態に「取り沙汰されている様な事実が一切払拭されなければ愛宕山は売らない。」「日本政府の弁解があっても、米国の意思が明確に聞けない限り懸念は消えな い」と大見得を切って事態の推移を見守った。

 しかし、政府が確保している199億円の愛宕山買い取り予算は平成22年度予算で確保されたもの、繰越し措置で平成23年度の財源となっているものの、間もなく執行期限が来て予算は消え てしまう。
 ここでは一旦疑問や懸念は横に置いておき、国に買って貰わねば借金解消も出来なくなるという県の思惑が加わり、県・市の売却留保の意思は又迷走が始まった。

 政府は最後のアクションで3月15日、外務・防衛の政務官が県・市を訪ね年度内の売却を強く要請、知事や市長の態度を揺さぶった。「米国側も海兵隊の岩国移転は無いと言っている」と、全く 裏付けも無い内容をお土産に知事と市長の心変わりを期待した。

 知事と市長は待ってましたとばかり上げた拳を取り下げ、この使者へ愛宕山売却の意思表示を示して年度内の手続きが慌ただしく進展した。県議会と市議会が閉会した翌日の3月22日、上京し た知事と市長は外務・防衛大臣から形式的な回答文書を受け取り、「海兵隊の岩国移駐はない」と全く曖昧な政府回答を錦の御旗に国に正式な愛宕山用地の売却意思を伝達した。

 大臣からの文書が全く県民に周知されることもない翌23日、県知事は定例記者会見でこれを報告しその日の午後防衛省との契約まで終える手筈が整うという情報が入ってきた。 こうして「愛宕 山に米軍住宅はいりません!」とこの4年間取り組みを進め、10日に一回のすわり込みを60回余も続けている「愛宕山を守る会」のメンバーはいよいよ極めつけの抗議行動に立ち上がり3月 23日早朝から県庁に乗り込んだ。

 これまで一度もわれわれの前に現れず、全く血の通った会話も無い山口県知事がこのまま愛宕山を防衛省に売り飛ばし、新たな米軍基地を愛宕山に作ることだけは絶対に認めることは出来ない と、知事との面会を求め県庁知事室前で要請行動を展開した。

 この行動は前夜午後8時を過ぎ、「23日午前8時50分県庁ロビー集合」という合言葉で口伝てに伝わり、100q離れた県庁にこの朝集まったのは約40人、3名の県議さんの同行も頂き早速 2階の知事室へ向かった。そこでビックリ、知事室手前の廊下が秘書課職員で施錠されしっかり進行を阻んでいる。愛宕山を所管する総務部の職員が別に部屋を用意していると移動を迫り、この場 で数時間押し問答になった。


知事室へ至る廊下を施錠して、秘書課の職員がしっかりガード。数時間の押し問答となった(4.23 山口県庁知事室付近)

 結局知事は私たちの前には現れず、この日午前10時から予定していた定例の記者会見も3階の会見場に移動する事が出来ないと言う理由で中止になった。夕刻のテレビニュースを見ると知事 は「会見開催を妨害された」と我々県民を暴徒扱いし、卑屈な小役人官僚丸出しのコメントをする始末。

 こうして、愛宕山はこの日 (23日)防衛省への売却契約が整い、米軍基地にされることが決まった。山口県知事はこの7月、4期の任期が終了すれば引退が決まっている。最早レームダック 状態の中で、このように重大な事案を決定し愛宕山を新たな米軍基地とすることなどとても許される政策ではない。まさに平成の大愚作である。

 野田総理が訪米し、日米の安全保障政策で共同発表がなされるが、その内容については相変わらず沖縄・普天間基地の返還という大命題が全く解決される兆しもなく、残るのは米軍の日本全国各 地を米軍基地化する基地強化策だ。

 こしした狭間にある岩国基地が、日本国内では唯一新たな基地施設として拡大強化され続けて行くことは、何としても阻止してゆかなければならない。機能強化を、絶対に今以上されないよう、 いっそう取り組みを強めて行かねばと決意する昨今である。

(2012年4月26日 岩国市議会議員 田村順玄)


2012年元日の「愛宕山見守りの集い」


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