2015年正月−新施設建設、一大軍事拠点作りが進む

米軍再編下の岩国基地を見る(下)

 岩国基地をめぐるもう一つの大きな動きは、「愛宕山の米軍住宅建設」という課題があ る。これも岩国基地の滑走路移設事業と大きな関わりを持つ、市民を騙した一大ペテン事 業である。愛宕山は基地から西側に約5キロメートル離れ、周囲は新興住宅団地が張りつ いた丘陵地帯の真ん中にある。筆者もその団地に居を構え30年余り経つが、標高120 メートル余の愛宕山からベルトコンベヤーを走らせ、岩国基地移設事業の埋め立て工事に この山の土砂が活用された。約2千万立方メートルの土砂が213ヘクタールの基地沖を 埋め立て、岩国基地の新滑走路が出来た。事業主体の山口県と岩国市はその土砂採取跡地 へ21世紀の理想の住宅地などを建設し未来の街づくりを推進すると市民に提案した。

 基地の埋め立て工事だけは順調に進行したが、跡地の理想の街づくりはバブルの破綻や 景気の低迷で計画通り進めらず、行政はあっさりと事業の見直しを宣言し事業は中止され てしまった。土砂を防衛省に売却し、収入とした金額だけでは山を切り開いた経費の回収 は出来ずその後で約250億円の借金だけが残ってしまった。

 その借金解消を名目に打ち上げた県・市の新たな策略が「愛宕山開発跡地の米軍住宅施 設への転用」であった。結局、開発して荒れ地に変わった開発地の4分の3である約70 ヘクタールが防衛省のお買い上げとなり、跡地は米軍住宅用地として再開発が始まった。

 愛宕山土砂採取現場は元々岩山で、住宅地開発には大変なリスクを伴ったが、当初から 土砂採取を受け持った山口県住宅供給公社は連日ダイナマイトを使用して山から土砂を岩 国基地の埋め立て現場へ送り込んだ。
 しかも開発して平坦になった用地の周辺は幅50メートルの緑地を残し、自然を生かし た環境良好の宅地として大変高いコストで敢えて岩盤を破砕して用地造成に精を出した。

 出来上がったその宅地を一目見れば、米軍に提供するセキュリテイ十分の高級住宅地が ここに出現したが、この事業は今思い返せば正に市民を最初から欺いた完全犯罪の如き米 軍住宅建設の事業であった。防衛省はこの土地を当初から買収での反対リスクを回避した うえで、チャッカリとそこに入り込んで上前をはねる手の混んだ策であった。

 その上、防衛省の仕組んだ市民への懐柔策はその買収した用地の一角を日本人へのスポ ーツ施設建設という新たなアメをばらまき反対運動を封鎖したのだ。この愛宕山開発地の 米軍住宅化に反対して、筆者らは直ちに裁判を提起して闘っているがその壁は厚い。今は 一審で破れたものの広島高等裁判所でこうした理不尽な国や県や市の愛宕山開発の不当を 訴えげんざいも頑張っている。



 昨年5月、防衛省は取得した用地の造成工事に着手した。市民の住宅団地に隣接した建 設敷地は真っ白の高い塀が張りめぐらされ、重機の音だけが不気味に聞こえてくる。
 年末、この白い塀に何百枚という大きな子供たちの絵が張られた。近くの2つの小学校 の1〜2年生と、岩国基地内の小学生が書いた絵だ。昨春、防衛省が学校へ乗り込み適当 な説明で絵の提供を求めた。まさに教育への政治介入も甚だしい行為で、軍事施設建設を 隠すフェンスを児童の絵で誤魔化そうとしているのだ。

 このような国の汚い行為を糾弾し、その行動の証としてこの街で頑張っている多くの仲 間は立ち上がった。開発地そばに出来た「愛宕神社」前の公園で、毎月1の付く@・J・ 21日の月3回、「愛宕山見守りの集い」という座込みを行い、米軍住宅建設地周辺へのデ モ行進を続けている。今年の元日も開催し、多くの仲間が各地から参加した。その回数も 既に260回余り続いている。

 この愛宕山開発跡地の米軍住宅建設工事は厚木からやって来る米兵・家族の住宅である が、海側基地施設の厚木艦載機部隊の岩国移駐のスケジュールである2017年に全て照 準を定めた計画である。それでも岩国市長は未だ「厚木艦載機部隊の岩国移駐を容認はし ていない。」とシラを切る。

 こうして、目に見える形で岩国基地がどんどんと大きく拡大強化されているなか、今こ そ私達の行動でこの動きを阻止してゆかなければならない。

 昨年10月、岩国市議会議員選挙が行われた。筆者はこの選挙で6回目の当選を勝ち取 ったが、まさにこれから4年間のその任期中に「艦載機移駐問題」の正念場となる201 7年がやってくる。岩国では6年前から爆音訴訟も始まり、2月にはこの裁判も結審の運 びとなった。秋ごろには全国で勝ち抜いている爆音訴訟を、岩国でも初めて勝利できると 確信している。そして、こうした取り組みの積み重ねで、市民の小さな力であってもみん なで地道に頑張っているその成果が、極東一の岩国基地を骨抜きにするような展望を一日 も早く切り開いていきたいものである。今年も奮闘する新年の決意だ。(2015年1月 4日記)

田村 順玄 (リムピース共同代表・岩国市議)


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