低めに作られた、岩国「艦載機移駐後の騒音予測」のコンター


騒音の大きい艦載ジェット機だけで50機を超える、厚木の米軍機(1月10日撮影)

始めに結論ありき、のレポートを作る場合は、その結論にあったデータを集めてくるものだ。
防衛施設庁が3月中に行った住民説明会に配った資料、「岩国飛行場に係る航空機騒音予測コンターについて」の中の標準飛行回数の算出(6〜7ページ)は、一見もっともらしいデータによって飛行回数が推計されている。

「厚木から岩国に移駐」となっている59機の標準飛行回数が130回、一方今の岩国の米軍機については189回という数字は納得がいかない。
厚木と岩国が逆転しても不思議ではない、このような数字が算出された根拠はなんだろうか?

「岩国飛行場において、最終告示(平.4.3.27)を行った際に基礎となった騒音度調査における飛行回数(337回)をベースとして、現在、岩国飛行場で運用されている配備機数の割合及び岩国からの移駐などによって増減する機数を考慮の上」算出したと、同報告書には書かれている。この飛行回数は、深夜の回数を10倍するなどの「時間帯による重み付け」を行った数字だ。
施設庁資料の7ページ、再編後の1日の標準飛行回数について、岩国基地に移駐してくる分と出ていく分の数字を細かに見ると、

岩国に移駐してくるとなっているのは
厚木 ⇒岩国 59機 標準飛行回数 130回, 1機あたり130/59=2.2回
普天間⇒岩国 12機 同 19回        1機あたり19/12=1.58回

岩国から出ていくのは
岩国 ⇒厚木 17機、56回  1機あたり56/17=3.29回
岩国 ⇒グアム 8機、30回  1機あたり30/8=3.75回

となっている。

1機あたりの標準飛行回数は、入ってくるほうが2.0前後
出ていく方が3.5 前後と極端な差が出ている。
この差が生じる原因としては、標準飛行回数に大きく影響する割増タイム(10倍、3倍)に飛行する機体が岩国のほうが多かったことが考えられる。
岩国基地の滑走路運用時間は、06:30〜23:00(岩国日米協議会での確認事項)
厚木基地の滑走路運用時間は、06:00〜22:00(1963.9.19日米合同委員会合意)
普天間基地滑走路運用時間は、06:00〜22:00(1996.3.28日米合同委員会合意
岩国基地の方が、厚木、普天間基地より運用時間が長い。また、厚木では早朝の飛行は今回の移転対象機では少ないが、夜の10倍換算タイムに、岩国基地では飛行が激しいことが、上記の1機あたりの標準飛行回数の差となって出てきている。 再編後の1日の標準飛行回数を計算するには、移転前の実態ではなく、岩国基地の実態を考えないと、不当に回数が小さくなり、WECPNL値も低くなる。 岩国基地の過去の実測データから配備機数の割合を考慮して算出したのだから、厚木や普天間から移駐するという機数についても、この方式で計算するのが当然だ。しかし、移駐対象機の標準飛行回数は「平成16年度厚木飛行場騒音度調査データ」、普天間基地の「平成15〜17年度騒音発生状況調査データ」を用いていた。もっともらしいデータ、とはこのことだ。

厚木基地・普天間基地と岩国基地では、基地の運用時間が異なっている。岩国のほうが30分長く、そして深夜帯に1時間食いこんでいる。
たとえば、昭和38年9月19日に(日米)合同委員会で合意した「厚木海軍飛行場騒音規制」の初めに、「2200時から0600時までの間、厚木海軍飛行場におけるすべての活動(飛行及びグランド・ラン・アップ)は、運用上の必要に応じ、及び合衆国軍の態勢を保持する上に緊要と認められる場合を除き、禁止される」とある。「運用上の必要」がら無視されることもあるのが実態だが、それでも22時以降の飛行は少ない。
厚木基地について何度も裁判で違法状態を指摘されていることも、その運用に若干影響を与えているのだろう。

岩国基地は、「滑走路運用時間(6:30〜23:00)外に使用の場合は、市に通報する」(岩国日米協議会での確認事項)となっている。厚木の運用時間と比べて早朝が30分遅く深夜が1時間遅くなっている。
早朝は厚木では艦載機はほとんど飛ばないが、この深夜の1時間が問題だ。22時を過ぎているので一回の飛行回数がWECPNLの計算では10倍になる時間帯だ。
もし厚木から艦載機が大挙して移駐したら、滑走路の運用時間からみても、厚木ではあまり飛んでいないこの「10倍割増」時間帯に飛行することは目に見えている。普天間のKC130についても同じだ。だから、標準飛行回数を計算するときには、厚木や普天間の実態のデータではなく、岩国への配備機数に運用時間の差に起因する1機あたりの標準飛行回数を乗じた回数を加えなければ、移駐後の実態とはかけ離れたものになる。
厚木や普天間の測定データをそのままとりこんだのでは、基地運用時間の相違が反映されずに、回数が小さくなるから、騒音コンターも低い方にシフトされる。

仮に岩国に入ってくる機体の1機あたりの標準飛行回数を、出ていく機体の中間の値(1機あたり3.5)とすると、再編後の予測回数は25%増となりWECPNL値は1増となる。
また、1本の滑走路に戦闘機が2倍以上殺到すれば、運用時間は延長されて割増タイムに飛行する機数は現状よりも増えて、標準飛行回数はさらに大きくなる。
施設庁は、滑走路の運用時間の違いを無視した推計を取り消し、コンターをひきなおすべきだ。基礎データさえいいかげんなものを出してくる姿勢に怒りを覚える。

(田村順玄・岩国市議)


防衛施設庁の平成19年2月付けの配布資料の7ページ「再編後の1日の標準飛行回数」
施設庁のホームページに未だアップされていないので、住民説明会で配布された資料から作成


'2007-4-13|HOME|