「前線基地」岩国のいま

2001年3月 関西ネットワーク講演より
田村 順玄 (岩国市議・岩国市職平和研究所)


(はじめに)
本州の西の端、山口県岩国市に戦前から戦後を通じて軍事基地が存在している事はご承知の通りである。とりわけ、沖縄と並んで海外で展開する米海兵隊の基地としては非常に重要な拠点航空基地として、日夜濃密な訓練が繰り返され、未だ占領状態が続き市民生活には相いれることの出来ない軍事基地として存在している。
かっての「ソ連」や中国、北朝鮮を睨んだ西の要塞、攻撃拠点としての岩国基地は、今やその存在すら必要ないと感じるのが常識であるが、実態はそれとは違いいわゆる米軍の「殴り込み部隊・海兵隊」としての機能を発揮するために次々に新たなきな臭い危険を振りまきながら常駐を続けている。
1945年、戦争の終わる3日前8月12日に生を受けた私は、以来45年をこの岩国の町で生活し、基地を見つめてきた。ともすれば日常の何でもない事柄でも、米軍基地のほとんど存在しない大阪近辺の人達には新鮮な、あるいは大変奇異な出来事や現象が非常に多く存在していると想像する。そういった事などを、お伝えしてみたい。

1.岩国基地の現状と歴史
錦帯橋の架かる錦川河口の川下三角州にある岩国基地は、面積575ヘクタール 、甲子園球場が145個入る広さである。本土で唯一の米海兵隊の航空基地で、海上自衛隊も航空基地として共同使用している。岩国市の市街化区域の4分の1を占め、街づくりの障害になっている。
基地の誕生は戦前にまでさかのぼる。1938 (昭和13) 年、旧日本海軍が農地や宅地を強制接収して建設に着手。40年、岩国海軍航空隊が開設された。その後、海軍兵学校 (江田島) 岩国分校を設置。兵員は1500人から2000人いた。敗戦時の基地面積は、451ヘクタール 。
戦後は、英連邦空軍や米空軍が占領軍として駐留。50年に勃発した朝鮮戦争では、爆撃、支援、補給基地となった。56 (昭和31) 年、韓国から米第一海兵航空師団が移駐。62年、正式に海兵隊の基地になる。ベトナム戦争時は、事実上の出撃基地になり、湾岸戦争でも一部の兵員が派遣された。
正式名称は「米海兵隊岩国航空基地(Marine Corps Air Staition IWAKUNI )。
99年時点で将兵約 2,420人、軍属約 230人、家族約 1,920人、計約 4,570人。大半は基地内の住宅で生活している。
他に基地従業員ヌMLC 約 792人、ネIHA 330 人 計 1,122人。海上自衛隊隊員は00年3月末で約 1,580人である。

2.岩国基地の航空機部隊
基地の主力航空機部隊は、第12海兵航空群(飛行大隊)。沖縄・キャンプ瑞慶覧に司令部のある第1海兵航空団の指揮下にあり、有事になれば真っ先に出撃し、沖縄にいる海兵隊地上部隊の上陸作戦などを空から支援する。

3.岩国基地沖合移設事業
基地の「安全と騒音対策」を目的に、県・岩国市など周辺自治体、民間団体が四半世紀の運動の末、着工にこぎ着けた。総事業費1,600億円、基地面積は今の1.4 倍に広がり、現基地には無い空母級の大型艦船が接岸出来る大型岸壁の計画も忍び込ませ、思いやり予算で工事が進められている。
すでに着工して5年目に入り、投入した税金は1千億円余り。当初は計画の無かった遊水池(20ヘクタール)の追加埋め立ても昨年決定し、総事業費は2千億円に膨らんだ。 埋め立てされる前面の海域には、瀬戸内海で最後に残された広大な藻場と干潟が約80ヘクタール存在し、自然破壊の最たるものとして危惧されている。現実に、瀬戸内海では公有水面の埋め立ては厳しく制限されているにも係わらず、環境庁は「安保公益論」を楯にこれを承認し、工事が進められている。

4.米空母艦載機の着艦訓練
神奈川県の横須賀港を実質的な母港としている米海軍の空母「キティーホーク」が出航に際して必ず実施する着艦訓練が、本土の在日米軍基地を舞台に行われる事が大きな問題となっている。
陸上の滑走路を空母の甲板に見立てて行われるこの訓練は、4機から多い時には滞空8機という異常な状態で連続して滑走路に着地してすぐ飛び立つ、「タッチ・アンド・ゴー」という行為を繰り返す。急降下、そして出力をいっぱいにしての急上昇を繰り返す訓練である。その度に猛烈な爆音が市民の頭上に浴びせかけられる。政府は一貫してこの訓練の中止を米軍には求めず、167億円を提供して硫黄島に訓練施設を建設した。しかし米軍は利用勝手の悪い硫黄島での訓練を嫌い、2000年の訓練実績は8割弱が硫黄島以外の厚木、横田、三沢、岩国で実施された。
こうした現実を受けて三沢や大和では米軍との友好関係を断絶するという強行手段も打ち出し抵抗を続けているが、本年1月には岩国市長の提案でこれらの関係市長が神奈川県大和市において一同に会し、この問題で今後連携して対策をとるなど、話し合った。こうした背景もあったのか、2月下旬に通告されたNLPは全て硫黄島で実施されるという結果であった。

5.岩国基地航空機部隊の通常訓練
岩国基地に所属する海兵隊の航空機部隊は、日本本土、沖縄、韓国近海で訓練を行っている。近年は四国沖や中国山地の訓練空域で空母艦載機と共に行う低空飛行訓練が問題になっている。日本政府は明確にはその低空飛行ルートを認知していないが、ブラウンルート、オレンジルート、イエロールートなど7〜8本のルートが明らかになり、私たち基地のある街の議員集団「リムピース」の調査では驚くべき訓練の実態も分かっている。
一昨年1月、岩国基地の所属機FA18ホーネットが高知県沖に墜落した。その後、 560ページもの詳細な事故報告書が公表されたが、この資料を入手し英文の膨大な中身を分析した。その結果墜落した米軍機は大変重大な訓練を予定していたという事実があった。 事故機はこの日の飛行計画で、発電所や道路、変電所などを目標とする爆撃訓練を、低空飛行ルート( オレンジルート) を飛びながら行い、その後岩国基地に帰還する予定であった。
また岩国基地での事故の翌日、青森県三沢基地所属の F16機事故も同様の事故報告書を分析した結果、小学校を標的にしていたという驚愕の事実があきらかになった。 リムピースのこの問題公表は大きな反響を呼び、ワイドショーの特集でも扱われたり、山口県知事や青森県知事も認識して緊急の「渉外知事会による政府への要望活動」へと発展、その要請が99年10月には実現した。

6.日米共同訓練と周辺事態法後の岩国基地
1999年5月に成立した「周辺事態法」などのカイドライン関連法で、岩国基地の役割はいっそう重要な地位を占めることになった。民間や自治体をも巻き込んだ米国への戦争支援を行う性格が濃いこの法律は、岩国基地やその周りに住む住民にとっては他人事ではない。
昨年11月に行われた「周辺事態」を想定した日米共同統合演習は、そのハイライトで岩国基地を舞台に「混乱する外国の空港」に見立てた避難民・邦人や米国人の救出訓練が行われた。そこでは、ほとんどの行動で自衛隊が主役になり、周辺事態における日本の軍隊の今後の行動が浮き彫りになった。
こうした動きを連動し、米軍の国内の民間港を使った軍事行動が目立ってきたが、岩国の県営公共岸壁においても同様の動きが顕在化している。岩国基地の海兵隊が参加して行われている海外での訓練に伴い、オーストラリアやタイ、韓国などへの訓練資材の出し入れに際し、県営公共岸壁が使用されるのである。しかも、地位協定5条を行使し、一切の積み荷の内容も明らかにせず、使用料も払わず、すべてフリーパスである。これらの船舶はここ3年で14回に入出港を繰り返しているが、その度に使用の形態に何らかの変化があり、周辺有事の際の状況に的確に対応できるマニュアルを作るため、又スムーズな港湾利用を企むための行動であると想定できる。
そして、現在進行中の基地拡張工事に盛り込まれている大型岸壁の建設とも密接につながり、将来の岩国基地が空・海の完璧な機能を備えた大軍事基地となることを伺わせる動きである。

7.最近の岩国基地の特徴的な出来事
(1)毒ぐも事件
すべてが治外法権で、「安保条約」の一言で片づけられる岩国基地では、思わぬ事件が発生する。「毒ぐも事件」もその一例である。
昨年10月、米軍から突然発表されたその事実は、「クロゴケグモ」と呼ぶ北アメリカ南部に生息する神経毒を持つ毒ぐもで、岩国基地内のあちこちですでに1000匹を超える数が発見され、冬を越したのである。最初に発見されたのは97年で、恐らく春になれば活動を再開しあちこちで繁殖していることが予想される。検疫やルーズな入国手続きが今回の毒グモ事件で改めて表面化した。
(2)アップグレード「姫小島」
岩国基地のすぐ沖、航行禁止区域の中に小島がある。「姫小島」と呼ぶ。弾薬処理の島である。かっては白砂青松の瀬戸内海ののどかな風景が似合う島であったと言うが、米軍はこの島を標的にして実弾訓練を行い、最近では期限の過ぎた火薬や弾薬を爆発させて処理する島として使用している。島の形は大きく変わり、赤茶けた岩肌を無残にさらしている。
昨年夏に米軍は突然、この島の大改修計画を防衛施設庁を通じて発表した。通常は日本政府の「思いやり予算」で行う工事を、あえて今回は米軍の「ドル予算」で行うという。私は米軍のインターネットからこの工事の施工図面を入手して9月議会で追求した。米軍は、日本国の法律、とくに「公有水面埋立法」を無視して、埋め立ても伴う改修計画であったことを指摘した。つまり、米軍は岩国基地沖に無断で固有の米国領土を建設するのである。岩国市長はこの指摘に耳を貸さず、司令官まで直接出向いて形式的な説明を受け、工事実施の同意をしてしまった。しかも、今回の工事が基地機能の拡大強化には当たらないという認識である。米軍側が発表している「アップグレード姫小島」という呼び方と結びつかないのだろうか。
(3)「ペリースクール」の増築
姫小島の改修工事と同じように、米国のドル予算で又あらたな工事が実施されることが明らかになった。それは、1940( 昭和15) 年から岩国市が建設を続けている都市計画街路が、基地の敷地にかかってその先の建設がストップしている問題がありながら、米軍はその道路計画の法線内に米兵の師弟が通学する学校をかって建設して居すわっているのである。その、予定敷地約5ヘクタールは沖縄の普天間基地の返還にともなう玉突き移転で岩国に来る部隊の移駐条件で返還される方向が進んでいるが、その問題の用地に、米軍はあえて又学校を増築しようとしているのである。全く地元の意向を無視した、やりたい放題の米軍の行動で、基地の町の「街作り」の難しさを実感する事件である。

8.「おもいやり予算」や「愛宕山地域開発」のこと
不況が続く中で、基地の中は工事ラッシュである。日本政府の思いやり予算の執行は止まる所を知らない。ほとんどが東京の業者、ゼネコンがそれを仕切り、すでに1千億円を越える投入額の滑走路拡張工事も、地元に落ちる経済的な効果はほとんど見られず、街は沈滞している。
基地の埋め立てに連動して、その埋め立て土砂を供給するために山口県と岩国市は背後の山を切り開いてベルトコンベヤーで運び込む住宅開発を実施している。「愛宕山地域開発」とよぶ。バブルがはじけたあとに企画されたこの事業も、基地拡張の為という命題をもって「何が何でも!」と突き進んでいる。

9.おわりに・・・
こうして、岩国基地の動きをランダムに述べてきたが、本当に降って沸くような新たな事件や問題が次々出てくるのが岩国基地である。
私は、市議会議員として年4回の本会議では必ず基地問題をとりあげて一般質問を行い、平和研究所の運動をつうじて素早い情報の収集と行動を起こして、問題提起を行ってきた。広島や呉の仲間と行動する「ピースリンク」の行動や、基地のある街の議員で作る「リムピース」の飛行分析など、ホームページ「追跡!在日米軍」はそのアクセス数も25万件を越え、運動の輪も広がっている。こうした動きをさらに全国に発信して、岩国基地の問題点についても全国的な取り組みとして発展させて行きたい。
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