オレンジルートをたどる
−高知沖墜落1周年−


99年1月20日に高知沖に墜落した岩国のFA18は、もし事故ってなければオレンジルートを低空飛行中にルート上の民間施設を模擬攻撃する予定だった。 事故から1年たった2000年1月下旬に、オレンジルートを地上から辿ってみた。
岩国を出発地点としたために、事故機とは逆のコースでまわることになった。

四国電力加茂発電所

しまなみ海道で四国に渡り、愛媛県西条市の市街地から南下して国道194号線を登る。下津池トンネルの手前から、V字渓谷にかかる送電線の鉄塔が見えてくる。送電線が谷底に降りたところが加茂発電所だ。導水管1本だけの小さな無人発電所が、険しい斜面にへばりついていた。ダム式の発電所と違って本当に小さな施設だが、上空からは銀色に鈍く光るパイプラインは恰好の目標となろう。米軍機がオレンジルートを西向きに飛ぶときの6番目の通過地点、そして事故機が模擬攻撃をかける予定だった3番目のターゲットだ。

「加茂発電所にて」

早明浦ダム湖

長い寒風山トンネルを抜けて高知県に入る。94年10月に厚木の艦載機A6が墜落した早明浦ダムのダム湖が見えてくる。慢性的な渇水状態を示すように、水面は満水時より数メートル下がっていた。 ダム近くの土佐町「道の駅・土佐さめうら」売店で、今でも米軍機が低空で飛んでくるかどうか聞いてみた。 「米軍機は忘れたころにやってくる」「低空を飛ぶときは、ものすごい音がして怖い」 オレンジルートの飛行頻度は「忘れたころに」というほど稀ではないのだが、道の駅の上を常に飛んでいるのではないのだろう。オレンジルートの幅の広がりをうかがわせる話だった。

東洋町役場

攻撃目標2番の甲浦変電所がある東洋町役場を公式訪問した。町議会事務局長さんと総務課長さんが応対してくれた。
東洋町は「変電所が標的」の報道後直ちに「米軍機の低空飛行訓練の中止について」の要望書を外務大臣あてに出している。「町会議員や職員の中には、米軍に楯突いたら、いざという時だれが守ってくれるんだ、という意見もある。しかし、少なくとも市街地上空の低空飛行訓練はやめてほしいと考えて、町長の要望書や議会の訓練中止を求める決議をした。また、安芸郡の7町村にも、同趣旨の意見書の採択を要望した」「低空飛行をやっていることは知っていたが、飛行回数を記録しはじめたのは、高知新聞が「変電所標的」を報じてからだ。町内の8ヵ所で記録をとっている。隣の(徳島県)宍喰町を通るものは記録できないが」(議会事務局長)
「報告によれば、低空飛行の時には肉眼でパイロットのシルエットがわかったとのことだ」(総務課長)
目撃記録が貴重なデータであること、我々が調べた飛行データと合わせれば実態把握がさらに進み、低空飛行訓練を止めさせる大きな力になることを強く訴えた。今後も情報交換を行うことを約束して役場を辞した。

四国電力甲浦変電所

徳島県と接する東洋町甲浦は、大阪・足摺岬間のフェリーの立ち寄る港町で、ポンカンの産地としても有名だ。第3セクター・阿佐海岸鉄道の甲浦駅の目と鼻の先に、第2攻撃目標の甲浦変電所があった。海の方に目をやると甲浦小学校の校舎が見える。その隣には中学校や郵便局がある。変電所とは「チャイムの聞こえる距離」だ。予定通りに海の方から飛来して変電所を模擬攻撃すれば、小学校の直ぐ近く、いや、真上を低空で通過する可能性が強い。「超低空で爆音を轟かせながら、甲浦変電所の方向に飛来する米軍機の訓練コースの直下には、保育所、小学校、中学校、役場支所、郵便局等があり、住宅が密集している町の中心地であることから、ほとんどの町民が目撃しており、報道された内容が事実であることを裏付けしています」(99年9月10日付、外務大臣あて、東洋町長の要望書より)
私が9月7日に記者発表し、高知新聞が報道した内容は、地元の町長により公式に確認されていたのだ。 あらためて現地に赴き、高架上の甲浦駅から変電所を見下ろして気づいたのは、変電所に接するほど近くに、体育館や校舎があるということだった。99年3月に最後の卒業生を送りだして廃校となった、室戸高校甲浦分校の校舎だ。ということは...?
99年1月20日に事故機がもし予定通り変電所を模擬攻撃していたら、変電所のごく近くに建つこの高校は、未だ生徒や先生がいたということなのだ。我々が日付にこだわるのには理由がある。高知沖のFA18墜落事故の1週間前に、日米両政府は日本における米軍機の低空飛行訓練についての合意事項を公表した。その中に「低空飛行の間、在日米軍の航空機は...公共の安全に係る他の構造物(学校、病院等)に妥当な考慮を払う」という文面があるのだ。舌の根も乾かぬうち、というのはこういうことを指すのだろう。「妥当な考慮」を払った結果が、授業をしている高校のすぐ近くの模擬爆撃計画だった。校舎が林立する甲浦の町並みをながめながら、改めて「低空飛行訓練に関する日米政府の合意」の欺瞞性を痛感した。 (田村順玄)

「甲浦変電所にて」

「狙われた町並み」 甲浦駅から海側を見る。変電所の右後方に廃校になった高校の体育館、左後方に甲浦小学校が見える。
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