普天間ヘリ墜落・事故分科委員会の報告を読んで

コッターピンは、修理ハンガー内でなぜ見つからないのか?

2月17日に防衛施設庁が「事故分科委員会の報告」を公表した。防衛施設庁による「報告書の概要」が1ページ目に添付されていた。
「報告書の概要」によれば、事故原因は「操縦操作を後部ローターに伝える機構の一部に、ボルトを固定するためのコッター・ピンが正しく装着されていなかったため」となっている。

報告書のU、V節の関連する部分を、施設庁の仮訳から引用すると次の通りだ。(太字は筆者のコメント)
U.米側調査により報告された事実、結果、及び再発防止策
8.残骸の状況
(前略)テール・ローター・サーボ・リンケージ及びフォローオン・アームには、それらを接続しているボルトがなく、そのボルトとナットは、パイロン上部のテール・ローター・カウリングの内部から別々に回収された。ボルトとナットを固定するコッター・ピンは回収されなかった。
9.技術的分析及び調査
9.a.でコッター・ピンが適切に装着されていなかった、ということから始まり、テールローターが機体から脱落するまでの分析がなされている。
9.b.これらの一連の出来事は、残骸から回収された個々の部品及び構成部分に関する技術調査によって確認された。
(疑問点)コッター・ピンがもともと装着されていたのかどうか、についての考察が無い。海兵隊が聞き取り調査をし、04年10月5日の日米合同委員会第2回事故分科委員会に提出された「報告書」(以下、「04年10月報告書」と略す)では、装着されていたかどうかについて、証言が分かれたところだ。

V.事故分科委員会による検討の結果
1.技術調査
a.上記Uの9bに述べた事故原因の技術的分析に関しては、事故現場から回収された残骸及び機体部品のうち、テール・ローター及びパイロンを構成するブレード、ヘッド、ドライブシャフト、カウリング及びその周辺部品、並びにサーボ・リンケージ、フォローオン・アーム及びこれらを接続するボルトとナットが、合衆国ノースカロライナ州チェリーポイントの海軍航空補給廠に移送され、米国の技術者による詳細な調査が実施された。
(引用はここまで)要するに、肝心のコッター・ピンは米国に送られていない。技術調査の対象外だ。

そもそも、事故機に装着されるはずだった(もしくは、されていたかもしれない)コッター・ピンは、墜落現場以外の場所でも発見されなかったのだろうか。「04年10月報告書」提出の段階では見つかっていなかった。
「コッターピンの付け忘れ」が事故の原因というのなら、付け忘れられたコッター・ピンは、当然修理ハンガー内に残っていたはずだ。それならば、事故の引きがねとなったコッター・ピンの捜索が、ハンガー内で行われたのだろうか。
今回の「事故分科委員会の報告」でも、コッター・ピンそのものを調べていないから、現在まで発見されていないと考えるのが自然だ。

以下、事故以前の修理過程で取り外されたコッターピンが、見つかっていないのを前提に議論を進める。
1.事故機にコッター・ピンが取り付けられていた場合。
何らかの原因でコッター・ピンが外れて、墜落の過程でどこかに落下したと考えられる。飛行経路下での捜索が必要だし、コッター・ピンが外れた理由を調べなければならない。
2.事故機にコッター・ピンが取り付けられていなかった場合。
これは米軍側が一貫して主張しているケースだ。この場合、整備過程で外したコッター・ピンは、メンテナンス・ハンガー内にあるはずだ。それが見つからないのはなぜだろうか。

卑近な話しで恐縮だが、目覚し時計やおもちゃの自動車を分解して、また組み立てようとしたことが、誰にも一度はあるだろう。その場合の鉄則が、ねじやナットの類をなくさないように一まとめにしておくことだ。それでも、組み立て終わるとねじの一本くらいが、使われずに出てきて慌てるのがよくあるケースなのだが..。
目覚し時計やおもちゃの自動車の場合は、ねじが一つ残ったとしても、命にかかわる問題にはならないだろう。しかし、コトがヘリの組み立てとなると、そうはいかない。

そもそも、事故機の整備が終わったときに、外したコッター・ピンが一本残っていれば、そのピンがどこかで装着されていないということは、ド素人でもわかることだ。組み立て時に外した部品を全部使ったかどうかという、検査以前のチェックも出来ない体制だったとしたら、それはもうメンテナンスとは言えない。
これは、コッター・ピン以外の部品についても起こり得ることであり、パイロットの飛行前目視チェックリストにコッター・ピンを含める(Uの11.措置のb.)だけでは追いつかないことになることも、指摘しておきたい。

今回の「事故分科委員会の報告」は、コッター・ピンが正しく装着されていなかったことを原因と特定した。ただし、そのコッター・ピンそのものは、記述から推定すると見つかっていない。
もしハンガー内で見つかっていれば、それこそ事故原因特定の決め手となる。それが見つかっていないことも問題だが、もっと大きい問題は、なぜ見つからないかという点にある。それは、部品の保管体制という整備のイロハにかかわることだからだ。

コッター・ピンは普天間基地の修理ハンガー内で見つかったのかどうか。見つからなかったとすれば、その原因は何か。
事故報告書というからには、その点が明記されていなければならない。そうしないと、想像以上にオソマツなものと考えられる米海兵隊の整備体制に、メスは入れられないだろう。

(田村順玄・岩国市議)


2005-2-21|HOME