オスプレイ普天間配備の危険性を暴く −7

CH53D重輸送ヘリ墜落事故の教訓


墜落事故当日の現場。大破した機体と黒焦げの木、壁にローターの跡(2004.8.13 伊舎堂 達也 撮影)

オストリッチ症候群という言葉がある。危機に際して目をつぶる(見なかったことにする)ことで、危機をやり過ごそう、という人間の行 動様式だそうな。砂に頭を突っ込む習性があるダチョウ(英語で ostrich)の姿に由来するとか。

「物理法則を書き換えることが出来ずに、ペンタゴンは開発中のティルトローター機が安全にオートローテーションで着陸する手順を備え ることを、開発の要件から外し、絶対に必要な条件のリストから削除した。『オートローテーションによる安全な着陸は、もはや正式な 要求項目ではない』と2002年のペンタゴン・レポートは述べている」(タイム誌2007.9.6「空飛ぶ恥」)
どうしても開発不能な技術について、「開発しなくてもいいことにしよう」と言ってペンタゴンは目をつぶってしまった。

目をつぶってもいいや、と考えた理由は、開発メーカーであるボーイング社のオートローテーション機能についての説明に図らずも出てい る。
「2機のエンジンが停止しての着陸はほとんどありえないが、必要とあらば航空機モードで、ターボプロップ機のように滑空して着陸する ことができる」(オスプレイ ガイドブック 2011/2012、ボーイング社)
このシリーズの最初でも触れたが、「オスプレイはオートローテーションに頼らない」という説明に続く部分だ。

めったに起こらない事だから、必要な対策をとらなくてもよい、と言うのが、オートローテーションで安全に着陸できる機能をオスプレイ から取り去った理由だ。

外務省がとりまとめた「普天間飛行場に係る場周経路の再検討及び更なる可能な安全対策についての検討に関する報告書」は、場周経路の 再検討をする際に、オートローテーションで施設境界内に降りられることを理由に、現行の場周経路に問題は無いと結論付けている。
ここでも「最低2基のエンジンが搭載されており、オートローテーションの手順を必要とする事態そのものが極めて稀な事象であるが、. ......」としてオートローテーションの解説に入っている。
オスプレイの場合始めからオートローテーションで安全に降りることができないことがわかっているので、2つのエンジンが同時に停止す るのは「きわめて稀な」こととして、無視する可能性がある。

前述のタイム誌「空飛ぶ恥」は、「フライトマニュアルには、2つのエンジンが停止する要因として、戦闘行動、プログラムミス、燃料の 汚濁などが上げられている。」と記している。
個別の要因も多々あるだろうが、普天間基地のヘリ墜落事故を見れば、もっと根本的な、ヒューマン・エラーを引き起こす軍隊の行動原理 が事故の最大の要因で、それは普天間基地がある限り変わらない、と言える。

7年前の沖国大にCH53Dが墜落した原因は、第一海兵航空団司令部の調査で機体の整備ミスであるとされた。ヒューマン・エラーだ。
その背景に、中東へエセックスが展開する直前の、時間を切られたきわめて多忙な整備の状況も事故報告書から覗える。睡眠不足で手が震 えて、テール・ローター・ブレードの調整に助けを求めた兵士がいたことも、事故報告書に触れられている。
事故報告書には、勧告の1番目に「勤務時間のガイドラインを、航空機整備要員のため、第1海兵航空団の標準運用手順の中に至急設定す ること」があげられている。

オスプレイが仮に配備されたとしても、ディプロイメント直前の整備の負担の過重さは同じだろう。ヒューマンエラーが起きてエンジンが 停止することは、稀だから無視するのではなく、起こりうるものとして対策を講じなければならない。それがあの事故の教訓だ。

7年前のCH53Dの事故のときに、事故機はオートローテーションの状態で落ちてきた。あの大事故による死者が出なかったのは奇跡に 近いが、特にヘリの乗員の生命が助かった陰には、CH53Dヘリの落下速度を緩和したオートローテーションの寄与があったことは確かだ。
オスプレイがオートローテーションで「降って」来たら、下降スピードは事故機の2倍程度になることが、CH46との対比から類推される。 スピードが倍になれば、地上に激突したときの運動エネルギーは4倍だ。
乗組員だけでなく、周辺住民に多大な被害が及ぶことは間違いない。

最後に、オートローテーションで安全に着陸できないことと、国内の法体系の問題について考える。

アーサー・レックス・リボロ氏は下院委員会公聴会で以下のように述べた。
「オスプレイが民間の輸送機だったら、連邦航空局の基本的な耐空性の要求を満たせない、ということの重大性はほとんど無視されている」 「連邦航空局の耐空性要求は、軍用機には適用されないが、それと同等の要求が、乗客を運ぶ軍用機全てにこれまで課せられてきた」
要するに米国内で本来飛べないはずの輸送機だったのだ。

では、日本でオスプレイは民間の輸送機として耐空証明はとれるのだろうか?
航空法施行規則付属書第1は、耐空証明を取得するのに必要な基準のうち、強度・構造・性能についての基準が示されている。
第2章 飛行、2−2 性能、2−2−4 着陸 の3項目目に
2−2−4−3 回転翼航空機は、全発動機が不作動である状態で、自動回転飛行により安全に進入し及び着陸することができるものでなけれ ばならない。
と規定されている。
オートローテーションで安全に降りられないオスプレイは、日本の法令でも耐空証明が取れず、民間輸送機として飛行することが出来な い。

地位協定と航空特例法で米軍は、航空法第11条[耐空証明を受けた航空機以外の用途禁止]の適用を除外されている。
適用除外だからといって、その飛行が危険であることに変わりはない。

そもそも耐空証明は、航空機の安全な飛行を確保するものだ。生産国の米国でも耐空証明が取れず、日本国内でも取れないオスプレイが、 普天間基地を中心に飛び回ることの危険性は、これまでの軍用機の飛行とはレベルの違うものだ。 (了)(次稿は、目次、資料一覧)

(RIMPEACE編集部)


2011-10-9|HOME|