風前のともしび、普天間基地場周経路の日米合意 (3)

750メートルはみ出しても安全、の根拠は?

はみ出し飛行の危険性を無視する飛び方も許せないが、もう一つ指摘すべきことがある。
日米専門家の「技術的・専門的観点からの分析」によるとされる「現行の場周経路を飛べば、緊急の際にもオートローテーションで飛行場内に帰還できる」という結論が、オスプレイにもあてはま るのだろうか?

オスプレイのデータに目を向ける前に、報告書では、どんなデータをもとに750メートルの距離をオートローテーションで降りてこられる、といっているのか検証しておこう。


オートローテーション・チャート。最小下降速度、最長到達距離の時の速度が読み取れる(報告書付録より)

報告書作成段階で普天間で飛んでいるUH−1とCH−53の大小2機種についてのオートローテーション・チャートから話は始まる。
同チャートはオートローテーション時の垂直方向の下降スピードと水平方向の飛行スピードをそれぞれ縦軸、横軸にして、実際にオートローテーションで下降中の垂直方向、水平方向のスピードを 2次元のグラフにプロットしたものだ。機種によって若干差があるが、垂直方向のスピードが最小の時(もっともゆっくり降りてくる時)の水平方向のスピードより、最小スピードを超えた方が 水平方向のスピードは増す。そして到達距離が最大となる水平方向のスピードは、垂直方向の下降速度が最小の下降速度より少し増えた時だ。

高度1300フィートからのオートローテーション・チャートが、報告書作成チームに米軍から提供されたと見える。それによれば最大滑空対気速度の場合、UH−1もCH−53も高度ゼロに なるまでの到達距離は1海里(1,852m)、最小降下速度の場合の到達距離はUH−1で7/8海里、CH−53で3/4海里だそうな。(あくまでもパイロットが最適の操作をして、という前提 だが)

この4つの到達距離の中の最小値(3/4海里)の場合を考える。普天間基地のヘリの場周経路の高度1000フィート、普天間基地の標高の250フィートから基地の滑走路との相対高度は 750フィートとなる。この高度差をオートローテーションで降りるときの期待される到達距離を考える。
3/4海里という到達距離は1300フィートから高度ゼロになるまでのものだから、到達距離が高度に比例すると仮定すると、1海里=6,076フィートとして

6,076 × 3/4 × 750/1300 ≒ 2,629 フィート (約790メートル)

安全係数を見込んで基地の境界線から750メートル以内を飛んでいれば基地内に到達できる、という結論にいたったと見える。

オートローテーションに入れながらコントロールできずに墜落したCH53Dの事故の再発防止策にはなりえない、という「異論」は、報告書作成チームの中で出なかったようだ。そもそも事故 の再発防止ではなく、現状のはみ出し飛行の「安全性の理論化」を目指したものだから、異論が出るはずもなかったのだ。

(RIMPEACE編集部) 


2012-8-15|HOME|