辺野古アセス「評価書」を評価する

真夜中に県庁守衛室に投げ込む、という異常な手段で「提出」された辺野古アセス評価書。
提出の仕方もひどいものだが、その中身たるや輪をかけたひどさだ。
「普天間飛行場代替施設」で設定される飛行経路、及びその結果としての騒音予測が、いかにデタラメなものかを防衛省の資料を基に検証 する。

「70WECPNL以下」の不思議・・・その1

評価書では騒音の予測結果について、次のように述べている。
「航空機の運航に伴い発生する航空機騒音について、キャンプ・シュワブ内と名護市豊原沿岸域の一部がW値70に含まれるが、それ以外 の地域はW値70を下回り、W値70の範囲内に集落はない」(琉球新報 12.1.8 評価書要旨)
また、防衛省による評価書の内容のブリーフィング資料では、「代替施設の周辺集落においては、航空機騒音に係る環境基準70WECPNL 以下となっている」と述べている。

WECPNL もしくはW値とは、航空機の出す騒音のエネルギーが、地表でどのようなレベルになるかを計算し指標化したものだ。
「航空機騒音の評価は、『航空機騒音にかかわる環境基準について』(昭和48年12月環境庁告示)によりWECPNL(W値)による こととされています。W値とは、音響の強度(デシベル値)だけではなく、その頻度、発生時間帯などの諸要素を加味し、多数の航空機に よる騒音が与える影響を1日の平均として総合的に評価するものであり、航空機騒音が周辺地域に与える影響を適切に把握できる評価単位 です」(広島防衛施設局長、平成18年7月3日、在日米軍再編問題に係る質問事項について(回答)、岩国市議会議長あて)
W値の説明に続いて広防局長は「航空機騒音が周辺地域に与える影響を把握するためには、飛行回数、飛行経路等に関し、年間を通じての 標準的な条件を設定し、これに基づいて行うことが適当で、気象条件についても同様と考えています」と述べて飛行経路の設定が、航空機 騒音の影響把握に決定的な要素であると指摘している。

このW値を出すフローチャートも、当時の防衛施設庁が作成した資料に掲載されている。「岩国飛行場に係る航空機騒音予測コンターにつ いて」(平成18年7月 防衛施設庁)は、岩国基地滑走路の沖合移転に伴う騒音の変化を住民に説明するために、広島防衛施設局があちこ ちで開いた「住民説明会」で配布した資料だ。「住民説明会」は上記の広島防衛施設局長の岩国市議会への回答と前後して行われた。 その中に、飛行経路、音響データ、飛行回数の3つのデータからWECPNLが導かれるまでのフローチャートが含まれている。


「岩国飛行場に係る航空機騒音予測コンターについて」(平成18年7月 防衛施設庁)で示された予測のフローチャート


では、辺野古のアセス評価書に載っている「W値70の範囲内に集落はない」という「結論」はどのようなデータに基づいて出されたのだ ろうか?
評価書に掲載されている飛行経路は、有視界飛行でのヘリと固定翼機の周回経路と、計器飛行による滑走路方向への進入・出発経路のみ だ。沖縄本島や近海に設定されている演習場、射爆場への往復、他の基地との往復に使われる有視界飛行の進入・出発経路が描かれていな い。また地上からの音声無線誘導のみで着陸させるときの経路(GCA経路)も未記載だ。
有視界飛行の進入・出発経路について沖縄防衛局は「米軍の運用なので現時点で決まっておらず、予測、評価は難しい」と答えたという (2011.12.29付 琉球新報)
同じ米海兵隊の基地・岩国で踏んだ(滑走路の運用時間の違いを無視した不十分な)手順さえ、沖縄では踏めないと防衛省が言っているの だ。

「W値70の範囲内に集落はない」という「結論」はいわば新基地に配備されたヘリやオスプレイは、演習場や他の基地には行かない、と いう全く非現実的な前提から導かれた数字を基にしたものだ。
演習空域、基地への飛行に用いられる有視界飛行の進入・出発経路が新基地の全体の飛行回数の中でどの程度の割合を占めるかを考えれ ば、この進入・出発経路を無視した「騒音予測」が予測になっていないことは、より鮮明になってくる。(続く)

(RIMPEACE編集部)


2012-1-19|HOME|