バリカタン24演習、「第1列島線」への米中距離ミサイル初配備も


4月7日、フィリピン・ルソン島に空輸された第1マルチドメイン・タスクフォースの中距離ミサイル・システム(USNI NEWS より)

4月22日からフィリピンで始まった大規模軍事演習「バリカタン24」には、約1万7000人の兵士が参加している。
米軍(米海兵隊、陸軍、海軍、空軍)1万1000人、フィリピン軍5000人、フランス軍とオーストラリア軍も小規模な部隊を派遣し、日本、韓国、ベトナム、インドネシアなどがオブザーバー参加している。
米陸軍は第1マルチドメイン・タスクフォース(宇宙、サイバー、電磁波作戦能力をもった多領域部隊)が、トマホーク巡航ミサイルと対艦・対空ミサイルSM-6を地上から発射する「タイフォンミサイルシステム」を持ってやってきた。アメリカ海軍協会ニュースは「第1列島線とインド太平洋地域への初めての配備となる」と報じている。

海軍は西海岸のサンディエゴ基地から、ドック型輸送揚陸艦サマセット(満載排水量25,300トン、揚陸部隊699名搭載可能)、ドック型揚陸艦ハーバーズ・フェリー(同17,009トン、同402名)、海兵隊はハワイから第3海兵沿岸連隊、空軍はF35ステルス戦闘機とF16戦闘機、戦闘ヘリを派遣しているが、残念ながら機数は不明。

訓練内容は極めて実戦的、攻撃的である。
高機動ロケット砲システム・ハイマースを米軍のC-130輸送機と揚陸艦のエアクッション艇で搬入する「急速浸透訓練」。敵対勢力に占拠された島を奪還する「反撃上陸演習」、実際に沖合に浮かべた艦艇を実弾攻撃する「撃沈演習」が含まれている。


揚陸艦サマセット(LPD 25)のウェルデッキで、エアクッション艇に乗船するために待機する海兵隊員(NAVY.MIL 24年4月27日)


南シナ海で訓練する米海軍のエアクッション艇(NAVY.MIL 24年4月28日)

バリカタン24のもう一つの特徴は訓練海域の拡大である。
フィリピンの領海を越えて、排他的経済水域での演習を実施した。
25日から29日までフィリピン南西部にあるパラワン島西方の南シナ海で演習が行われた。
中国とフィリピンが領有権を争う南沙諸島の直近海域での演習である。29日には中国軍の艦艇2隻が演習海域に進入して、米仏比の艦艇を追尾する行動をおこなった。フィリピン海軍の軍艦は対艦ミサイルを、フィリピン空軍は対空ミサイルをはじめて発射した。幸いなことに軍隊同士の衝突はなかった。

しかし、30日には中国海警局の巡視船2隻が、フィリピンの巡視船に放水、同船の乗組員が負傷した。米海軍は5月1日、フィリピン海に展開していた原子力空母ルーズベルトを南シナ海に移動させた。




南シナ海に展開した原子力空母ルーズベルト(CVN71)。電子戦機EA-18Gのメンテナンスをしている(24年5月2日NAVY.MIL)

防衛省はバリカタン演習に4月22日から27日までの6日間、はじめて空自をオブザーバー参加させた。
「航空自衛隊は、IAMD(統合ミサイル防空)に係る専門家交流に参加し、米、豪及び比の参加者との間で、IAMDに関する取り組みや関心事項について情報交換を行いました。また、現地の地対空ミサイル部隊との交流を通じ、地域における防空及びミサイル防衛について相互理解を深めました」と控えめな発表をしている。


バリカタン24に参加した空自隊員と、フィリピン軍、米軍の兵士(航空自衛隊FBより)

4月11日の日米比共同声明は、来年のバリカタン25に言及している。

「東南アジアの地域パートナーとの共同訓練の機会を特定し、実施することを意図する。我々はまた、いかなる危機や偶発的事態にも備え、その対応にシームレスかつ迅速に協力できるよう、バリカタン2025を含む三か国又は多国間の活動に統合され得る、日比米の人道支援・災害対応訓練を立ち上げる。我々は、先日完了した日本、フィリピン、米国及び豪州間の海上協同活動のような、日米比三か国間及びその他のパートナーとの間の海軍種間の共同訓練・演習を通じた協力や、フィリピンの国防近代化の優先事項に対する米国及び日本の支援を連携させることにより、三か国間の防衛協力を推進することを決意する。我々は、2025年に 日本周辺において海上における訓練を実施することを予定している。
また、日本は、新たな政府安全保障能力強化支援の協力枠組みを通じて引き続き貢献する。米国及びフィリピンは、地域における抑止力を強化する共同開発・生産を通じた協力を増進する、日本の防衛装備移転三原則及びその運用指針の改正を歓迎する」

 フィリピン軍のルクディン少将は、「大規模な民間人の退避訓練は人道支援訓練に含まれ得る」と発言し、「台湾有事」には約15万人いる台湾在住のフィリピン人労働者を退避させることを検討していることを明らかにした。 ブラウナー・フィリピン軍参謀総長は、日本・フィリピン円滑化協定締結後の自衛隊の協力に期待していると発言している。(「日刊まにら新聞」4月26日)

 バリカタン25はさらに広範囲な演習にする、との方向性が打ち出された。
防衛省・自衛隊の中でも、憲法9条の制約を意識しながら、自衛隊の参加形態が検討されているようである。
なお、バリカタン以外の米比合同演習には、自衛隊は何度も水陸機動団などの部隊を派遣し、2019年には交通事故で1名の死者を出している。

(木元 茂夫)

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