木更津の米軍オスプレイ・メンテ、仕切り直し(4)

米軍、戦場のオスプレイ修理にも民間技術者派遣可能な契約を目指す

 「定期MRO以外の機体の修理に契約者のメンバーを急派する。派遣場所は西太平洋および必要ならばその他の地域も」という契約内容は驚くべきものである。契約の時点で、派遣地域を限定せ ず、技術者を急派することを義務づけているからだ。

21世紀の冒頭、2002年から2010年初頭まで続いたインド洋・イラク派兵、海上自衛隊の艦艇は繰り返し故障を起こし、民間企業からその修理のために技術者の派遣が行われた。
海上自衛隊の幹部はNHKのインタビューに 「実任務の現場では、優先されるのは米軍への洋上補給の任務であり、各艦艇はそれに合わせて行動を決めていかねばならない。いつ、何が必要とされる のか、こちらが決めることはできない」(NHK報道局「自衛隊」取材班『海上自衛隊はこうして生まれた』2003年)。米軍の都合に合わせて海自は動き、それに合わせて技術者の派遣が行われた。

当時、国会でこの派遣を問題にした川田悦子議員は、2002年12月6日、質問主意書を提出している。政府答弁書は言う。
「平成14年11月以降に派遣した護衛艦「きりしま」及び補給艦「ときわ」においても、民間企業による修理等の実施が必要であると判断される不具合が発生したことから、防衛庁において、 民間企業と契約を締結したところである」。

「きりしま」はイージス艦のはじめての海外派兵となったが、横須賀出港は2002年12月16日、防衛省が不具合を確認したのは12月18日、出港からわずか2日後である。そして、民間企業に修理を 依頼したのは2003年1月6日である。そんなのんびりした対応だったのだろうか。

 そして、イージス艦「きりしま」の任務は、インド洋に派遣された海自補給艦の護衛だけではなかった。
当時、海上幕僚監部防衛部長であった香田洋二は「イージス艦によるディエゴ・ガルシア島の防空の関係については、派遣部隊による行動が継続中の今、私の立場からは何も言えない。私が言った ことの行間を読んで理解してほしい」(前掲書)と取材のNHKの記者に話している。
インドの南方に浮かぶディエゴ・ガルシア島、4000m滑走路と港湾施設をもつ、アメリカ軍のインド洋最大の拠点である。イラク戦争開戦の時期には、B-52爆撃機やB-2爆撃機がこの島から出撃した。

「きりしま」が防空任務を担ったのは、まさにその時期なのである。私もつい最近までこの事実を知らなかった。
横須賀出港時に何故、アメリカ海軍が「ご武運をお祈りします」と書いた横幕を掲げていたのか、ようやく納得がいった。

 当時の防衛庁はあくまで個別契約であったと答弁しているが、「実は2001年10月にテロ対策特措法案がまだ国会に提出されただけの段階から、すでに水面下で準備が進んでいた。 航空自衛隊や海上自衛隊から主要な防衛産業(軍事産業)企業およそ20社に、海外での修理体制の確立、緊急時の連絡網整備、技術者の派遣準備、パスポートの取得などが要請されていたのだ」 (吉田敏浩『ルポ戦争協力拒否』2005年 岩波新書)。
石川島播磨重工業の労働組合大会で、この派遣を問題にした組合員は組合執行部から、「どこでそれを知った」と厳しい詰問を受けた。
組合員の権利保護より、軍事機密の保護が優先されたのである。

政府答弁書はさらに言う。「護衛艦「あさかぜ」の修理等に係る契約においては、防衛庁の保有する特別防衛秘密(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和29年法律第166号) 第1条第3項に規定する特別防衛秘密(平成14年10月31日以前の法律上の呼称は「防衛秘密」)をいう。以下同じ。)の保護のため、特別防衛秘密の保護に関する特約条項を設け、仕様書の 秘密区分を「特定防衛秘密(秘)」とした上で、特別防衛秘密の取扱いを行うことができる民間企業の従業員により平成14年7月10日までに修理等を行ったものである」

  特定秘密保護法が施行されている今日、防衛省からの要請はさらに強硬になることが予想される。オスプレイは日本国内での訓練だけではなく、アメリカ軍の強襲揚陸艦に搭載されれば、世界 各地に派遣される。そうしたアメリカ軍の「都合」で、技術者の派遣が拡大していく可能性大である。

こうした契約内容は、日本国憲法第18条「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」、 第22条 の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」に違反するものであり、意にそわない戦場での勤務を強制することは許されない。

(ファイト神奈川 木元 茂夫)


2002年12月16日、出港直前の「きりしま」(右)、横幕掲げたアメリカ海軍のカーチス・ウィルバー(左)(木元 撮影)


2019-1-6|HOME|