なぜ拙速に?普天間事故「報告書」は事故原因を確定していない


8月13日に起きた、沖縄国際大学への海兵隊輸送ヘリCH53Dの墜落事故について、米軍が行った調査の報告書が10月5日の日米合同委員会第2回事故分科委員会に提出され、関連自治体や報道機関に8日付けで公開された。一読して気付いたことがある。これは、聞き取り調査の報告であり、証言を裏付ける物証の調査報告は入っていない。

後部ローターの油圧システムを駆動部とつなぐボルトが抜けて、ローターの角度が制御できなくなり、ヘリの後部を破壊した。(中略)これが起きた可能性が一番高い一連の流れだが、そのことは回収された墜落機の部品の一つ一つについての技術的な調査(engineering investigations)によって確認されるだろう。(8月20日聞き取り。米ノースカロライナ州チェリーポイント基地、海軍航空デポH53サポートチームから派遣された2人の航空エンジニアの話。Page 166 of 210)

この報告書をまとめた Winfield Scott Carson 海兵隊中佐(以下、カーソン中佐)の聞き取り調査も、ボルトが抜けた原因に集中している。ボルトの抜け落ちを防止するコッターピンという金具が、飛行前にボルトに差しこまれていたのかどうか。事故原因究明の最重要ポイントだ。ここで、証言は2つにわかれる。
二人(伍長と兵長)が、コッターピンは点検前に抜いたが,その後だれからも再挿入の指示を受けていないと言っている。一人(別の兵長)が、コッターピンは入っていることを確かめた、と話している。
そのあとに、カーソン中佐は、「技術レポート(engineering reports)が、この兵長の話しが間違いだと証明することを私は信じている」とコメントしている。(調査実施者の意見の項目5. Page 19 of 210)
  最後の部分の原文は、"Although LCpl --- states that he confirmed that the cotter pin was in, I believe that engineering reports will confirm that LCpl --- is mistaken."となっている。"believe","will"という単語に注目してほしい。カーソン中佐がこの報告書を書き上げた時点で、技術的な調査の結論が出ていないことを示している。

どんな事故調査でも、聞き取り調査と技術的な調査は車の両輪だ。どちらが欠けても事故原因は確定できない。今回の事故の場合、コッターピンが抜けていた原因が、万が一、コッターピンの破損によるものという技術的な調査の結果が出たらどうなるのだろうか。これは、事故機だけの問題ということではなくなる。全てのCH53Dのコッターピンの金属疲労の調査からはじめなければならない。当然ながら、技術的な調査の終了前に、普天間基地から残った5機を飛ばすなどという結論は絶対に出てこない。

今回公表された報告書には、外務省・防衛施設庁名で「事故調査報告書の概要」(10月8日、A4一枚)が添付されていた。その中にこんな一節がある。
「事故発生原因は整備不良によるものであった。(中略)コッター・ピンはテール・ローター・サーバーの接続ボルトに正しく装着されていなかった(以下略)」事故原因の中核部分だが、報告書の中身を見れば、この部分について技術的な検証が終わっていないことがわかる。どの部分を翻訳するとこういう訳文になるのか、不明だ。

普天間基地での飛行再開にゴーサインを出すために「お墨付き」がほしくて、あえて結論を先走ったのか、それとも外務官僚の読解力が不足していたのか。前者ならば、意図的な改ざんであり影響は重大だ。
後者ならば...、「事故を機に勉強をサボ」っているのは、町村外務大臣が率いている外務官僚の方ではないか。


(RIMPEACE編集部)


'2004-10-18|HOME|