事故報告書を読む「パイロットの腕が良かった」からじゃないヨ、町村サン!

8月26日に米軍の司令官が「三人の乗員が制御不能な状況下で、人のいないところにヘリをもっていったというすばらしい功績があった」と述べてヒンシュクをかった。こんどは、墜落現場を視察した外務大臣が「被害が重大にならなかったのは(米乗員の)操縦技術も上手だったと思うが、よく最小被害にとどまった」と話した。事故報告書が出た後の10月16日のことだ。この報告書を主管する外務省は、きちんと報告書を読んでいないのではないか、と思わざるを得ない。

パイロット(海兵隊大尉)とコパイロット(同中尉)の聞き取り調査レポートが、事故報告書に含まれている。それによれば、滑走路と平行に南西方向に120〜130ノットのスピードで飛行しているときに異変が生じた。制御できない右・左旋回が続き、パイロットが緊急事態を宣言した(14時17分45秒、報告書の交信記録による)。機体の向きが180度回転したので、自動操縦を切ってオートローテーションに切り替え、メーデーをコールした(14時18分02秒、同)。オートローテーションで到達可能な範囲にサッカー場があったが、子供たちがいたので着陸候補地から外した。(10月7日に沖国大や宜野湾市に対して米軍が口頭で行った事故報告によれば、これは沖国大のグラウンドで、学生がサッカーをしていた、とのこと)
なお、交信記録によれば、14時18分06秒に聞き取り不能の交信を管制塔が受信している。
「まるで木の葉が木から落ちるような感じだった。中尉は降下中に人家や障害物を避けようとした。機体はビルに巻きつくように回った」コパイロットの中尉は、墜落直前の様子を、このように語っている。

オートローテーションというのは、空中でエンジンが停止したときのヘリコプター特有の緊急着陸手段だ。ローターをフリーにして、機体が降下する時に生じる風でローターを回して浮力を稼ぎ降下速度をゆるめるものだ。オートローテーションに切り替えたときの高度と、初期速度により、到達可能な範囲がほぼ決まる。ヘリ操縦教程で最初に教わるものだそうだ。

厚木でもどこでもヘリのいる基地では、滑走路の横の草地でオートローテーションの訓練をしているのをよく見かける。けっこう高いところからスーッと降りてくるが、訓練の場合は後部ローターも機能しているので、機体が回転することはない。しかし、後部が無くなったヘリの姿勢制御は無理だ。メインローターの回転と逆向きに機体が回転するから。

普天間基地内でCH46ヘリの操縦席にいた海兵隊大尉は、飛行中の事故機の動きがよく見える位置にいた。事故機が妙な動きをはじめたあとで「大尉は事故機がメーデーをコールするのを聞いた。L字型の部分が機体から離れてまっすぐ落下した。ヘリはクルクルと回転して、飛行しているようには見えなかった。事故機は向きを変え機首を下げ、右回りにらせん状に落ちていった。一回転半ほどしながら落ちたところで視界から消えたが、直後にオレンジ色の火の玉が見えた」(大尉に対する聞き取り調査レポートより)

パイロットたちの証言とプロのヘリ操縦者の目撃証言の両方が、通常の操縦でも、緊急措置のオートローテーションでも、機体は制御不能だったことを示している。パイロットには密集地を避ける意志があったことは間違いないだろう。ただし、機体が言うことを聞かなかった。
普天間基地への着陸直前に後部が脱落したヘリは、パイロットがどんなに腕がよくても同じ結果が待っている。そして今回のように民間人の死傷者がゼロという奇跡が2度続くことはないだろう。

(RIMPEACE編集部)


'2004-10-20|HOME|