安部墜落オスプレイの事故報告書を読む(3)


事故機の飛行経路図(事故報告書付属文書 Encl22 "YORON divert information brief" の図を筆者がリライトしたもの)
(Operational Navigation Chart,ONC H−13の一部[報告書の図と同じ範囲]を使用した)

2016年12月13日に安部の海岸に墜落したオスプレイ(コールサイン Dragon 06)は、夜間空中給油訓練中に給油機のホースの先の注油口(ドローグ)がオスプレイの右のブレードにぶつか ったのがもとで、しばらく飛行した後海中に突っ込んだ。
オスプレイのプロペラがドローグと衝突した場所は、与論島の空港から南東に8海里弱の場所だった。なぜ与論空港に緊急着陸しなかったのかは、だれもが抱く当然の疑問だ。

オスプレイの乗員が機内に携行する緊急事態対処マニュアル(A1-V22AB-NFM-500)には「給油ホースやその他の部品が機体にヒットする場合がありうる。プロペラにぶつかると致命的な結果 になりうる。」と示されている。まさに事故機に起きた致命的な結果だ。そして対処方法として「厳しい機動を止め、機体を制御できるかどうかをチェックして、できるだけ速やかに着陸 せよ」と指示している。

「できるだけ速やかに」着陸するには、最も近い飛行場を探すはずだが、事故報告書付属文書 Encl22 "YORON divert information brief" には、以下のメモが残されている。
「退避する空港について、ブリーフィングもなかったし、フライト・スマートパックにも入っていなかった。給油のドローグがぶつかったとき、事故機(Dragon 06)は与論空港の滑走路 から8海里未満しか離れていなかった。クルーが選んだのは、58海里以上離れた普天間基地に向かうことだった。着水地点までの飛行距離は、おおよそ40海里だった。」

また、事故報告書の本文には「(236)ドローグがぶつかったとき、事故機(Dragon 06)は与論空港から8海里以内にいた。 (237)Dragon 06のパイロットたちは、世論空港の近くにいると 認識していなかった。 (238)Dragon 06は相変わらず南に向かった....」

この日のフライトは、まず奄美大島の低空飛行ルートを飛び、沖縄本島に戻ってくるコースだ。奄美大島との間にある与論、沖永良部、徳之島の空港について、ダイバートの可能性を 考慮しない飛行計画は、杜撰すぎる。一方で当日の事故機の細かな飛行データを記述したフライト・スマートパック(Encl.20)には、この3つの空港の通信周波数が特記されている。 与論空港へのダイバートについてパイロットが考慮しなかったのは、ブリーフィングのミスなのか、パイロットの不注意なのか、報告書の墨塗りの部分に何か書かれているのだろうか?

いずれにせよ、空中給油時に起こりうる緊急事態として、ドローグがプロペラにぶつかるというそのものズバリの想定に対して、マニュアルの対処法「できるだけ速やかに着陸せよ」は 実行されなかった。緊急時のマニュアルさえも遂行できない事態が起きていたのだ。(続く)

(RIMPEACE編集部 頼 和太郎)


2017-10-31|HOME|