相模補給廠の事前備蓄物資は動かなかった
−−朝鮮半島向けのAPS4−−


相模補給廠に保管されているさまざまな備蓄物資は、今回のイラク戦で動かなかった。Army Prepositioned Stocks(APS)−4と名づけられた膨大な物資は、もともと朝鮮半島有事の際に韓国に持っていくために保管されているのだ。

事前備蓄装備はじっと備蓄しておくのが戦略的に正しい。また、「空母の空白」を避けて、カールビンソンを日本海などに回航しておくほど、北朝鮮・アメリカ間の緊張は高まっている。事前備蓄の装備を西太平洋以外の戦域に動かせるはずもなかった。

95年1月の阪神大震災の時は、事前備蓄品と思われる毛布やテント、水を入れた容器が補給廠から連日横田基地に向けて運び出された。横田基地と大阪空港の間を米軍のC130輸送機が毎日10往復以上飛んだ。このときでさえ、相模補給廠の物資を支援にあてることは、たまたま来日していた米統合参謀本部議長経由で国防長官の許可をとる必用があった。あの地震が現在のような状況下で起きていたら、米軍の支援は期待できなかっただろう。


今回のイラク戦に関係して、相模補給廠の動きで目だったものは、コンテナに入ったベースキャンプセット(Force Provider)を中東方面に運び出したことだけだった。このベースキャンプセットは昨年9月から10月初めにかけて送り出されたが、補給廠に搬入されたのが一昨年の10月。一時保管に近い形で、中東むけに送られていった。(02.9.24相模補給廠から搬出[写真左]、02.9.29本牧で積み込み[写真右])

91年1月に空爆が始まった前回の湾岸戦争は、イラクのクウェート占領が引き起こしたもので、米軍の動員はかなりあわただしいものだった。相模補給廠からは、艦隊病院セット(海軍移動病院)、トラック、大量の鉄板、化学防御服などが中東向けに搬出された。鉄板や化学防御服は陸軍事前備蓄の一部だった可能性が強い。

今回は、ベースキャンプセット以外には目立った動きは無かった。開戦するかどうか、開戦の時期などを米軍側が一方的に決め、それに合わせて本国から装備を送り込んだ。相模補給廠の事前備蓄物資には、お呼びがかかるはずも無かった。こんなところにも、今回の米軍の「一方的な開戦」の特徴が出ている。

APS−4の存在とその意味は?
すでに15年前に、在日米軍基地に在韓米軍向けなどの軍事物資1万トンが保管されていることは、明らかになっていた(読売88.2.4)。しかし、今でもこの事実が一般的になっているとは言いがたい状況だ。戦闘機や空母の動きは語られても、実際に戦争の行方を決定するであろう軍事物資の補給の流れについては、ほとんど触れられていない。
今回のイラク戦では、補給の重要性についてテレビなどでも語られ浸透してきた。相模補給廠に蓄えられているAPS−4と朝鮮半島との関係について、米軍の資料を中心にまとめておくのにもいい機会だとは言えよう。


2枚の図は、ともに米陸軍資材コマンド(AMC)が作成したもの。左は横浜ノースドック(YND)に陸軍舟艇を運び込む準備会議の報告書の一部。相模補給廠(SGD)にも資材の一部を運ぶ計画なので同時に表示されているが、ここではAPS4の貯蔵施設と紹介されている。右は、全世界の米陸軍事前備蓄の配置図だ。全世界で5つ配備されている米陸軍事前備蓄(APS)のうちの太平洋備蓄がAPS−4で、韓国と日本に分散されていると表示されている。

米国のシンクタンク Global Security Org.(GSO)は「APS4は太平洋戦域用で、韓国と日本に備蓄されている。機甲大隊2個と機械化歩兵大隊1個からなる旅団の装備だ。主要な保管修理施設は、韓国のキャンプ・キャロルと日本の相模補給廠だ」とまとめている。

"Asia Pacific Defence Forum Summer 02" の Foal Eagle 2002 報告には、米本土の旅団が空輸でやってきて、韓国の外からやってくる物資と、韓国の備蓄基地でドッキングするという説明が、APS−4を使用する例として書かれている。
GSOによれば、キャンプ・キャロルにはテントから戦車まで一個旅団分の装備がある。2つの倉庫にはそれぞれ58両の戦車が保管されている。

実際に相模補給廠にどんなものがMP-4 Stocks として備蓄されているかは、在日米陸軍の第35補給支援大隊(相模補給廠に配備)の紹介ページに載っている。補給廠全体の保管物資の先頭に"Army Prepo Set-4 (Sagami) "が書かれている。そのほか、内陸部石油配送システムや移動病院セット、戦場携行食などもあげられている。(先にあげたForce Providerのセットも、ここに書かれるはずだと思うが、その前に中東方面に搬出された)

PS−4の保管物資としては7分類の品目があげられている。

CLASS I - MREs and T-rations
CLASS II - Tentage, body armor, cots, clothing
CLASS III - Oil, grease
CLASS IV - Concertina and barbed wire, lumber, sandbags
CLASS VII - Vehicles, engineer equipment, weapons
CLASS VIII - General Medical Supplies
CLASS IX - Vehicle, communications and weapons repair parts


食料、衣服、油脂、陣地構築用資材、車両・武器、医薬品、補修部品などが、相模補給廠の広大な倉庫群の中に保管されている。

米軍が戦争を起こせば、在日米軍基地は必ず影響を受ける。ヨコスカのように出撃基地にさえなる。だが、その動きとは別の方向にじっと目を凝らしている在日米軍部隊もいる。

(RIMPEACE編集部)

(参照したサイト)
AMC/USARPAC AWRP Execution Plan Briefing 23 May 2002 横浜ノースドックに陸軍舟艇を運ぶ事前打ち合わせの資料。この他、このときの米軍各部隊のレポートがGSOライブラリーに収録されている。
AMC Tactical Wheeled Vehicle Conference 1 February 1999
Asia Pacific Defense Forum Summer 2002
Materiel Support Center, Korea (MSC-K)
U.S.Army Japanのインデックスの24ページ


'2003-4-13|HOME|