米陸軍の訓練システムと戦闘指揮訓練センター


GAO報告に採録されている、"Army Force Generation"(ARFORGEN)の解説図

「今の戦闘訓練センターでは、(再編後の旅団戦闘チームを基本とした)陸軍部隊に、必要なローテーション配備をするための能力が 不十分かもしれない、と陸軍当局は認めた」
陸軍の訓練についてのGAO報告(2007年8月,GAO-07-936)の結論の部分に含まれている指摘だ。

米軍再編のメーンテーマは陸軍の再編だった。基本戦闘単位を師団から旅団規模にして、旅団戦闘チームに改編した。師団司令部は 指揮下の旅団から切り離され、司令部と旅団戦闘チームの組み合わせは自由化された。
正規軍だけでなく予備軍(予備役部隊、州兵)もローテーションに組み込まれて戦地に派遣されることになった。

正規軍なら3年に一度の戦地派遣、州兵なら6年に一度、というローテーションのモデルを "Army Force Generation"(ARFORGEN)と米陸軍 は名づけた。GAO報告(2007年8月)に採録されている上掲の図から、陸軍各部隊のローテーション・モデルがうかがえる。
このモデルでは、正規軍部隊の旅団戦闘チームの3分の1が戦場にでていることになる。しかし実際は半分近い旅団戦闘チームが同時に 戦地に行っている。このように同報告書は指摘した上で、このモデルのローテーションでは2010会計年度までに36個の旅団戦闘チーム に訓練させねばならないが、戦闘訓練センターは28個分の訓練しか提供できない、と決め付けている。

陸軍の訓練は、ライブ、バーチャル、コンストラクティブの3つから構成される。
「ライブ・トレーニングは実働訓練だ。実弾射撃場やある軍事基地内に限定された演習場で行われる。大部隊で行うのには限界があり、 通常中隊又は大隊以下の規模で行われる。
バーチャル・シミュレーション・トレーニングは、精巧なシミュレーターを使って、兵士、指揮官、部隊に実際と同じ訓練経験をさせる。 シミュレーターは、仮想の状況の中で兵器システムになり代わって機能する。そして演習の規模を拡大することもできる。 世界中のシミュレーターの中で訓練する兵士で、部隊を構成することもできる。
コンストラクティブ・シミュレーション・トレーニングは、コンピュータ・モデルを使用するゲームタイプのシミュレーションだ。 このツールにより、指令系統のどの部分にいる指揮官も、無理のない状況設定の中で通常の戦争遂行能力を訓練することができる」
(US ARMY Combined Arms Center, Live,Virtual,Constructive Training より)

ライブ・トレーニングは、実際に兵士を演習場で動かす訓練。
バーチャル・シミュレーション・トレーニングは、航空機や車両の運転のシミュレーター、ゴーグルをつけて映し出される状況に反応 していく訓練などが該当する。
コンストラクティブ・シミュレーション・トレーニングは部隊の配置や動きを記号で画面に表示したり、多国籍軍の部隊運用の問題点を 画面に提示して対応を考えるなどの対話型の訓練などが該当する。

バーチャル、コンストラクティブの2つの訓練は電子的な環境の下で行われる。米陸軍の基地にどんどん建設されている戦闘指揮訓練 センター(BCTC)は、まさにこの2つのデジタル・トレーニングの場を提供する。
「BCTCはデジタルトレーニングを提供する施設だ。ライブ・バーチャル・コンストラクティブトレーニングの環境にリンクし、個々の 兵士や部隊の訓練を支援する。新しい施設は、増大する戦闘をシミュレートする訓練や近接戦闘訓練のシミュレーションもできる」
2009会計年度 陸軍省予算見積もり(陸軍軍事建設)、 相模補給廠・戦闘指揮訓練センターの項目より)

相模補給廠に建設が計画されている戦闘指揮訓練センター(BCTC)は、陸軍部隊の訓練能力の不足を補うために建設が進められている 訓練施設の一つなのだ。
そこで再度の疑問点を掲げる。そんなに必要に迫られている施設を、陸軍兵士が少ない在日米軍の基地に作るのだろうか。自衛隊が使う ことも前提としているこの施設の建設の狙いは、米陸軍兵士のトレーニングより、陸自隊員に米軍が中東で行っている戦闘を、 バーチャル・トレーニングで体験させることにあるのではないか。

(RIMPEACE編集部)


'2008-10-14|HOME|