陸上自衛隊と米陸軍戦闘指揮訓練センター
ハワイ・スコフィールドバラックス・戦闘指揮訓練センターでのバーチャル・トレーニング。
バグダット市街地でのハンビーの運転(左)とハンビーの上でのマシンガン操作
(StarBulletin 2006.2.19 , Virtual combat より)
2004年1月、陸自の先遣隊がイラクに入った。小泉元首相は、米高官から「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と迫られてイラクへの陸自
派遣に踏み込んだ。「自衛隊の行くところが非戦闘地域だ」という詭弁を弄しながら。
「非戦闘地域への派遣」の枠組みから踏み出せない自衛隊に対して、表面的には「国際貢献」を評価した米国は、本音のところでは何を
考えていたのだろうか。
2003年11月の大統領声明から始まった世界的な米軍再編の主要な狙いの一つは、イラク、アフガンに投入できる陸上兵力を増やすた
めの、陸軍部隊のモジュール化だった。
正規軍部隊を旅団戦闘チームをベースに組み替え、予備軍も戦地派遣のローテーションに組み入れるというやりくりで、中東への派遣部隊
の増派に苦労している米政府・米軍に、「同盟国・日本の地上兵力」陸上自衛隊は金城湯池に映っただろう。
自衛隊の戦地派遣を防いでいるのが憲法9条だ。と同時に、自衛隊が実戦を経験していないことが、
「政治的なくびき」を脱した後の自衛隊派兵の最大の問題となることも、米軍は十分認識しているはずだ。
日本国内で自衛隊の海外派兵を容認する世論が大きくなるときに備えて、米軍は軍としてのリアリズムに
基づき、自衛隊のイラク、アフガンへの派兵もバックアップできる訓練環境を日本に整えることが必要だった。
「在日米陸軍司令部の改編に伴い、戦闘指揮訓練センターその他の支援施設が、米国の資金で相模総合補給廠内に建設される」(再編実施
のための日米ロードマップより)
唐突に発表されたこの戦闘指揮訓練センターは、自衛隊が共用するものだった。
「座間基地広報によると、相模総合補給廠(しょう)(相模原市)に建設予定の「戦闘指揮訓練センター」については、現在入札に向け準備
が進められている。設計は最終段階に入り、09年の夏前に着工、完成は10年秋の予定という。センターでは、陸上自衛隊ともコンピュ
ーターを使ったシミュレーション演習を行う」(08.9.10 毎日/神奈川)
「米陸軍は相模補給廠に戦闘指揮訓練センターを建設する。この施設では、第1軍団と陸自の2国間訓練と即応体制維持のための、最新の
コンピューター・シミュレーションを行う。」(「日米同盟は米軍再編を支える」在日米軍司令官ライト中将ほか、米国防大学の紀要,
2007年第1四半期号)
ロードマップを読んだとき、なぜ米国の資金で戦闘指揮訓練センターを作るのか、理解できなかった。また米軍再編の話しが出たときに、
これまでの座間の第9軍団司令部を復活させるのではなく、なぜ第1軍団に置き換えるのかも納得できる説明がない、と感じていた。
米軍が自衛隊を取り込むことが隠された米軍再編の狙いだった、という視点で見ると、これらの疑問は氷解する。実戦訓練を「指導」するの
は、後方支援が主任務の第9軍団ではなくて、太平洋地域を責任範囲とする戦闘部隊の第1軍団司令部の仕事だ。
座間に創設された第1軍団前方司令部が指揮統制機能を発揮する対象は先ず、陸上自衛隊だ。
また、自衛隊のシミュレーション・トレーニングは緊急の課題であり、とかく遅れがちな日本政府が資金を出す工事よりも、スケジュール
を管理しやすいように自前の資金で作る必要があったのだ。
「デジタルトレーニングを提供する施設」とされる戦闘指揮訓練センターは、米軍兵士・指揮官が必要なバーチャル・トレーニングの環境を
作り出す。ハブ・スポークの構造で、コンテンツはハブ組織のセンターから末端の訓練センターに届く。在日米陸軍が管理する戦闘指揮訓練
センターだけ、平和憲法の制約を受ける訓練内容になるとは考えられない。
今、実際に自衛隊をイラクなりアフガニスタンの戦闘地域に派遣することはできない。しかしバーチャル・トレーニングならば、中東の
戦地での待ち伏せ攻撃に対処する訓練をしても、表面化しにくい。
訓練のツールが相模原にできる。米政府の意思として「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」は常に求められる。派兵の条件を整える訓練
センターに今、自衛隊は「おいで、おいで」と誘われている状況だ。
兵士の訓練は一朝一夕に完成するものではない。今から海外の戦地への自衛隊派遣の訓練が、バーチャル・トレーニングとして人目に
触れない形で開始されるとすれば、それは平和憲法を欺くものにほかならない。
(RIMPEACE編集部)
'2008-10-18|HOME|