相模補給廠に作られる

任務指揮訓練センターと陸上自衛隊−2

韓国戦闘シミュレーションセンター(KBSC)について、業務記述書(Performance Work Statement、以下 PWSと略)では、バック グラウンドとして以下のように述べている。
「KBSCは在韓米軍/第8陸軍により1991年9月に創設された。米韓統合司令部、在韓米軍、第8陸軍、在日米陸軍の司令官や参謀、 隷下の部隊や指揮下の統合軍、韓国軍、陸上自衛隊その他の部隊に対して、費用対効果に優れたトレーニングを提供する。そのトレー ニングは、現行及び開発中の兵器システムの複雑さや射程の長大化がもたらす制限を取り払えるものであり、演習場が狭くなった こと、戦場に投入される期間の長期化、訓練費用の増加に対応するものだ」

またKBSCのミッションとして、米韓統合司令部に戦域レベルのシミュレーションを使った訓練を行うこと、第8陸軍や第二歩兵 師団の演習を支援すること、に続いて、在日米陸軍に対するシミュレーション支援、が挙げられている。
KBSCは創設時から韓国と日本に駐留する米陸軍のシミュレーション訓練を行う組織と位置づけられてきた。日本国内におかれる 任務指揮訓練センター(MCTC)が、KBSCをハブとしてつながっていくのは、必然的なものだったといえる。

上記PWSの記述から、KBSC創設時の1991年以来、米軍がコンピュータ・シミュレーションを用いて陸上自衛隊の訓練を支援する ことが視野に入っていたことがわかる。
当時も今も陸上自衛隊が韓国国内で演習を出来るわけもなく、KBSCによる陸自の支援は、日米合同演習の際のシミュレーション のサポートが中心だったと見られる。
2012年1月から2月に伊丹駐屯地を中心に行われる日米合同指揮所演習ヤマサクラ61でも、米軍側の支援部隊の中に、KBSCがあち こちで登場する。(下図、ヤマサクラ61のデザイン、APAN資料より)

神奈川県相模原市の相模補給廠内に、旧称戦闘指揮訓練センター(現、任務指揮訓練センター、MCTC)が造られることが決まったの は、2006年5月の日米政府による「米軍再編の最終合意」の中だった。
KBSCの業務記述書(PWS)によれば、サガミMCTCの主要任務は、在日米陸軍部隊に常駐部隊の任務指揮訓練を行うことだ。
在日米陸軍の兵士の数は空軍、海軍、海兵隊と比べて桁違いに少ない。それでも日本にシミュレーション・トレーニングの施設を新設する 必要があったのだろうか。
「米軍再編の最終合意」の前後で在日米陸軍に大きな変化があったのは、第一軍団前方司令部のキャンプ座間への移駐だ。では、この第一 軍団前方司令部要員が日常的にシミュレーション・トレーニングを行うために、サガミMCTCが作られたということだろうか。

軍団は師団をいくつか束ねた上部組織だ。まさに「師団レベル以上のシミュレーション演習」が前方司令部要員に必要な訓練であり、それ はハブであるKBSCで行われる訓練だ。スポークであるサガミMCTCがシミュレートするような戦闘の現場で指揮をとるのは、軍団司 令部ではない。
やはり、在日米陸軍にシミュレーション・トレーニングを行う、というだけでは、1700万ドル全額を米国が負担して建設したサガミ MCTCの機能とはつりあわない。

あらためて、1991年9月に創設されたKBSCの目的の一つ、「陸上自衛隊に対する訓練を提供する」を注視しなければならない。
KBSCの下にあるサガミMCTCが、陸上自衛隊に対するシミュレーション訓練の場となることは、KBSCの設立目的から考えれば 十分すぎるほどありうる話しだ。

米国は自衛隊をイラクやアフガンに出すことを以前から日本政府に求めていた。次回はその側面から、サガミMCTCが陸上自衛隊のシ ミュレーション訓練の場となる可能性について取り上げる。(続く)

(RIMPEACE編集部)


ヤマサクラ61の米軍側の支援部隊(赤丸は筆者)


2011-8-3|HOME|