米陸軍第1軍団前方司令部が座間にいる意味は?

1ヵ月ほど前の9月9日、第1軍団前方司令部司令官・在日米陸軍司令官のフランシス・ワーシンスキー准将は、日本の報道陣に対して 「フォートルイスの第1軍団司令部と前方司令部は別の組織であり、軍団司令部は今のところキャンプ座間に来る予定はない」「前方司令 部は指揮統制機能が中心」と語った。

専従が100人前後の前方司令部と本体の司令部が別物であることは言わずもがなだが、では前方司令部の機能と言っている指揮統制とは、 具体的にはどんなことなのか。
4年半前に第1軍団の司令部機能の一部がイラクに展開したときに、任務が何だったかを見てみよう。

「2004年2月4日、第1軍団司令部の一部が朝鮮戦争以来初めて前方展開任務に就いた。
タスクフォース・オリンピア(TFO)は04年1月に北部イラクのモスルに展開した。101空挺師団から北部イラクにおける 多国籍軍とイラク軍の指揮・調整を行う任務を引き継いだ。
TFOには米陸軍正規軍、予備役、州兵の代表と、米海兵隊とオーストラリアの将校が参加していた。司令部は2つの部隊の仕事を 調整した。一つは、米陸軍最初の2つのストライカー旅団戦闘チームとそれを支援する工兵、民間人対策部隊、通信部隊など、もう 一つは1万2千人を超えるイラクの治安部隊だった。
イラクの治安部隊には、イラク市民防衛隊4個大隊、何千人もの施設警備隊、そして正規軍一個連隊が含まれていた。
1年以上イラクに展開した後、2005年2月にタスクフォース・フリーダムと第11機甲連隊に北部イラクの軍事管理を引き継いだ。」
(第1軍団の歴史("I Corps History")より)

タスクフォース・オリンピア(TFO)とは、イラク北部3県を責任エリアとする多国籍部隊だ。約100人の司令部エレメントと、 約6000人のストライカー旅団戦闘チーム(第2歩兵師団第3旅団、米軍で最初のストライカー旅団戦闘チーム)と約2000人の 支援部隊が米軍から加わっている。そのほか、アルバニアの部隊もいる。そして多数のイラクの治安部隊がいる。(TFO司令官カーター・ハム准将 2004.3.9 テレビ記者会見記録ほかより)

同会見記録の中でカーター・ハム司令官は、もっとも優先順位の高い課題の一つは、イラクの治安部隊の能力向上を支援することだ、 と言っている。「われわれ米軍は、イラクの警察官やイラク市民防衛隊の指導者たちへの正式な教育課程を通じて、また歩哨ポストで 共同で任務に就くなどの非公式な協力態勢をしきながら、この治安部隊の能力向上を支援していく」
平たく言えば、フセイン態勢崩壊の後の治安の壊滅状況の中で、米軍と一緒に動ける、もしくは米軍が撤退しても米軍が行うのと同様な 「治安維持」ができる軍隊を育てる、というのが前方司令部の最大の任務の一つ、ということだ。

では、キャンプ座間にやってきた前方司令部の持つ指揮統制機能とは、何を対象にしたものだろうか。もちろんイラクの状況と日本の 状況は違うが、現地の兵隊、つまり陸上自衛隊を米陸軍と同じように戦争ができる、もしくは「力による治安維持」ができる部隊に変えて いくことが、座間に第1軍団前方司令部が展開してきた最大の理由ではないのか。

前方司令部のワーシンスキー司令官は、8月29日に星条旗新聞の記者に、次のように語っている。
「第1軍団前方司令部がやってきて、在日米陸軍基地の中に兵士、車両、装備が少し増えたかもしれない。しかしその変化は無視できるも のだ。
決定的な変化をもたらすのは、まもなく相模補給廠に建設される battle symulation center(戦闘指揮訓練センターのこと、筆者注)だ」 ("Wirercinski:Being prepared is key" 2008.9.2 星条旗新聞

自衛隊も利用するという戦闘指揮訓練センターができれば、何が決定的に変わるのだろうか。

(RIMPEACE編集部)


'2008-10-11|HOME|