「純子の見聞録」元気ネットワーク2002年5月
「漠然とした不安から」
今日は毎月予定している高齢者施設の訪問日でした。先月伺ったときにはまったく元気のなかった87歳の入所者が今日はうって変わって明るい表情になっていました。暖かな季節が彼女をそうさせたのでしょうか、昔話に花が咲きます。記憶が薄れていることが多い中で何よりも先に話されたのは戦時中のこと。病弱だった夫の徴兵検査は丙種だったこと。その夫に赤紙が来たのは終戦間際でみんなに見送られて駅まで行ったがそのまま帰宅が許され、その後すぐに終戦になったことなどを話してくれます。そばにいた76歳の女性も「そうそう、そうだったね」と思い出し、同じ職場の男性も重度の心臓病で丙種だったが、終戦の年の4月に徴兵されたがあまりの身体状況からすぐに帰され、恥ずかしさと後ろめたさからしばらくの間、外に出られなかったことなど、戦争終盤には甲・乙・丙に関わらず総動員されるほどの状況だったことを話してくれます。
戦後50数年を経過する中で、戦争を知らない世代が大半を占めるようになりました。当然私も知らない世代であり、戦争というものがどのようなプロセスを経て引き起こされるのか実感としては分かりません。しかし戦前の状況を知る人々の中には知らず知らずにずるずると戦争への道を辿った戦前の状況を周辺事態法、テロ対策関連法の制定、有事関連3法案、メディア関連3法案と続く現在の日本の状況に重ね合わせ、実感として強い危惧感を口にされます。
最近、地域経済の振興と題して国の担当者の講演を聞く機会がありました。経済のグローバリゼーションにおける日本経済の現状に関連して防衛問題に触れられました。「自国の国益を守るための軍隊について考えない国は世界中どこにもない。国益を考えないことにおいては軍国主義と非武装中立の双方において同じくらい無責任である。真に国益を考えるなら戦争など起こるはずがない。」
はたしてそうでしょうか。この発言に対して「国益とは何か」「戦争が起こりえない抑止力となりうる軍備の規模をどう考えるのか」「軍需産業という経済活動をどう評価するのか」といった質問が出されました。
わが市の経済状況は長引く景気低迷によって大変厳しい現状にあり、ますます基地経済に期待する発言が多くなっています。テロ対策特別法に基づく海上自衛隊のインド洋への派遣、全国初の有事即応部隊「西部方面普通科連隊」の陸上自衛隊相浦駐屯地への配備を歓迎する隊員の中心商店街のパレード、近海での潜水艦救難多国籍訓練のため、佐世保基地を出港する各国の潜水艦と、矢継ぎ早に慌しい状況を目の当たりする中で、今国会で審議入りする武力攻撃事態法案には地方公共団体の責務、国民の協力義務が規定され、自由と権利が制限されることが明記されています。対処法整備は先送りされ、具体的影響さえイメージできないまま、漠然とした不安が現実のものになっていくことを基地の街に暮らす私たちはいま想像をたくましくしなければなりません。
橋本純子(佐世保市議)