海外邦人輸送訓練 佐世保で

 − 自衛隊法改定後初の実動訓練 −

 海外の紛争地から民間人を退避させる「邦人等の輸送訓練」が11月10日、昨年の横須賀での訓練に続き、佐世保の海上自衛隊施設と周辺海域を使って行われた。
 昨年の訓練が「準備的訓練」であったのに対し、今回の訓練は武装兵員、艦艇やヘリコプターを使った、事実上初めての実動訓練であった。


「混乱した外国の港湾」に見たてられた海自崎辺地区



 − 崎辺から立神へ −

 訓練の内容や経過を概略だけ説明すると次のようになる。
 海上自衛隊崎辺地区を混乱した外国の港湾に見立て、外務省が作成した名簿に基づき集められた「在外邦人」を、湾内に停泊した補給艦「はまな」と掃海母艦「ぶんご」(警戒艦「うみぎり」)に小型舟艇で収容し、公海に見立てた佐世保港沖に移動し停泊。また、「沖合の公海」に停泊した輸送揚陸艦「おおすみ」(警戒艦「くらま」)に対潜ヘリ(SH−60)で航空輸送し収容、停泊。洋上で一泊後、国内の港湾に見立てた海上自衛隊立神桟橋に入港。確認の後下船し訓練終了。陸上では小銃などで武装した陸上自衛隊員が警護と支援にあたった。
 これだけ見ると、外国での武力行使は、避難民の保護のためだけの、限定したものと思われる。しかし、この訓練のために行われた事前の「練習(トレーニング)」を観察すると、様相は少し異なってくる。


海自立神桟橋に停泊する「はまな」(手前)




 − 空を見上げてみると −

 今回、「おおすみ」への航空輸送に使用されたSH−60はもともと対潜用のヘリで、人員輸送用には出来ていない。おそらく1機に8〜10人の「避難民」を乗せるため、かなりの機材を取りはずしたものと思われる。では、人員輸送用のヘリコプターは自衛隊にはなかったのだろうか。輸送揚陸艦「おおすみ」には輸送ヘリが搭載できるのではなかったのか、という疑問が湧いてくる。  以前には、佐世保上空を飛びかうヘリコプターといえば、HSS−2BあるいはSH−60という、対潜作戦用の機種がほとんどであった。ところが、この訓練の日程が明らかになった頃から、佐世保上空には日没後を含め時間帯を変えヘリコプターが飛来するようになった。
 確認できただけで前記2機種のほか、UH−1(攻撃・輸送両用機)、AH−1(攻撃機)、CH−47(中型輸送機)、OH−1(偵察・観測機)が数機で組み合わせを変えながら編隊を構成し、佐賀県・目達原陸上自衛隊基地方面から佐世保沖合海域にかけて飛びかっていた。その飛行フォーメーションは輸送機あるいは偵察機を攻撃機が防御する編隊そのものである。明らかに単なる「避難訓練」の枠を超えた偵察・輸送・攻撃のための戦闘行動の訓練であったものと思われる。


− 姿を隠した外務省 −

 パスポートに記載のとおり、海外での安全確保は、一義的には滞在国の責任であり、それを滞在国に要請し、また旅券所持者に安全を保障しているのは外務省である。
 毎年、米韓合同訓練「フォール・イーグル」と時期を同じくして行われている米国人の韓国からの避難訓練(NEP=非戦闘員退避計画)は国務省の主導するプログラムで行われ、輸送手段(航空機など)や警備に一部軍隊が参加してはいるが、軍事作戦行動とは別のものとして行われている。
 したがって、今回の在外邦人輸送訓練も、当然のことながら外務省が主務官庁となり計画を推進するものと思われた。事実、昨年横須賀で行われたこの訓練では、外務省が前面に出る形で取り組まれた。
 しかし今回は外務省は避難者の名簿提出など限られた任務に顔を出しただけで、ほとんどの訓練課程を自衛隊に「まる投げ(下請け)」させていたようであった。
 98年、米国の「非戦闘員退避訓練」が韓国−福岡空港−佐世保基地を結んで行われた。(これ以前にも毎年、岩国基地などを使って訓練しているが) 韓国から福岡空港までは米空軍の大型輸送機を使った退避が行われ、更に佐世保基地までは米軍のバスにより「避難民」が輸送された。外国に軍隊を配備し、様々な国で様々な理由により戦闘行動を行っている国の政府としては、「自国民の保護」のためには当然のプログラムかもしれない。
 しかしそれでも、福岡から佐世保までという第3国の主権のもとでは、武力や警察力などの公権力を米国政府は行使していない。  今回の民間人退避訓練では、あたかも「自国民の保護のためには当然。」「自衛隊単独だから問題ない。」あるいは「武装は小銃程度。」と偽装し、背後では武装ヘリなどの派遣を想定しながら戦闘訓練を繰り広げている。


 − 自衛隊の派遣より非軍事の枠組みを −

 アジア太平洋地域の安定化への模索が不十分ながらも進みつつある今日、日本の軍事力(自衛隊)の存在と強化は、地域の軍縮の障害であることは明白になっている。「安保瓶のふた」論や「南北統一後の在韓米軍の駐留継続」が日本の軍事力に対するアジア諸国の不安に根ざしていることは言うまでもない。
 「思い遣り予算」で巨大化した軍事施設を自衛隊が「取得」することは、アジアの非軍事化のためには決して許されない。  憲法の改悪と戦争への道を許さないため、軍事基地のない地域再生計画を作り上げよう。  


'2000-12-6|HOME|