佐世保から見たMEDEX演習

市民ネットワークさせぼ発行「月刊 元気ネットワーク」9月号より


佐世保の医療倉庫。右上に佐世保軍港が広がる


沖縄・ホワイトビーチにある医療倉庫。左後方に佐世保から来た揚陸艦が見える


 8月にはいって、神奈川県相模原市にある米陸軍相模総合補給廠で移動病院展開演習へ向けた準備が始まっていることが、リムピース運営委員でもある金子豊貴男相模原市議会議員の調査で明らかになった。

 MEDEX2000と称されるこの訓練は、92年以降、米本土基地の相次ぐ閉鎖に伴い日本国内4箇所(佐世保、相模原、沖縄・勝連、同・北谷)に持ち込まれた野戦病院セットを使ったはじめての訓練であり、訓練場以外を使った演習としても極めてまれなケースとなった。

 佐世保基地にも相模補給廠とタイプは違うものの、やはり野戦病院セットが船越町の医療倉庫に保管されており、相模での訓練が佐世保基地に連動する可能性もある。

 そこで今回は、相模の訓練と佐世保基地の医療倉庫についてレポートします。


- 相模補給廠と佐世保基地 -

 相模補給廠は在日米陸軍の総合補給廠として、ベトナム戦争では戦車や大砲を含んだ総合的補給基地として位置付けられ、一方佐世保基地は、米海軍の艦船修理、燃料、弾薬補給基地としてベトナム戦争に深くかかわってきた。

 しかし冷戦終結後は米軍の整理統合の中で、その任務範囲も変化して生きていた。

 たとえば、米海軍と海兵隊が主力となって行う米韓合同訓練「フォール・イーグル」に陸軍用の事前集積艦が物資を運んだり、佐世保基地から排出されたリサイクル物資が相模に運ばれる、あるいは三沢の空軍基地に佐世保基地から航空燃料を運び込むなどの「統合運用」が当たり前の状況となっていた。

 このことについて米海軍の広報は「効率的運用のため」と説明している。

 今年6月に横浜から運び出そうとして大問題になったPCBなどの一部は佐世保基地から運び込まれたものである可能性が高い。

 米軍の基地縮小や部隊の整理統合が時代の主流である中では、「思いやり予算」で手厚く保護された日本国内の基地であっても組織の改編は避けてとおれなかったようだ。

 当たり前のことだが、佐世保基地を含む日本・韓国の基地は一つのものである。


- 野戦(移動)病院設備とは -

 野戦病院セットは大きく分けて2種類に分けられる。1つはコミュニティゾーンに展開するもの、もう一つはコンバットゾーンに展開するもの。

 両者の違いは名前のとおり前者が安全な後方支援地域に設置することを想定しているのに対し、後者は戦闘地域に近いところで進出し展開される。

 コミュニティゾーンに属するの移動病院セットが保管されてあるのは日本国内では相模総合補給廠と沖縄県キャンプ・フォスターのもので、相模などに保管されているセットはその性格から保管場所に展開し五百床ほどの病院を設置することを想定してある。

 つまり、保管場所が突如として巨大な病院に変身するということになり、基地周辺にとっては少なからぬ影響が出ることが予想される。

 一方、コンバットゾーンに属する野戦病院セットが保管されてあるのは佐世保基地と沖縄県ホワイトビーチ海軍基地である。いずれも海軍基地に保管してあるところからも、実際の使用場所はより戦闘地域に近い場所(コンバットゾーン)での使用が想定されている。

 佐世保基地の場合船越町の医療倉庫には300個のコンテナと60台ほどの救急車両が収められている。それぞれのコンテナは手術室や検査室、回復室などが組み込まれ、除染・除菌から衛生設備に給食設備さらには入院病室が備えられており、コンテナをつなぎ合わせると総合病院規模の医療施設が出来上がるということである。

 このセットを広げるのに要する広さは300メートル四方ほどといわれている。佐世保などに保管されている病院セットはフリート・メディカル・サポートあるいはフリート・ホスピタルと呼ばれ、輸送艦で必要な地域に運ばれる。 


- 佐世保基地でも訓練が? -

 しかし、もともとこのような設備を佐世保基地に保管しておく必要があるのだろうか。

 佐世保基地あるいはホワイトビーチに設備は、必要に応じて輸送艦あるいは事前集積艦で戦闘地域に隣接した場所に運ばれることになっているが、日本に運び込まれる前は、一部は事前集積艦(MSCの輸送船ストロング・バージニアンのような)に積み込まれて港で待機し、あるいは陸上の基地でいつでも運び出せるような状態で保管されていた。

 しかし、92年から始まった米本土の基地閉鎖のため、これまでの基地から移動せざるを得なくなったという。佐世保とホワイトビーチに運び込まれた野戦病院セットは、カリフォルニア州オークランドおよびテキサス州オーランドの2つの基地からそれぞれ運び込まれた。

 公式の理由は『前方配備』ということだが、戦闘用の物資ならいざ知らず、病院設備を前方に配備する必要があるのかという疑問が出てくる。つまり、コンバットゾーンがどこでコミュニティゾーンがどこか確定する前は動けないのだし、それまでは輸送の準備期間となるのだから、わざわざ管理と維持作業の不便な『前方』にデポする必要はないものと思われる。

 このことについてコンテナや車両を佐世保とホワイトビーチに運び込んだ米軍関係者は率直に語ってくれた。いわく『オークランドとオーランドの基地が閉鎖になるので、どこか保管場所を探していたら、ちょうど日本の基地に場所があった。』

 この事情は恐らく、相模補給廠や沖縄キャンプ・フォスターでも同様であろう。とすれば、相模と同様に佐世保基地でも展開訓練あるいは輸送搬出訓練が行われる可能性がある。金子相模原市議会議員が問題として指摘していたように、補給施設が訓練場に変わるということである。

 今回の相模補給廠で始まった野戦病院展開訓練は、こと相模原市の問題だけに終わらないだろう。佐世保基地を抱える佐世保市の市民としても一層注意していきたいと思う。


(篠崎 正人、RIMPEACE編集委員)

'2000-9-23