「標的」の軍艦、横須賀と晴海埠頭に入港



晴海埠頭に入港した中国海軍のイージス駆逐艦・太原(19.10.15 木元 撮影)

防衛省が奄美大島に配備し、続いて宮古島、石垣島に配備を狙っている12式地対艦ミサイル、それが標的としているのが中国海軍の艦艇だ。

 統合幕僚監部の発表によれば、7月27日に「宮古島の北約240キロの海域を南下」し、8月1日に5隻の軍艦とともに、「沖縄本島と宮古島の間の海域」を北上した、中国海軍のイージス駆逐艦旅洋V型「太原」が、海上自衛隊の観艦式に参加するために10日横須賀に入港した。横須賀軍港ではなく、隣の民間港・横須賀新港に入港したが、台風回避のためにあわただしく出港した。

14日に予定されていた観艦式は「災害出動を優先する」と言う理由で中止された。被災者そっちのけで、相模湾で観艦式などやれば、安倍内閣の支持率低下は目に見えている。彼らもそれほど愚かではないということだろう。

「太原」は14日に東京・晴海埠頭に入港、15日に関係者に公開を行った。まさに、自衛隊が「標的」としている艦艇が日本にやってきたわけで、現物を何としても見たかった。 晴海埠頭に接岸している「太原」を間近から見た。

緊張した表情で任務に当る若い水兵たちが、どこか痛々しかった。桟橋の入り口で立哨している水兵は直立不動だった。「それは辛いだろう」と思って見ていたら、30分ほどで士官と交替した。甲板上で銃身の短い小銃をもって警戒する水兵も硬い表情だった。公開にやってきた人の多くは在日中国人のようだった。親子連れでやって来た人もいた。

 地対艦ミサイルを撃つということは、彼らを殺すということだ。「太原」の乗組員は280名である。「島嶼奪回」を標榜しながら、実は中国海軍の牽制を狙う自衛隊幹部たちは、そういうリアリティをもっているだろうか。射程距離200キロメートルといわれる12式地対艦ミサイルは高い命中精度と破壊力をもっている。その配備が現実のものとなれば、中国もそれなりの対抗措置を取って来るだろう。

 中国の艦艇が少々太平洋に進出しようが、海洋支配など出来るわけではない。世界最大のアメリカ海軍でもそんなことは出来ないし、かつてのソ連海軍でもそんなことはなしえなかった。現実問題として、日米の艦艇の方が中国軍の何倍も太平洋で軍事行動を繰り広げている。

  「世界の艦船」11月号は、「現代海軍と島嶼争奪戦」という特集を組んだ。自衛隊OBが「島嶼防衛」のあり方を批判している。「島嶼争奪戦の本質とは? 」という論文で、堤明夫氏(元防衛大学校教授・海将補)は。

「「島嶼防衛」というのは防衛省、各自衛隊のみならず、警察や海上保安庁も含めて日本の防衛、安全保障としてどうあるべきかの整合、統一がとれておらず、そのために明確なコンセプトが存在しない。ゆえにそれぞれのところでバラバラに進んでおり、早い話が、各官公庁としての縄張り、勢力争いであり、予算獲得のための謳い文句に過ぎず、本来あるべき姿にはなってないといえるであろう」

「これまで海空協同訓練において艦隊防空として海上部隊に割り当てられた空自機の管制は、空自は乗艦して来た空自要撃管制幹部以外には絶対にさせてこなかった。空自曰く、要撃管制こそは、空自の要であると。しかしながら、“いずも”型においては動く海上基地での空自の“本土防空隊の感覚”ではだめなのである」

対中強硬論者だった元・自衛艦隊司令官香田洋二氏も 「一方、「自衛隊に一切の『外征能力』を持たせない」との政府方針は、自衛隊の兵力整備を理不尽に歪めたとはいえ、わが国の戦後安全保障政策の一端であったはずである。現下の島嶼奪回論に代表される勇ましい論議が、かつて厳しい自制的政策があった事実に蓋をし、深い掘り下げを欠いたまま、単に安全保障情勢の変化に流された安易な方針変更あるいは過去の政策の「取り下げ」であるとすれば、それもまた戒めなければならない。
 これに関する政府の方針変更や自衛隊の防衛構想に関する説明はなく、公表情報から判断するに、過去の経緯を語ることなく、島嶼奪還に代表される自衛隊の両用戦構想がひとり歩きしているようで一抹の不安が残る。」と主張。

また軍事評論家の岡部いさく氏は、住民避難の困難性を指摘し、「それもまず住民が避難に同意して、協力することが先決である。沖縄本島をはじめ、第2次大戦末期での地上戦闘を含む戦争の記憶が強く残る沖縄県や南西諸島で、住民に避難の必要を説いて納得を得ることには、大きな政治的な困難があるだろうことは想像に難くない」と書いている。

私はこれを読んで世論が変りはじめていることを確信した。それを引き出したのは、宮古島や石垣島のみなさんの抗議行動の積み重ねであろう。10月7日に弾薬庫工事のはじまった宮古島・保良鉱山跡地では、連日抗議行動が続いている。

(すべての基地に「No!」を・ファイト神奈川 木元茂夫)

■「太原」(131)の主要諸元 乗組員280名
東海艦隊(司令部 浙江省寧波) 2018年11月就役
  満載排水量 7,500トン、全長157m幅17m喫水6m  出力56,000馬力 速力30ノット
ミサイル垂直発射装置(VLS) 対空64セル、対艦18セル、130ミリ単装砲、短魚雷発射管
Zhi-9Aヘリコプター2機

■比較参考 イージス艦「あたご」 乗組員300名
満載排水量10,000トン、全長165m幅21m喫水6.2m 出力100,000馬力 速力30ノット
ミサイル垂直発射装置(VLS) 対空90セル、対艦ミサイル8基、127ミリ単装砲
短魚雷発射管、ヘリコプター格納庫 1機(常時搭載ではない)

■中国海軍最新鋭のイージス艦 055型 南昌(1番艦) 5隻建造中 乗組員280名
満載排水量 12,000トン、全長180m幅19m喫水6.6m ミサイル垂直発射装置(VLS) 対空112セル、巡航ミサイル/対艦ミサイル用VLS セル数不明、短魚雷発射管、
Z-8ヘリコプター 2機


2019-10-18|HOME|