米軍、オスプレイ飛行停止を解除


2023年5月28日、前日の夜に貨物船から横浜ノースドックに陸揚げされた3機のCV-22オスプレイ。
この3機の中の1機が、昨年11月に屋久島沖に墜落した機体だ(23.5.28 星野 撮影)


3月2日、オスプレイが木更津基地の格納庫の外に出ていた(24.3.2 星野 撮影)


米軍は3月7日、オスプレイの飛行停止解除を発表した。

重大事故を繰り返し、欠陥の存在が指摘されている中で起きた昨年11月の屋久島沖での墜落事故を受けて、米軍が全世界での飛行を停止していたオスプレイの飛行再開だ。

木原防衛大臣は3月8日の記者会見で、「昨日夕方、米側から、日本国内のオスプレイの運用再開のタイムラインについて、今後、具体的に調整を行っていきたい旨の連絡があ」ったと語った。

具体的な「調整」とは、木原防衛大臣が2月9日の記者会見で「オースティン長官からは、米国防省の関係部署に対し、日本国内のオスプレイの運用前には、必ず日本政府と調整を行うよう指示が出されている」と語っていた「調整」だ。
つまり、3月8日の時点では、オースティン米国防長官が言明していた日本政府との「調整」は、まだ何も行われていなかったということだ。
にもかかわらず、同じ3月8日に防衛省は「米軍オスプレイの運用停止措置の解除について」という文書を発表し、「当該不具合に対する各種の安全対策の措置を講じることで、安全に運用を再開できると考えています」と述べてしまった。
米軍の飛行停止解除発表とほぼ同時に、オスプレイは「安全に運用を再開できる」と断言することが、どうして可能なのだろうか。

3月5日の記者会見で木原防衛大臣は、「米軍オスプレイの飛行安全の確保のために必要な情報については、米側から情報提供をしっかりと受けて、私ども同種の機体を運用する防衛省・自衛隊としても、米軍のそういった対応が適切であると主体的に判断するに至ることが必要だと考えてますので、米側とは引き続き連携して確認作業を実施して、私どもとして適切に判断をしてまいります」と述べていた。

しかし、そもそも、オスプレイが「安全」に飛行できる機体だと「主体的に判断」するための情報とは何か、判断の具体的な基準は何か、どのような意思決定手続きを経てそれを判断するのか、防衛省は何も明らかにしてこなかった。

3月6日に「オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会」や「フォーラム平和・人権・環境」が行ったオスプレイに関する外務省・防衛省への要請行動の際にも、防衛省の担当者は、具体的にどのような基準によってオスプレイの飛行再開の可否を判断するのかについて、「予断を持って語ることはできない」を繰り返すばかりで何も説明しようとしなかった。

安全性に関して「主体的に判断」するためには、米側の情報に頼るだけでなく、機体の安全性に関する日本政府独自の調査や情報収集が必要なはずだが、日本政府は、安全性に関する独自の調査を行うことを放棄している。

3月6日の「オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会」や平和フォーラムの要請行動の際、外務省日米地位協定室の担当者は、「日米地位協定合意議事録17条10」で「日本国の当局は、通常、合衆国軍隊が使用し、かつ、その権限に基づいて警備している施設若しくは財産について、又は所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差押え、又は検証を行う権限を行使しない」と規定されており、「機体は軍事機密的なもの」であり米軍の財産であるから、米側が事故機の機体を回収したと説明した。事故機の機体が米側にある以上、日本政府は事故原因の独自調査を行うことができない、と主張したかったようだ。
また、この外務官僚は、外国軍隊を受け入れる「接受国」と軍隊の派遣国の間では、派遣国の軍隊については「通常」、受入国の法令ではなく派遣国の法令や裁判権が適用されるという「一般国際法」が存在するのだという主張も展開した。
どうやら、今回のオスプレイ事故については、外務省があると主張する「一般国際法」のために日本側の法令は適用されず、それゆえにオスプレイの事故原因や安全性を調査をする権限も日本政府には無いのだと言いたいようだった(そのような「一般国際法」が存在するのかどうかについては、ここでは論じないことにする)。
いや、正確には、日本側には調査の権限がないという主張をしつつ、外務省の担当者は、海上保安庁が「米側の協力により」「適切な調査をしている」という「説明」も付け加えた。
一方で日本政府には調査を行う権限がないという主張を縷々展開しつつ、他方で、海保が「適切な調査をしている」という、外務省のこの摩訶不思議な説明に対しては、当然、海保は一体何を調査しているのかという質問が出された。
外務省地位協定室の担当者は、「詳細については外務省は把握していない」と述べていたが質問を重ねられるとようやく、「機体回収前に、米軍の協力を得て機体の捜索を行った」ことだけが、外務省の言う、海保の「調査」の中身であることを明らかにした。そして、米側が機体を回収した現在は、海保の「調査」は行われていないことを実質的に認め、米側が調査していると繰り返した。

だが、そもそも墜落機の機体の捜索活動と、事故原因や機体の安全性に関する調査とは全く別のものだということは、誰にでも分かる自明のことだと思うのだが、どうやら外務省地位協定室にとってはそうではないらしい。

また、回収された事故機を現在どちらが保有しているかはともかくとして、そもそもオスプレイは、日本の空を飛び交う、自衛隊も保有している航空機だ。
何よりも自衛隊のオスプレイは米軍の財産ではなく、日本政府が保有しているものだ。
そのオスプレイが重大事故を繰り返し、機体や部品の不具合の可能性が指摘されているのだから、当然、日本政府、防衛省は、米側とは別に機体の安全性について独自の調査をすべきではないか、という質問が何度も出されたが、防衛省は、「米軍と連携していく」という答えにならないフレーズを繰り返すだけだった。

つまり、日本政府、外務省、防衛省は、オスプレイの安全性について、独自に調査も情報収集も行わず、米軍が提供する「説明」と「情報」のみに依存して判断するべきであると考えているのだ。
そして、信じがたいことだが、どうやらかれらにとってはそうすることが、オスプレイの安全性を「主体的」に判断することを意味しているようだ。


ところで、屋久島沖での墜落事故は、なぜ起きたのだろうか。

米海軍協会のUSNI Newsの3月8日付の記事「Questions Remain as Navy and Marine Corps Prepare to Return V-22s to the Air」は、昨年11月の墜落事故に関する調査について、どの箇所が壊れたのかについては明らかにされていないが、壊れた箇所は特定できたとされていること、しかし、なぜそれが発生したのかについては解明されておらず調査は続いていること、今回の事故はハードクラッチエンゲージメント(HCE)とは別の事象によることなどを指摘している。

つまり、なぜ、墜落に至る故障が起きたのかは依然として不明だということだ。そして、故障個所がどこなのかは説明しない、ということだ。
それにも関わらず、米軍は飛行を再開するというのだ。

米連邦議会下院の監視・説明責任委員会のジェームズ・コマー委員長(共和党)は、国防総省が3月7日にオスプレイ飛行停止を解除する方針を出したことに対して、声明を発表している。
声明でコマー委員長は、「国防総省は、この航空機(オスプレイ)の安全性について監視委員会と米国民に回答していないにもかかわらず、オスプレイの飛行停止命令を解除しようとしている。下院監視委員会は、オスプレイの安全性と性能に関する調査を数か月前から進めているが、その一環として国防総省に要求した適切な情報を、まだ受け取っていない。墜落防止のためにとられる方策に関する説明責任、透明性の全般的な欠如、メンテナンスと運用維持との優先順位の付け方、国防総省のリスク評価方法など、重大な懸念が残っている」と指摘し、「国防総省のオスプレイ計画を厳しく調査し続ける」と述べた。

つまり、米連邦議会の、オスプレイの調査に取り組んでいる委員会の委員長すら、「オスプレイの安全性について国防総省は回答していない」「適切な情報が提供されていない」「重大な懸念が残っている」とわざわざ声明を発するほどの深刻な状況が続いているということだ。

にもかかわらず、日本の防衛省は、米軍が飛行停止を解除するや否や即座に「安全に運用を再開できる」と述べてしまった。

オスプレイが行き交う空の下で暮らす人びと、そして、オスプレイに乗り組む人びとの生命や暮らしの安全よりも、米軍の言いなりになることの方が、日本政府にとっては大切なのだろうか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


3月8日付けで防衛省が発表した文書。「安全に運用を再開できる」と述べてしまっている。
防衛省HP、https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/03/08d.pdfより引用
オスプレイ飛行停止解除の動きに対する、米連邦議会の下院、監視・説明責任委員会ジェームズ・コマー委員長の声明
米連邦議会下院、監視・説明責任委員会HPより引用
https://oversight.house.gov/release/comer-statement-on-dod-decision-to-lift-osprey-grounding-order/


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