空中衝突の危険が迫る低空飛行訓練(1)

雫石上空空中衝突事故の教訓

1971年7月、岩手県雫石町上空で全日空機と自衛隊機の空中衝突事故が起き、全日空機の乗員・乗客162人が死亡した。この事故の後、軍用機の訓練空域と民間航空路が完全に分離された。 航空交通安全緊急対策要綱に基づくものだ。
この事故が起きるまで、軍用機の訓練空域と民間機の航空路が分離されていなかった。民間機とは全く違う機動をする軍用機が、民間機と同じ空域で訓練をしていたのが雫石上空空中衝突をもたら した。

米軍機・自衛隊機の訓練空域が航空路から分離され、訓練空域に向かうコリドーも設定されて、民間機と訓練中の軍用機が同一空域を飛ぶ危険性はなくなった、と思われた。
だが一つ残っていた。米軍機による日本国内での低空飛行訓練だ。ドクター・ヘリや防災ヘリ、切り出した木材を運ぶ仕事に従事するヘリなどが飛ぶ空域を、何倍もの速度で予告もなしに米軍機が 通り過ぎる。

新潟県で送電線工事の資材搬送に携わっていたヘリパイロットは、自機のすぐ下を米軍機が通過した体験を語った(NNNドキュメント’12「日本の空は今も占領下?」、以下NNNドキュメント と略)。気づいてから数秒で通過する、とても避ける時間はない、と元ヘリパイロットは言う。
オレンジルートを飛行する前に高知湾に墜落した岩国基地所属ホーネットの事故報告書の中に、異色の書類が入っていた。事故機から脱出したパイロットを救助した高知県レスキューヘリのパイ ロットたちが、岩国から来た海兵隊の調査官に「オレンジルートで米軍機に遭遇するが、彼らは我々が見えているのだろうか」と聞いている。

実際に米軍機の低空飛行訓練に間近で遭遇するヘリ・パイロットたちは、日常的に空中衝突の危険性を感じている。この危険性を解除するには、米軍機の低空飛行訓練ルートを民間ヘリの飛ぶ領域 から分離するしかない。しかし今の訓練形態をそのままに分離するのは不可能に近い。
これまで在日米軍の戦闘機などは、日本の航空当局とすり合わせをすることなく、米軍の都合で低空飛行訓練を行ってきた。大部分が陸上を通っている低空飛行訓練ルートでの飛行実態が変わらな ければ、訓練ルートを民間ヘリや公用のヘリの飛ぶ空域から分離するためには、ルートを米軍の排他的空域に指定するしかない。
そうなればルートの下で生活する住民たちのところにはドクターヘリも来れないし、林業を営むこともできなくなる。

在日米軍の低空飛行訓練について、日本政府が何を考えて行動している(もしくは、行動していない)のだろうか?次稿からは低空飛行訓練と日米地位協定についての日本政府の考え方について 触れることにしたい。

(RIMPEACE編集部)


事故を報じる新聞(1971.7.30〜31 朝日)


2013-1-12| HOME|