空中衝突の危険が迫る低空飛行訓練(2)

低空飛行訓練は、地位協定の想定外

沖縄県選出の玉城栄一衆議院議員(公明党)が1979年5月29日に「沖縄県における米国軍隊の軍事演習に関する質問主意書」を提出した。
その中の「三 米国軍隊が提供施設区域外で軍事演習を行うことが地位協定上可能か否か。 可能ならば法的根拠を示してもらいたい。」に対する政府の答弁は「合衆国軍隊の使用に供するため 施設・区域が提供されているわけであるから、同軍隊が本来施設・区域内で行うことを予想されている活動(通常「軍事演習」と称されるような活動を含む。)を施設・区域外で行うことは、 同協定の予想しないところである。 なお、合衆国軍隊の軍隊としての機能に属する個々の活動について、これが施設・区域外において認められるかどうかの点に関しては、個々の活動の目的、 態様等の具体的な実態に即し、同協定に照らして合理的に判断されるべきことと考える。」だった。(1979年6月21日付け)
提供施設・区域外での米軍の活動は地位協定の想定外であり、認められるかどうかは米軍の個々の活動の実態から判断されるべき、と日本政府は答えているのだ。

琉球新報社の取材チームがスクープした外務省機密文書「日米地位協定の考え方」増補版を、全文収録して高文研から出版した同名の本がある。その中で、提供施設・区域外での米軍の活動につ いて、米軍の行き過ぎた行動として「パラシュート降下訓練」「ヘリコプター昇降訓練」などをあげて、その都度米側に注意を喚起してきている、と外務省は述べている。では、墜落機が出たり ワイヤー切断事故なども起こしている米軍機の低空飛行訓練はどうなのか?米軍の行き過ぎた行動ではないのだろうか?

濱田健一衆議院議員(社民党)が1999年7月15日に「在日米軍による低空飛行訓練に関する質問主意書」を提出した。8月13日付けの答弁書で日本政府は
「日米安保条約が、我が国の安全並びに極東の平和及び安全の維持に寄与するため、米軍の我が国への駐留を認めていることは、別段の定めがある場合を除き、米軍がかかる目的の達成のため、 低空飛行等の飛行訓練を含め軍隊としての機能に属する諸活動を一般的に行うことを当然の前提としていると解され、政府は従来からこのように答弁してきているところである。」
と米軍の低空飛行訓練を当然視している。そのうえで
「一方、米軍は全く自由に飛行訓練等を行ってよいわけではなく、我が国の公共の安全に妥当な考慮を払って活動すべきものであることはいうまでもない。政府としても、従来から、日米合同委員 会等の場を通じ、米側に対し、安全確保に万全を期するよう申入れを行ってきている。米軍も、この点には十分に留意しており、低空飛行訓練を行うに際し、最低安全高度に関する法令を含め、 我が国法令を尊重し、安全面に最大限の配慮を払うとともに、地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう努めている旨明らかにしている。」
と答えている。ここで、米軍機が最低安全高度に関するする法令などを尊重(順守ではない)することで、日本の空の安全に妥当な考慮を払っている、というのは大きな間違いだ。

米軍機が最低高度150メートル以上で飛んでいたとしても、その空域は自治体や民間のヘリが飛ぶ空域だ。ヘリの速度と固定翼機の速度はまったく違う。高速で低空飛行訓練を行う米軍機は 「気づいてから数秒でヘリの下を通過する」ような飛行を行う。
速度がまったく違う航空機を管制もせずに同じ空域を飛ばせることが危険なことは言うまでもない。それは乗用車が走る公道をF1レーサーが全速で走るようなものだ。道幅が広いから安全だ、 ということにはならないし、仮に200キロを超えるスピードで走っても罪に問われないという「地位協定」があったとしても、正面衝突や追突の危険性が減じられることはない。

解決策があるとすれば、雫石上空空中衝突のあと、自衛隊機の訓練空域と民間航空路を分けたと同じような空域の分離しかないだろう。しかしそれは民間の暮らしや公共の安全のために使われて いた空域を取り上げて、新たに米軍へ提供することに他ならない。

(RIMPEACE編集部)


2013-1-13|HOME|