空中衝突の危険が迫る低空飛行訓練(3)

低空飛行訓練ルートの存在から目を背ける日本政府

「米軍の飛行ルートについては、米軍が飛行訓練の目的達成、飛行の安全確保、住民への影響抑制等の必要性を安定的に満たすとの観点から、一定の飛行経路を念頭において飛行することがあるこ と、及び最大限の安全を確保するため、米軍は、低空飛行訓練を実施する区域を継続的に見直していることは承知しているが、具体的なルートの詳細等については、日米合同委員会の場においても 確認しておらず、承知していない。具体的ルートの詳細等は、米軍の運用にかかわる問題であり、これらを明らかにするよう米側に求める考えはない。」(1999年8月13日付、濱田議員への答弁書より)

要するに低空飛行訓練のルートがあって米軍機が低空飛行をすることがある、と知ってはいるが、具体的なルートの詳細を明らかにするよう米側に求める考えはないのだ。米軍機の高度が150 メートル以上だという日本の航空法が定める最低安全高度の要件の一つだけを取り出して、低空飛行訓練が安全だなどとは絶対に言えない。
まず問題にすべきは、米軍機が低空飛行訓練でどこを飛んでいるのか、ということだ。それを知ろうともしていないと堂々と答えること自体が、米軍の低空飛行訓練にともなう空中衝突の危険を 認識していないことの現われだ。


高知県本山町役場の近くを低空で連続して飛び去る厚木の艦載機EA6B電子戦機(2011.12.19 本山町役場撮影)

米軍機が航空法の大部分を適用除外されているとしても、それは航空法によって処罰されたり責任を追及されたりしない、ということであり、日本政府が安全に責任を持つ「日本の空」で、航空法 に従って飛んでいる航空機に対する空中衝突の危険性までなくなるわけではない。
在日米軍が提供空域の外に勝手に飛行経路を定め、日本の航空秩序を無視した飛行を行っている低空飛行訓練の最大の問題は、同じ空域を飛ぶ航空機に対して空中衝突の危険性が常に存在すること だ。しかもその対処方法が、米軍側は「よく見て避けろ」だけであり、日本政府にいたっては飛行ルートの存在さえ知ろうとしない、いわば「臭いものにフタ」なのだ。

国土交通省設置法(平成十一年七月十六日法律第百号)の第四条(所掌事務) の 百六は、国土交通省の行う業務として「航空機の安全の確保及び航空機の航行に起因する障害の防止並びに航空機 の航行の安全の確保に関すること。」と定めている。
「航空機の安全の確保及び...」は日本政府の仕事だ。
米軍機の低空飛行により、最近も納屋が崩壊したり比内鶏が圧死したり「航空機の航行に起因する障害」が起きている。またヘリへの異常接近もこれまで何度もパイロットが目撃している。 「航空機の航行の安全の確保」が米軍機の低空飛行訓練により脅かされている。

岩手県は「県民の不安が払拭(ふっしょく)されない段階での訓練は容認できない」、山形県も「予告なしでは防災ヘリやドクターヘリの緊急運航の他、騒音や風圧の影響が懸念され、慎重に検討 してほしい」と防衛省に伝達。(2012.11.25 毎日新聞朝刊、クローズアップ2012)
オスプレイが低空飛行訓練を行うことに対する、ルート下の自治体の反対の声だ。
同じ空域を軍用機が事前通告もしないで飛ぶことで、防災ヘリなどとの空中衝突の危険が生じることを指摘している。


本山町役場の駐車場から見上げた、オレンジルートを飛行中の厚木のスーパーホーネット(2011.12.13 本山町役場撮影)

「航空機は、運航上の必要がないのに低空で飛行を行い、高調音を発し、又は急降下し、その他他人に迷惑を及ぼすような方法で操縦してはならない。」(航空法第八十五条、粗暴な操縦の禁止)
この条項も米軍機への適用を除外されているが、納屋をつぶしたり、林業のワイアーを切ったりすることが「他人に迷惑を及ぼすような方法での操縦」であることは間違いない。
「防災ヘリやドクターヘリの緊急運航に影響を与える」ことも同様に粗暴な操縦にあてはまる。
適用除外によってこの条項をもとに米軍機のパイロットを罰することは出来なくても、この条項で禁止されている「粗暴な操縦」がもたらす危険を日本の空域から排除する責任は、日本政府に残っ ている。
根本的な解決方法は低空飛行訓練をやめさせることだが、訓練ルートを防災ヘリなどが飛ぶ空域と空間的・時間的に分離することさえ、日本政府は試みようとしない。低空飛行訓練ルートがどこを とおっているか、米軍に問い合わせることもしない、と答弁している。

航空機の安全運航に責任を持つ組織が関知しないような、極めて危険な訓練方法を、米軍は本国でも採っているのだろうか?

(RIMPEACE編集部)


2013-1-15|HOME|