空中衝突の危険が迫る低空飛行訓練(4)

米本国での低空飛行訓練

米本国には、多数の低空飛行訓練ルートがある。有視界飛行方式軍用訓練ルート(VFR Military Training Routes、VRと略記)は、米軍が低高度飛行と低空作戦の訓練のために使うルートだ。 このルートを高度10,000フィート以下、速度250ノット以上で飛ぶ。

VRの中で、すべての区間を高度1500フィート以下で使用するルートが192本、一部区間では1500フィートを超える高度だがそのほかは1500フィート以下を飛ぶルートが128本、合計320本 が国防総省発行の飛行情報AP/1B Military Training Routes North and South America 2008.11.20 に掲載されている。

VRを含む軍用訓練ルートは、国防総省だけで決めているわけではない。軍用機以外の航空機の飛行を管理する連邦航空局(FAA)が発行している航空情報マニュアル2012.2.9には「軍用訓練 ルート・プログラムはFAAと国防総省の共同作業だ。軍用訓練ルートは、軍用機の低空高速飛行訓練のために共同で開発してきた」と説明されている。

軍用機が低空飛行訓練を行うに際しての手続きについて、国防総省は前掲のAP/1BのVRのスケジューリングと調整の項で記している。「通常、民間や他の軍組織が確認できるように、訓練ル ートの使用の少なくとも2時間前の通知が要求される。訓練ルートを使用するときは、民間機がその訓練ルートを避ける情報が得られるように、そのルートの100海里以内の自動飛行情報ステー ションに通知される」

米国内では、低空飛行訓練が行われるときは、そのルートに近づく可能性のある民間機のパイロットが情報を事前に得られる仕組みができているのだ。空中衝突の危険をさけるためには当然の仕組 みだが、日本での低空飛行訓練が誰にも知らされずに行われていることと比べれば雲泥の差だ。


VFR TERMINAL AREA CHART 1:250,000 ATLANTA の一部


上図の赤い枠を拡大。VR1054 という低空飛行ルートの表示がある。米国では積極的に公開している。

ルートを民間の意見を汲んで設定し、その場所を公開する。さらに訓練時間をその都度公表して民間機に訓練ルートに近づかないようにアドバイスする。「国の安全保障には航空機の抑止力が必用 であり、航空部隊は低空飛行訓練などさまざまな訓練が必要だ」(FAA航空情報マニュアル)として低空飛行訓練を当然のこととする米国でも、これだけの制限と安全装置をかけて訓練を行って いる。

それに対し、日本国内で行われる米軍の低空飛行訓練では、民間機との衝突を回避するためのシステムは無いに等しい。『低空飛行ルートは日本に駐留している間に所属機が低空飛行訓練を行うた めのものだ。これらのルートは運輸省(当時、訳注)航空局に認知されてもいないし(航空路誌などに)記載もされていない。
したがってこれらの訓練ルートは民間機のパイロットに公式に知らせる手立てがないし、この低空飛行ルートを飛行する際の障害物・危険物についての情報を更新することもできない。「よく見て 避ける」(See and Avoid)がこのルートを飛行する際に最も重要なことだ。』(COMNAVFORJAPAN NOTICE 3530, Low Level Navigational Training Routes 1994.3.14 より)

(RIMPEACE編集部)


2013-1-15|HOME|