空中衝突の危険が迫る低空飛行訓練(5)

「よく見て避けろ」は可能か?

「よく見て避けろ」が有視界飛行方式(VFR)で飛行する航空機の第一の安全策であることは間違いない。ただそれは、見えること、避けられることが前提だ。

在日米海軍司令部通知 3530「低空飛行訓練ルート」には、「よく見て避けろ」の後で「2機の戦闘機が木材運搬用のケーブルとぶつかったことがある、地上1200フィートに張られていること もあるケーブルを視認することは不可能だ」という記述がある。

オレンジルートに関係する別の事故調査報告書の付属資料に、墜落機のパイロットを海中から救出した高知県防災ヘリパイロットが、「米軍のF18が四国山地で低空飛行を行うが、ときどき我々 は、彼らが大変早い速度で我々から飛び去っていくのを目視することがある。大変気になるのだが、彼らの目に我々は映っているのだろうか。彼らは我々を目視確認しているのか、それとも通りす ぎる直前に我々を見つけるだけなのだろうか。彼らは実際我々を見ているのだろうか。」と海兵隊の事故調査官に聞いている記録が残っている。

自分たちには見えている低空飛行中の戦闘機から、はたして自分たちは見えているのだろうか、と疑うのは、あまりに速度差があるからだ。自動車免許の更新時の教習を思い出すまでもなく、 速度が速くなれば視野が狭くなる。法定速度60キロの車の10倍もの速度ですっ飛んで行く戦闘機の視野がどれほど狭いかは想像に難くない。低空飛行訓練中の戦闘機に「よく見て」という前提 条件がなりたたないのだ。


オレンジルートを飛ぶ厚木の艦載機EA6B(2010.3.18 本山町役場撮影)

「避けろ」も怪しいものだ。新潟県で仕事中に米軍機に遭遇したヘリ・パイロットは「自機のすぐ下を米軍機が通過した。気づいてから数秒で通過する、とても避ける時間はない」と語っている (NNNドキュメント)。仲間から無線で戦闘機の飛来を警告されて注意をしていても、通過の数秒前にしか気づかない。視野が狭い高速の戦闘機のパイロットが気づくとしても回避する時間はな いだろう。

「よく見て避けろ」という唯一の安全策が不可能に近いのが、米軍機の高速低空飛行訓練だ。その危険性を認識しているからこそ、米本国で訓練を行うときは、民間ヘリなどのパイロットたちが 訓練実施を事前に把握できる手段を講じている。それは時間だけではない。使用する低空飛行ルートの中心線、高度、ルートの幅まで決められていて事前に知ることができる。逆に、ルートの詳細 と訓練を行う日時が事前に知らされなければ、低空飛行ルートを飛ぶ米軍機が、訓練を知らない民間ヘリなどと遭遇する可能性は極めて高い。

(RIMPEACE編集部)


2013-1-17|HOME|