空中衝突の危険が迫る低空飛行訓練(6)

日本政府の責任を問う

在日米軍の低空飛行ルートは、ヘリなどが比較的低速で飛行する空域に、米軍が勝手に線を引いて強引に高速で飛行訓練を行うルートだ。同じ飛び方を自衛隊や民間の航空機が行えば、「粗暴な 操縦」を禁じる航空法第85条に抵触する。

このルートで低空飛行訓練が繰り返し行われていることを、これまで日本政府は認知してこなかった。しかしレビューの資料には、海兵隊所属機が低空飛行ルートをそれぞれ何時間飛ぶのか、 またオスプレイは年間何回飛ぶのか、などのデータがモデル化されて載っていた。提供空域でもないところで米軍が、毎年何百回もの低空飛行訓練を行っていることを、米軍自らが認めたのだ。

このルートで低空飛行を行うことを日本政府は知っていたのか? 受入国の法体系を守らない「粗暴な操縦」をなぜこのルート上では行えるのか? 最低安全高度の条件が低空飛行ルート上では なぜ緩和されているのか? 低空飛行訓練中の米軍機との空中衝突防止策はあるのか? 低空飛行ルートの幅はどこまで広がっているのか?

  これらの当然の疑問に、これまで日本政府は「ルートは知らないし、それを米軍に聞こうとも思わない」という姿勢を一貫して示してきた。民間機(主にヘリ)が低速で飛んでいる空域に、何の 予告もなしに高速の米軍機が突っ込んでくる。その危険が発生する場所は、これまで目撃情報を集約することで大まかには判明していた。今回、そのルートが実際に飛んでいる米軍から示された。 この直線で結ばれたルートの近傍で、軍用機の訓練空域が民間機の飛行する空域と重なっている。


事故報告書付属資料によれば、オレンジルートの幅は定められていない。
オレンジルートの中心線から離れた本山町役場(白丸)とA6墜落場所(赤三角)

米国では行われている訓練ルートの公開(幅、高度を含めて)、訓練時間の開示が日本では全く行われていない。空中衝突を予防する措置は、空域を管理する日本政府がとらねばならない。 米軍機に航空法の適用除外があるから、というのは危険防止策をつくらない言い訳にはならない。粗暴な操縦で低空飛行する米軍機は、航空法で罰せられない。それでもその飛行による空中衝突 の危険性は消えないからだ。

その危険性は、低空飛行ルートの下の自治体がすでに問題提起している。防災ヘリやドクターヘリと、オスプレイなど低空飛行訓練を行う米軍機の空域調整は出来ているのか、と。

「米軍は全く自由に飛行訓練等を行ってよいわけではなく、我が国の公共の安全に妥当な考慮を払って活動すべきものであることはいうまでもない」(政府の答弁書より) 空中衝突の防止は 「公共の安全」そのものだ。

「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な注意を払って行わなければならない」(地位協定第三条3項)

地位協定で定める「公共の安全に妥当な注意を払う」必要性について、日本政府は何度も政府答弁でも述べている。しかし、低空飛行訓練について「公共の安全」に反する事態が起きる可能性を 掲げて米軍と訓練実施の可否を詰めることを怠ってきた。

雫石の事故の後、比較的高度の高い空域について、軍事訓練空域と民間航空路は完全に分離された。同様に高度500フィートから1万フィートの空域で、軍事訓練ルート(低空飛行訓練ルート) を完全に分離しない限り、米軍機と民間ヘリなどの空中衝突は起きるとみなければならない。それが雫石の事故の教訓だ。

低空飛行訓練を日時・場所さえ公表せずに行うことは、「公共の安全に妥当な注意を払う」必要性を定めた地位協定に反する。低空飛行ルートのセンターラインが米軍により 公表され、そのルート上を米軍機が繰り返し低空・高速で飛ぶことが公表された今、日本政府はそのことを強く在日米軍に訴えなければならない。
雫石事故のような空中衝突事故が起きるまで、この状態を放置することは、無責任かつ犯罪的なことだ。(本文、了)(参考ページ、参照資料は次稿)

(RIMPEACE編集部)


2013-1-17|HOME|