「北朝鮮のミサイル実験」に対する在日米軍基地の動き


 朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮と略す)のミサイル「テポドン」発射実験が、実は人工衛星の打ち上げだった、という見解が米国、ロシア、中国、韓国から出され、日本政府以外の大方の共通認識となってきた。この機会に、今回の発射実験に対する、在日米軍基地を拠点とした米軍などの動きをまとめておこう。

RC135S電子偵察機と三沢基地

 「北朝鮮のミサイル発射準備」に真先に対応するのが電子偵察機RC135Sだ。RC135は、米軍の電子偵察機でアンテナとコンピュータの固まりのような機体だ。全部で21機いて、通常の任務にはV型とその発展型のW型(合わせて14機)があたっている。嘉手納基地に常時派遣されているのも、このRC135VまたはRC135Wだ。RC135Sはこれらの通常型とは全く異なる観測機器を積んでいる。赤外線センサーとレーザー測距器で、ミサイル発射時のロケットの炎、噴射の継続した時間、飛行方向や加速度などの運動データを測定し、飛行コースと落下地点を瞬時に計算して上級司令部に通知するのが主要な任務だ。
 ミサイルの発射準備を偵察衛星で察知すると、このRC135Sが近くの米軍基地に飛来する。96年3月のいわゆる台湾海峡危機の際にはRC135Sは嘉手納基地に展開した。しかし、北朝鮮の発射準備に対しては毎回三沢に展開する。今回は8月11日に1機やってきた。そして15日から日本海の中央付近への飛行を開始した。発射地点に近いところで観測した方が誤差が少ないので、実際には朝鮮半島に相当近い公海上を旋回していることが予想される。1回の飛行時間は約12時間とみられている。

三沢基地に飛来したRC135S(94.5.12撮影)231K


ミサイル実験観測艦
オブザベーション・アイランドと佐世保基地

 RC135Sと並ぶミサイル実験観測のもう一つの主役がオブザベーション・アイランドだ。艦尾に大型のレーダーを装備し、中央には衛星通信用のレドームが2つある異様な船だ。この船も発射地点に近い公海上で、RC135Sと同様のデータを収集するのが主任務だ。台湾海峡危機の際には東シナ海にいた。任務を終了して、MSC(軍事海上輸送コマンド)の極東司令部のある横浜・ノースドックにいる時はのんびりしているが、いざ実験という時には「鈍足に鞭打って」駆けつけてくる。そして佐世保基地での補給もソコソコに直ちに日本海に向かう。
 今回、佐世保基地には8月28日の夜入港、短時間の補給の後その夜の中に出港した。三沢にRC135Sが展開したのが11日だったから、出港準備から含めて2週間以上かかって母港から駆けつけたのだろう。31日の発射にはなんとか間に合ったようで、実験終了後の9月3日夜に、これまたごく短時間佐世保に立ち寄っている。監視していた佐世保軍事問題研究会の話では、2メートル四方の箱を4個、積み替えていたとのこと。基地への問い合わせに対して、中身は新鮮野菜だと答えたとか。ちょうどミサイルか人工衛星か、データの再チェックを行うと米政府が発表した時期と重なるから、米本国に持ち帰るためにオブザベーション・アイランドのデータをユニットごと交換したのではないか、というのが佐世保軍研の見方だ。

 最初の発射実験の後も、しばらく警戒態勢を解かずに2回目の実験に備えるのがこれまでの米軍のやりかただ。結局RC135Sは、9月11日にアラスカ経由で米本土のオファト基地に戻っていった。三沢にちょうど1カ月いたことになる。オブザベーション・アイランドが横浜ノースドックか横須賀基地に寄港したら、米軍の今回の発射実験監視体制は完全に解除されたことになろう。

ノースドックに停泊するオブザベーション・アイランド(96.4.21撮影)231K


三沢基地の自衛隊機の動き

 三沢基地の空自早期警戒機E2Cが関連する動きを見せている。米軍のRC135Sが三沢から監視のための飛行を開始した8月15日から、E2Cの飛行パターンが変わった。それまでは三沢を中心として各方向に分かれて警戒任務についていたと思われるE2Cが2機ずつ日本海にむけて南西方向に飛びだした。ミサイル実験を行う時は、その着弾点付近に北朝鮮の観測船が出る。8月31日までは誰もがミサイルの発射実験で着弾点は日本海だと考えていた。今回も北朝鮮の観測船を発見しようと、海自のP3Cが八戸基地から日本海に飛び立った。他の自衛隊機や、他国の航空機も入り乱れての探索となるから、その管制と領空侵犯警戒のためにE2Cが日本海に飛んだと考えられる。
 注目したいのは、太平洋側がノーマークに近かったことだ。これは、着弾点といわれた三沢北東580キロメートル付近(エトロフ島付近)には北朝鮮の船が展開していなかったか、もしくは船がいたけれど米軍や自衛隊が気づかなかったのか、そのどちらかだろう。厳戒態勢の中で日本近海を「不審な船」がウロウロしていることに気づかなかったとは考えられないから、やはり北朝鮮の船は「ミサイルの着弾点」にはいなかった、ということだろう。これは、人工衛星打ち上げ説に合致するデータだ。

 三沢の飛行データは、三沢市議の伊藤裕希さんたちのグループがまとめたもの。また、佐世保基地関係のデータと解析は、佐世保軍事問題研究会による。



RC135関連のページ
 
RC135Sについては、Aviation Week Space Technology, 4 August 1997 に詳しいレポートが掲載されている。

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