多連装ロケットシステム、横浜ノースドックから積み出し、北海道へ


民間貨物船に載せられる高機動多連装ロケットシステム。貨物船は演習地の北海道へ(17.8.9 頼 和太郎 撮影)

  8月7日午前11時過ぎ、HIMARS(High Mobility Artillery Rocket System)(高機動ロケット砲システム)と呼ばれる米軍の自走多連装ロケット砲と見られる車両が、 横浜ノースドックのHバース付近に4両運び込まれた。

この日、4両のトレーラーに1両ずつ載せられて、ノースドックのHバース付近に運び込まれたのは、一見、6輪トラックのように見える暗緑色の車両だった。
運び込まれた4両の車体は、運転台部分に装甲が施された中型軍用トラックのものだった。FMTV(Family of Medium Tactical Vehicles)と名付けられた中型戦術車両シリーズのうち、 5トン積載可能な6輪中型トラックの車体だ。
このシリーズの車両には、運転台に装甲が施されていない非装甲型と運転台に装甲が施された装甲型のものとがあるが、装甲の取り付け、取り外しは変更可能だ。
しかし、この4両をよく見ると、通常のトラックであれば荷台となる部分の形が明らかに違う。荷台ではなく長方形の箱のようなものが取り付けられているのだ。この長方形の箱のよう なものは、ミサイル発射装置だ。
 つまり、これらの車両は単なるトラックではなく、FMTVの6輪中型トラックの荷台部分にミサイル発射装置を取り付けた、HIMARSと見て間違いないだろう。

HIMARSは、長距離の射程と強力な破壊力を持つ地対地ミサイルの自走式6連装発射装置だ。そうした強力な破壊力を持つ兵器でありながら、トラックの車体を使っているため 小型・軽量であり、海外で軍事行動を行う際に中型輸送機などですばやく運搬して使用することが可能な兵器であることが特徴とされる。

 


8月7日、トレーラーに載せられシートをかけられたHIMARSの車両が4台、ノースドックに運び込まれた(17.8.7 頼 撮影)

 8月7日午前11時過ぎに、トレーラーから降ろされた4両のHIMARSは、ノースドックのHバース近くの倉庫の影に移動した。そして、みなとみらい地区や大さん橋側からは 死角になるこの倉庫脇にひっそりと並べられた。人びとの目に触れにくい場所に置いて秘匿性を確保するとともに、高温化を防ぐ意味もあったのかもしれない。

   ではなぜ、米軍の対地攻撃ミサイル兵器であるHIMARSが、横浜に運び込まれたのか。それを解く鍵は、8月10日から北海道で行われている、陸上自衛隊と米海兵隊との日米 合同演習「ノーザンバイパー」にある。
 防衛省によると「ノーザンバイパー」のハイライトで、HIMARS(高機動ロケット砲システム)が国内で初めて使用されるのだという。つまり、北海道で米軍が地対地多連装 ミサイルをぶっ放すということだ。
 北海道に運んで使用するために、米軍はHIMARSを横浜ノースドックに持ってきたのだ。横浜は、米海兵隊の重要な輸送拠点とされてしまっているのだ。

 では、米海兵隊は、HIMARSをどこから横浜に運び込んだのか。おそらく、キャンプ富士からだろう。さすがに相模総合補給廠には、現役の自走式多連装ロケット砲が保管されて いるということはないだろう。
米軍はキャンプ富士で、今回の北海道での演習の前にHIMARSの使い方を習熟していたのではないか。

 実際、横浜に運び込まれたHIMARSは、8月9日、ノースドックに接岸した民間貨物船の青松丸に積み込まれている。青松丸は、8月12日の朝に釧路港に到着する予定で横浜を 出港した。
ノースドックから釧路に行くということは、日米合同演習が行われる矢臼別演習場に、海兵隊の車両を届けにいくということだ。

ところで、HIMARSというロケットシステムは、りゅう弾砲よりはるかに射程が長いのが特徴だ。
沖縄の国道104号線越え実弾射撃演習の「分散・移転」の名目で北富士演習場や東富士演習場で実弾射撃訓練が行われているが、この国道104号線越え 実弾射撃演習で使われているのは155ミリりゅう弾砲だ。
長距離射程の高機動ロケット砲システムを実際に発射するということは、155ミリ砲を発射するということとはまた意味合いが違うものとなるだろう。

 それは、沖縄海兵隊に155ミリりゅう弾砲以上の強力な攻撃兵器を配備し、より強力な戦闘部隊に変えていくということだ。そして北海道などの広大な演習場が155ミリりゅう 弾砲の実射演習のほかにHIMARS実射訓練場としてもどんどん使われていく、ということを意味する。

 なお、HIMARS4両が運び込まれ、その後、近くの倉庫影に移動した8月7日の横浜ノースドックのHバース付近に話を戻すが、同じ8月7日の午後、同じHバース付近に7両の ハンヴィーと8両の軍用トラックの計15両の軍用車両が横一列に並べられた。海兵隊の車両だろう。
濃緑色のもの、砂漠塗装のもの、トレーラーが付けられているもの、荷台にコンテナが載せられているもの、各種のオプションが付けられたハンヴィーなど、雑多な取り合わせだ。
 これらの車両も、HIMARSと同様に、8月9日にはノースドックから姿を消した。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


8月7日午後、ノースドックのHバースに並んだ海兵隊の車両群。HIMARSの4両は向かって左側に隠れている(17.8.7 星野 撮影)


2017-8-11|HOME|