フォレジャー21演習を振り返る(1)

米軍の新しい戦争スタイルのテスト、フォレジャー21演習


7月28日、グアム島の海軍基地で、フォレジャー21演習の一環として、米陸軍第174防空砲兵連隊第1大隊のアベンジャー
防空システムをLCU(米陸軍大型揚陸艇)フォート・マクヘンリーに積み込む作業を行う第7輸送旅団の兵士と民間契約労働者。
LCUフォート・マクヘンリーは、「運用はせず燃料を抜いて横浜に保管する」という約束で横浜ノースドックに
備蓄されていたはずの大型揚陸艇で、現在は米陸軍輸送科の小型輸送船に転用されて沖縄を拠点として運用されている。
第7輸送旅団は、米本土のバージニア州フォート・ユーティスに本拠を置く部隊だが、グアム島に派遣される前には、横浜NDで訓練と準備作業を行っていた。
(米軍の写真HP、DVDIS記事 Soldiers Load Avenger Air Defense System onto Army Watercraft System for Forager 21より引用)

7月11日から8月6日まで、米軍はグアム島などマリアナ諸島で「フォレジャー21」(Forager 21)演習を行った。

 米軍によればフォレジャー21は、同時期に米空軍が行った「パシフィック・アイアン」(Pacific Iron)演習とともに、「パシフィック・ディフェンダー」(Pacific Defender)演習を支えるものだという。

米軍の発表などを総合すると、フォレジャー21のテーマは、短期間のうちにグアムなどマリアナ諸島の複数の場所に大規模な部隊を急速に展開させて即座に作戦行動を行うこと、それらの展開した部隊を分散した場所から指揮・統制すること、そして、陸軍、空軍、海兵隊、海軍が統合して作戦を展開し、陸・空・海・宇宙・サイバー空間のすべての領域で、ほぼ同等の強さの「敵」と戦って撃退するマルチドメイン作戦を実践し、テストすることだった。このマルチドメイン作戦は、米軍の新しい作戦コンセプトだ。

 フォレジャー21のこれらのテーマは抽象的に設定されたものではなく、Army Timesの記事の表現に依るならば、「中国の軍事行動の可能性に対抗する」(countering potential Chinese military maneuvers)という意図を持つものだ。(Army Times 2021年8月2日記事“Trio of exercises had soldiers and airmen island-hopping in the Pacific this summer”)

 米軍及び米軍と一体になった「同盟国」部隊を東アジア・太平洋の島嶼に機動的に展開させて統合的に作戦を遂行する能力、そして、マルチドメインな戦闘能力を「見せつける」ことがこの演習の狙いだったのだろう。

 しかし、驚くべきことは、米軍のHPやツイッター、フェイスブックなどが伝えるフォレジャー21には、戦場として想定される島々に住んでいるはずの住民について思慮をめぐらせた形跡が見られないことだ。兵士やさまざまな兵器を投入し、作戦行動を展開する場面や、負傷兵を救護する場面の写真などはネット上に掲載されても、住民や人々が暮らす地域社会の姿は見ることができない。

 東アジア・太平洋の住民の存在を無視して展開する戦争を、準備しているのだろうか。そして、このような米軍の今後の戦争スタイルのテストともいうべきフォレジャー21において、横浜ノースドックは重要な役割を果たし、また陸上自衛隊の空挺部隊は米軍と一体となって軍事行動を展開した。

アジア太平洋戦争の痛切な反省から、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすること」を憲法で誓っている日本の社会のあり方として、それは妥当なことなのだろうか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


7月21日、横浜港に入港しノースドックに接岸した高速輸送艦グアム。グアムは7月中旬に那覇軍港からグアム島に向かい、
7月19日にグアム島を出港して横浜にやって来た。フォレジャー21に関連する何らかの輸送業務を行った可能性がある。(星野撮影)


2021-8-9|HOME|