英国海軍の軍艦、横浜の民間工場に接岸


10月19日の午前、横須賀沖に現れた英海軍哨戒艦テイマー(22.10.19 星野 撮影)

三菱重工横浜製作所本牧工場に接岸したテイマー(赤丸の部分)(22.10.20 星野 撮影)

10月21日のテイマー。艦橋の前方下部に大きく描かれている、テイマーの紋章(「coat of arms」あるいは「crest」)の赤いライオンが辛うじて視認できる(22.10.21 星野 撮影)

イギリス海軍の哨戒艦テイマー(HMS Tamar P-233)が10月19日に横須賀沖に現れ、10月20日には横浜に移動して三菱重工横浜製作所本牧工場に接岸した。

テイマーは、昨年9月にアフリカ東海岸から米国西海岸までのインド太平洋地域に5年間常駐する任務を帯びて、香港返還以来初めてアジア太平洋地域に常駐する英海軍の軍艦という触れ込みで、第2次世界大戦の頃まで英国の軍艦に使われていたダズル迷彩をわざわざ船体に施して、はるばるイギリスから派遣されてきた小型の哨戒艦だ。

2月14日から22日にかけても横須賀基地に寄港している。
2月22日に横須賀を出港した後は、3月7日にシンガポールに入港した。
3月はシンガポールを拠点として1週間ほどの航海を2回行ったが、4月1日以降は5月19日までシンガポールにずっと滞在していた。
5月19日にシンガポールを出港後、今度はオーストラリアのダーウィンに5月30日に寄港した。AIS(自動船舶識別装置)の情報によると、6月は数日間、港を出た以外はほぼダーウィンやその周辺に留まり続けていたようだ。
6月30日にはダーウィンを出港し、7月10日にフィリピンのマニラサウス港に入港している。そして、7月から8月にかけては、マニラサウスを拠点として活動している。
まず、7月16日にマニラサウスを出港して、7月20日から27日までパラウに滞在した後、8月3日にはマニラサウスに戻っている。
さらに、8月10日に再びマニラサウスを出発して、8月15日から18日の夕方までプエルト・プリンセサに滞在した。8月20日にはマニラサウスに戻り、9月6日まで同港に滞在している。
9月6日にマニラサウスを出港したテイマーは、9月11日から18日にかけて佐世保に寄港した。そして9月29日には韓国のプサンに入港した。その後、プサンの沖に移動したり、再び港内に入ったりした後、10月15日にプサンを出港し、20日の朝に横須賀沖に現れたのだ。

今回のテイマーの三菱重工横浜製作所本牧工場入りは、本国からの派遣から1年以上が経過し、船体のチェックが必要になったということなのだろうか。それとも、船体のどこかに故障が生じたということなのだろうか。
三菱横浜本牧工場接岸にあたって、テイマーが積んでいた弾薬や武器は撤去したのだろうか。

ところで今回、テイマーは、どのような法的資格で三菱横浜本牧工場に入ったのだろうか。
2月に横須賀基地に入港した時には、国連旗をマストに掲げていた。これは、朝鮮戦争の「国連軍」としての入港だというアピールだった可能性がある。

確かに、法的にはまだ終了していない朝鮮戦争の「国連軍」の日本における地位を定めた「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」(「国連軍地位協定」)の第5条の1項には、「国際連合の軍隊は、日本国における施設(当該施設の運営のために必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。)で、合同会議を通じて合意されるものを使用することができる。」ことが規定されている。
また、同条第2項では、「国際連合の軍隊は、合同会議を通じ日本国政府の同意を得て、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基いてアメリカ合衆国の使用に供されている施設及び区域を使用することができる。」と規定されている。

しかし、三菱重工横浜製作所本牧工場は、国連軍地位協定第20条に定める「合同会議」が、「国際連合の軍隊」の使用に供することを合意した施設なのだろうか?そんな話を聞いたことはない。
また、三菱重工横浜製作所本牧工場は、日米安保条約によって米軍の使用に供されている「施設及び区域」、つまり米軍基地なのだろうか?そんなことはない。
このように、朝鮮戦争の国連軍地位協定には、英国海軍の軍艦テイマーの今回の三菱重工横浜製作所本牧工場入りを正当化する条文は見当たらない。

それとも、テイマーの船体に、法的手続きを度外視せざるを得ないほどの人道上やむを得ない緊急の危機が生じたとでもいうのだろうか。しかし、自力で普通に航行してきたテイマーの動きを見る限り、人道上の危機が生じている可能性は低そうだ。

あるいは、三菱重工が独自にイギリス軍とテイマーの整備工事に関する契約を結んだということが、横浜入港と民間工場使用の「法的根拠」なのだろうか。そうだとすると、一企業が任意の外国の軍隊と契約を結べば、その外国軍が日本の港湾を使用することが可能になるということになるのだろうか。それでは地位協定というものの意味が無くなってしまうだろう。

このように入港の法的根拠の疑わしい、横浜の民間工場をわざわざ選んで接岸したのは、どうしてなのだろうか。

東アジアにやってくる米軍の「同盟国」の軍艦の整備工事を横須賀や佐世保の米軍基地が引き受けるとキャパシティをオーバーしてしまうため、今後も横浜などの民間工場を使用しようということなのだろうか。

三菱横浜本牧工場では、2019年5月に米イージス駆逐艦ミリウス(MILLIUS DDG 69)の整備工事が行われたのを手始めに、米海軍大型艦船の整備工事が当たり前のように行われるようになった。
JMU鶴見工場でも、米海軍高速輸送艦の修理が行われた。
瀬戸内海の因島や玉野の民間ドックにも、米海軍音響測定艦が入渠するようになっている。
今度は米軍のみならず、米国の「同盟国」軍の整備工事も民間工場で実施するということなのだろうか。

日本の民間港そのものの軍事化が進められているということだ。これは大きな問題だ。
何らかの事態が生じれば、軍艦の整備拠点やその周辺は当然攻撃対象となるだろう。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


2022-10-22|HOME|