民間タグボート、揚陸艇1隻を横浜NDから搬出
3月20日、LCUポート・ハドソンを曳いて横浜を出港し、東京湾を南下するパシフィック・ファルコン。対岸に見えるのは君津市にある製鉄所(23.3.20 読者 撮影)
観音崎沖の浦賀水道をゆっくりと南下するパシフィック・ファルコンとポート・ハドソン(23.3.20 星野 撮影)
3月14日、OLYMPIC TUG & BARGE 社がオーナーの、サンフランシスコを母港とする米国船籍の民間タグボート「パシフィック・ファルコン」(PACIFIC FALCON)が、横浜ノースドックに入港した。
パシフィック・ファルコンは、昨年11月にも、米本土から陸軍揚陸艇LCU(Landing Craft Utility)のパロ・アルト(PALO ALTO LCU 2032)を横浜ノースドックに運んで来て、代わりに横浜からLCUモリノ・デル・レイ(MOLINO DEL RAY LCU 2029)を米本土に運び出していったタグボートだ。
今回、パシフィック・ファルコンは、現地時間の2月16日にサンフランシスコ湾のオークランド港を出港し、ハワイを経由して横浜にやって来た。
しかし、昨年11月の寄港時とは違って、今回は、パシフィック・ファルコンは新たな揚陸艇を運んで来たわけでは無かった。
3月14日に単独で横浜ノースドックにやって来たパシフィック・ファルコンは、3月16日の朝8時台に「みなとみらい地区」や大さん橋からは反対側の、LCUが並べられて係留されている「溜まり場」に移動して、そこから揚陸艇ポート・ハドソン(PORT HUDSON LCU 2035)を「みなとみらい地区」側のバースへと引っ張り出してきた。
そして、3月20日の昼過ぎ、パシフィック・ファルコンはLCUポート・ハドソンを曳いて横浜ノースドックを出港した。ケーブル敷設艦グローバル・センティネル(GLOBAL SENTINEL)が横浜ノースドックに入港する直前の出港だった。
AIS(船舶自動識別装置)の情報によれば、パシフィック・ファルコンの次の寄港予定地はハワイのホノルルだ。おそらくホノルルはあくまでも経由地で、米本土に揚陸艇ポート・ハドソンを運ぶのが、今回のパシフィック・ファルコンの仕事なのだろう。
3月14日、米本土からやって来て横浜ノースドックに入港したタグボート、パシフィック・ファルコン(23.3.14 読者 撮影)
今回は、揚陸艇を運んで来たわけでは無く、単独での入港だった(23.3.14 星野 撮影)
3月16日になって、パシフィック・ファルコンはLCUポート・ハドソンをLCUの係留場所から引っ張り出してきた(23.3.16 読者 撮影)
LCUポート・ハドソンは喫水がかなり上がった状態で、艦上では搬出のための準備作業が行われていた(23.3.16 星野 撮影)
3月19日、出港前日のパシフィック・ファルコンとポート・ハドソン(23.3.19 星野 撮影)
実は横浜ノースドックに「保管」されているラニーミード級LCUには、2010年代後半に艦橋後部にレドームを取り付けるなどの改修工事を行ったタイプの艇と、改修工事が行われておらず、レドームが取り付けられていないタイプの艇とがある。
今回、パシフィック・ファルコンが搬出していったLCUポート・ハドソンは、改修工事を受けてレドームが取り付けられたタイプの方だ。
昨年秋にパシフィック・ファルコンが米本土に運んでいったLCUモリノ・デル・レイも、レドームが取り付けられているタイプだった。
他方で、改修工事を行わずレドームを取り付けていないタイプの艇も、横浜ノースドックに現在もまだ複数係留されている。
つまり、レドーム取り付けなどの改修工事が行ったタイプのLCUを横浜ノースドックに残して、改修工事が行われていないタイプのLCUを米本土に運び出しているという訳ではないようだ。
艦橋後部にレドームを取り付けていないタイプのラニーミード級LCU(23.3.19 星野 撮影)
改修工事を行ったタイプのラニーミード級LCU。赤い丸の部分が、艦橋後部に取り付けられたレドーム。
但し、LCUブロード・ランの向こう側に係留されているLCUは、レドームが取り付けられていないLCUだ(23.3.19 星野 撮影)
ところで、LCUなど米陸軍揚陸作戦セットが横浜ノースドックに並べられ、保管されるようになったのは21世紀に入ってからのことで、APS(Army Prepositioned Stock)(陸軍事前貯蔵)の資材として2002年8月から04年9月にかけて搬入されてからのことだ。
この期間に横浜ノースドックに搬入されたラニーミード級LCUは10隻だった。
LCUの他に、LCM(Landing craft mechanized)(LCUよりも小さな上陸用舟艇)やLT(Large Tug)(大型タグボート)やST(Small Tug)(小型タグボート)、クレーン・バージ(Crane Barge)、WT(Warping Tug)(組み立て式筏)、MCS(Modular Causeway System)(浮き桟橋などに使う組み立て式の浮体)が運び込まれ、「保管」されていた。
ノースドックにLCUなどの揚陸艇が運び込まれた際、外務省は「無人の舟艇の保管であって、運航のための 部隊の配置はなく、運用はされない」、「瑞穂ふ頭の機能を高めるものではない」などと説明していた(2002年9月18日横浜市会定例会中田市長の答弁、同年9月20日横浜市会総務企画財政委員会での今田総務局長の答弁など)。
2002年8月28日の神奈川新聞も、「横浜市渉外部によると、米軍側は今回の措置にあたり外務省を通じて@艦船は燃料を抜いて保管するA運航はしない−と説明している」という 記事を掲載している。
しかしその後米軍は、搬入時のこの約束を破り、保管されているLCUの中から代わる代わる2隻を、ほぼ常時、小型輸送船として運用していた。
また近年、LCUやMCSが新たに運び込まれたり、逆にこれまで「保管」されていたLCUやLT、ST、クレーン・バージ、WT、MCSのなかにノースドックから姿を消すものがあったりと、横浜ノースドックの揚陸作戦セットの状況に変動が生じている。
そのため、横浜ノースドックに係留されている揚陸艇などの数がどのようになっているのか、把握しづらい状況になっている。
今年1月、日米2プラス2で横浜ノースドックへの「13隻及び約280人」の「小型揚陸艇部隊」の配置を合意したと防衛省は発表したのだが、この合意は、上記の地元への約束を何の断りも無く一方的に無かったものとする、市民を徹底的に愚弄した内容だ。
同時に、「13隻」と言いつつ、一体どの艇が横浜を「母港」とするというのか、何の説明も無いという点でも異様なものだ。
横須賀でも佐世保でも、配備される艦の名前は具体的に明らかにされている。
ところが横浜では、現在、「保管」されている揚陸艇はどの艇で、何隻置かれているのか、そのうち、今年の「春」から横浜を「母港」として「小型揚陸艇部隊」によって運用されるのはどの艇なのか、艇の名前も含めて具体的な説明が一切なされていない。
「母港」とする艦艇の名前も明らかにしないままに、揚陸艇部隊の配備がなし崩しに行われようとしているのだ。
そしてどういうわけか横浜市も、上記の約束違反についても、そして母港とする艦艇の名前や種類についても、具体的に追及しようとしていない。これも解せないことだ。
(RIMPEACE編集部 星野 潔)
横浜ノースドックの埠頭上に並べられている揚陸艇LCM。一番左側のタイプとそれ以外のタイプの2種類がある(23.3.20 星野 撮影)
同じく横浜ノースドックの埠頭上に並べられているST(小型軍用タグボート)(23.3.20 星野 撮影)
ノースドックに係留されているLT(大型軍用タグボート)。LTは2隻係留されていたが、1隻は昨年1月9日に横浜ノースドックから姿を消したままだ(22.12.2 星野 撮影)
2023-3-22|HOME|