横浜NDの揚陸艇が参加したバリカタン23演習を振り返る


4月19日、スービックの埠頭上で米陸軍揚陸艇への積み込みを待つ、2台のハイマース
米軍画像サイトDVIDS記事「Balikatan 23 | Alpha 5/3 Field Artillery Regiment Conduct HIMAR Transport」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7752457/balikatan-23-alpha-5-3-field-artillery-regiment-conduct-himar-transport


LCUフォート・マクヘンリーの甲板上に載せられたハイマース
米軍画像サイトDVIDS記事「Balikatan 23 | Alpha 5/3 Field Artillery Regiment Conduct HIMAR Transport」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7752472/balikatan-23-alpha-5-3-field-artillery-regiment-conduct-himar-transport



4月23日、ハイマースを海岸に陸揚げするLCUカラボザ。場所は、DVIDS記事によればフィリピン最北部の島のバスコとみられる
米軍画像サイトDVIDS記事「Balikatan 23 | Bosco Island HIMARS Landing Drills」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7768618/balikatan-23-bosco-island-himars-landing-drills
https://www.dvidshub.net/image/7768623/balikatan-23-bosco-island-himars-landing-drills


DVIDSの記事によれば、ハイマースの陸揚げ地点の確保を担ったのは、海兵隊の第3海兵沿岸連隊(MLR)第3沿岸戦闘チームだった
米軍画像サイトDVIDS記事「Balikatan 23 | Bosco Island HIMARS Landing Drills」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7768614/balikatan-23-bosco-island-himars-landing-drills


4月26日には、ハイマースをはじめ米軍とフィリピン軍の各軍種を越えた多様な兵器や航空機の間で情報を共有し、米海兵隊の指揮統制により標的艦を攻撃し撃沈させる訓練も行われた
米海兵隊HP記事「U.S.-PHILIPPINE FORCES SINK TARGET SHIP FOR FIRST TIME IN BALIKATAN EXERCISE」を参照
写真は米軍画像サイトDVIDS記事「Balikatan 23 | Littoral live fire event」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7761765/balikatan-23-littoral-live-fire-event



陸上自衛隊もバリカタン23演習に少なくともオブザーバー参加していたようで、米軍画像サイトには、4月27日の米比の海兵隊の会議に出席した陸自隊員の写真が掲載されている
米軍画像サイトDVIDS記事「Balikatan 23 | MARFORPAC General visits AFP and JGSDF during Balikatan 23」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7786484/balikatan-23-marforpac-general-visits-afp-and-jgsdf-during-balikatan-23
https://www.dvidshub.net/image/7786488/balikatan-23-marforpac-general-visits-afp-and-jgsdf-during-balikatan-23

本来、横浜ノースドックに燃料を抜いて保管されているだけのはずだった米陸軍ラニーミード級揚陸艇のうち、フォート・マクヘンリー(FORT MCHENRY LCU 2020)とカラボザ(CALABOZA LCU 2009)が、過去最大規模で4月11日から28日にかけて実施されてた米比合同軍事演習「バリカタン23(Balikatan 23)に参加していたことは、既にこのHPの4月19日付けの記事で報告した。

米軍画像サイトDVIDSの記事と写真によれば、この2隻の陸軍揚陸艇は、バリカタン23でハイマース(HIMARS:High Mobility Artillery Rocket System(高機動ロケット砲システム))の運搬、揚陸訓練を行った。

さらに、揚陸訓練だけでなく、陸揚げされたのと同一のものとみられるハイマースをはじめ、米軍とフィリピン軍の大砲、アパッチ攻撃ヘリ、フィリピン空軍の戦闘攻撃機、米海兵隊のF35戦闘機、アベンジャー防空システムなど、2つの国の複数の軍種や部隊、兵器の間で情報を共有し、統合された指揮のもとで、ターゲットの標的艦に向けて射撃し撃沈させる訓練も行われた。

一連の訓練には米海兵隊も参加し、第3海兵沿岸連隊(MLR)の海兵隊員が揚陸艇の接岸、陸揚げ地点の確保を行った。また、海兵隊は射撃の指揮統制などにおいて核となる役割を担ったようだ。

他方、今回、フォート・マクヘンリーとカラボザがフィリピンのスービックから運んでフィリピン北部のバスコに陸揚げしたのは、米陸軍の第1マルチドメイン任務部隊(1st Multi-Domain Task Force)に属するハイマースとみられる(DVIDS記事「Balikatan 23: U.S. Marines conduct joint, bilateral littoral campaign [Image 11 of 13]」参照)。

マルチドメイン任務部隊(マルチドメイン・タスク・フォース MDTF:Multi-Domain Task Force)とは、現代の「新しい」「戦い方」として2010年代半ば以降米陸軍が掲げているコンセプトの「マルチドメイン作戦(MDO: Multi-Domain Operation)」に基づいて、編成が進められている部隊だ。
具体的には、「A2: anti-access(接近阻止)」、「AD: area denial(領域拒否)」の戦闘を担う、防空、対艦ミサイル、陸上戦、電子戦、宇宙、サイバー、情報などの各種領域を横断する能力を持ち、迅速な展開が可能である、という考え方に基づいて編成される部隊だ。
MDOは、もとはマルチドメインバトル(MDB)という名称だったが、このコンセプトの作成は米陸軍と米海兵隊の共同で進められたようだ(菊池茂雄,2019,「米陸軍・マルチドメイン作戦(MDO)コンセプト―「21 世紀の諸兵科連合」と新たな戦い方の模索―」『防衛研究所紀要』第 22 巻第 1 号,p.15)。
その海兵隊は海軍とともに、対中国戦を視野に入れた新たなコンセプト「係争環境における沿海域作戦(LOCE: Littoral Operations in a Contested Environment))を2017年にまとめ、さらにそれに基づく新たな海兵隊の運用構想として「機動展開前進基地作戦(EABO: Expeditionary Advanced Base Operations)」を公表している。そして、EABOの担い手として編成されるのが、海兵沿岸連隊(MLR: Marine Littoral Regiment)だ。

今年1月の日米2プラス2では、横浜ノースドックに陸軍揚陸艇部隊を「新編」することと、「在沖海兵隊のうち、第3海兵師団司令部及び第12海兵連隊を沖縄に残留させ、第12海兵連隊(砲兵)を改編して第12海兵沿岸連隊(MLR)とする」ことが同時に発表された。
この2つを同時に発表したということは、横浜ノースドックに配置する揚陸艇部隊を、琉球弧などの島々にMLRを運搬するために使うということだろう。
しかし、今回のバリカタン23を見ると、横浜ノースドックの陸軍揚陸艇部隊は、海兵隊MLRだけでなく、陸軍MDTFの輸送も担うことにされていると考えた方が良いようだ。

そもそも、同時期に作成が進められた陸軍のMDOと、海軍と海兵隊のLOCEや海兵隊のEABOは、軍の今後の戦い方の構想として、「親和性の高い」ものと見なされている(菊池,前掲書,p.57参照)。
実際、陸軍MDTFは、迅速に展開、移動しながら対艦、対空、長距離攻撃などマルチドメインな戦闘を行う部隊だが、海兵隊MLRも、琉球弧などの「列島線」の島々に構築される遠征前方基地(EAB: Expeditionary Advanced Base)に分散配置される、対艦、対空ミサイルなどの多様な能力を持った部隊であり、EABを移動しながら中国と戦うことが想定されている部隊なのだ。

ところで、米連邦議会の議会調査局(Congressional Research Service)の資料「The Army’s Multi-Domain Task Force (MDTF)」(2023年3月16日更新)によると、MDTFは5つ編成される計画だった(https://crsreports.congress.gov/product/pdf/IF/IF11797/6)。
1番目のMDTFは、ワシントン州のルイス・マッコード統合基地に本部を置く、米太平洋陸軍の部隊だ。
2番目のMDTFは、ドイツを拠点とすることが2021年4月に発表された。
3番目のMDTFは、2022年9月に最初の一部がハワイに到着したが、残りの部隊がどこに駐留することになるかは未定だという。
さらに4番目のMDTFは北極圏に置かれ、5番目のMDTFはグローバルな対応をする部隊として編成されるのだという。
以上の5つのMDTFのうち、インド太平洋地域には第1と第3のMDTFが配置されることになる。しかし、第3MDTFがインド太平洋地域のどこを拠点とするのかは、2023年3月16日時点の連邦議会資料では未定とされている。

この、第3MDTFの駐留場所に関して、先日の6月6日の記者会見でウォーマス陸軍長官は、日本の毎日新聞の記者の質問に答えて、「理論的には、例えば日本やオーストラリアに駐留すれば、大きな効果を発揮することができると考えている。しかし、何よりもまず、日本やその他の潜在的な受け入れ国が、そのような駐留が理にかなっているかどうかを判断し、米国と話し合う必要がある」と述べた(米連邦政府HP、2023年6月6日ウォーマス陸軍長官記者会見議事録より引用 (https://www.state.gov/briefings-foreign-press-centers/us-army-and-its-global-engagement))。
つまり、日本政府の態度によっては、MDTFの部隊を日本に駐留させる可能性もあるということだろう。
米海兵隊の新しい戦争の構想を担う部隊のMLRのみならず、米陸軍の新しい戦争の構想を担う部隊も、日本を拠点とする可能性があるということだ。
そしてそれらの部隊を琉球弧などの島々に運ぶのが、横浜の陸軍揚陸艇ということだ。

こうした「新しい」戦争の構想に基づく軍備拡張や挑発によって、住民がどれだけ危険に曝されるのか。戦場とされる地域の住民に一体どのような犠牲がもたらされるのか。そうしたことに口を閉ざしたまま、危険な部隊配置や演習が進められている。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


5月27日、横浜ノースドックに停泊中のLCU(陸軍揚陸艇)カラボザ(23.5.27 星野 撮影)


同じく5月27日、横浜ノースドックに停泊中のLCUフォート・マクヘンリー(23.5.27 星野 撮影)


2023-6-12|HOME|