米海軍大型輸送艦、横浜港の民間埠頭に接岸


6月16日、横浜港の民間埠頭である鈴繁埠頭に接岸した、米海軍輸送艦フィッシャー。手前の方に横浜ノースドックがある


甲板上に、積み込み作業を行うために集まった人びとが見える。船倉の蓋が蛇腹式に開き始めている


一部の船倉の蓋が完全に開いたようだ。夕暮れ時になっていたが、この後、クレーンで船倉への積み込み作業を行ったのだろうか(23.6.16 星野 撮影)


横浜市基地対策課が6月16日になってHPにアップした情報(横浜市基地対策課HPより引用)。
港湾法の手続き上、港湾管理者の横浜市は、遅くとも前日には入港を知っていたはずだが、なぜかそのことには触れていない。
入港までに行ったやり取りの内容も、何も書かれていない。「当課が確認した事項」という書き方をしているが、横浜市が確認した内容を説明すべきだ

6月16日の午後、ボブ・ホープ級車両貨物輸送艦のフィッシャー(FISHER T-AKR 301)が横浜港に入港し、鈴繁埠頭に接岸した。

鈴繁埠頭とは、米軍基地の横浜ノースドックが所在している横浜港の瑞穂埠頭のなかで、戦後、1957年から75年にかけて民間用に新たに埋め立てられた岸壁の部分の名称だ。
つまり、米軍基地ではない、あくまでも民間の埠頭だ。
日米合同委員会が日米地位協定に基づいて米軍に提供することに合意した施設ではない民間埠頭では、米軍艦船が後述するような軍事活動を行うことは、日米地位協定上、認められていないはずだ。

確かに日米地位協定の第5条は、米国の管理の下に運行される船舶や航空機が日本の港や飛行場に出入りする時には、入港料または着陸料を課されないこと、基地と港の間を出入りすることが出来ることを定めてはいる。
しかし、横浜ノースドックの場合には、基地そのものが港だ。横浜ノースドックの埠頭に出入りするために別の民間埠頭に接岸しなければならない(?)ということはあり得ない。
横浜ノースドックに艦船が出入りしたいのであれば、横浜ノースドックのバースに接岸すれば良いだけの話だ。

港湾法の手続き上、遅くとも入港前日には、港湾管理者である横浜市は米海軍大型輸送艦の横浜港の民間埠頭への接岸を知りうる立場にあったはずだ。
横浜ノースドックの全面返還を求めている横浜市は、米軍艦船の民間埠頭接岸にどのような対応をしたのだろうか。横浜市はなぜ今回の米軍とのやり取りの内容を説明しないのか。

AIS(船舶自動識別装置)による情報によれば、今回、フィッシャーは、米国のタコマに現地時間の5月16日から23日頃まで滞在し、さらにワシントン州のマンチェスター沖に5月27日まで留まった後、韓国のポハンに現地時間の6月10日から13日まで寄港して、横浜にやって来た。

米軍画像サイトDVIDSには、フィッシャーが5月後半のタコマ滞在中に、ストライカー装甲車などの車両をはじめとする車両や軍事物資を大量に積み込んだことを紹介する記事が掲載されている。
それらの軍事物資は、オーストラリアで7月22日から8月4日まで実施される大規模軍事演習、「タリスマン・セイバー2023」(Talisman Sabre 2023)で使用するためのものだ(日程については、オーストラリア国防省HPの記事「Largest ever Exercise Talisman Sabre to be held in Australia」を参照)。
フィッシャーが韓国のポハンに立ち寄って積み込んだのも、「タリスマン・セイバー2023」で使用する軍事物資だろう。
そして、横浜港で積み込むものも、横浜ノースドックに「保管」されている浮き桟橋(MCS)などの揚陸作戦用の資材や、相模補給廠のパイプラインセットなど、軍事作戦遂行のための物資だろう。

「タリスマン・セイバー2023」は演習とは言え、大規模な軍事作戦であり、軍事活動であることは言うまでもない。
そしてその軍事作戦に使用する物資の補給活動も、軍事活動の重要な構成要素であることも言うまでもないことだ。
つまり、横浜港で、しかも民間埠頭で、米軍の作戦行動のための軍事活動が公然と行われようとしているということだ。

日米安保条約第6条(「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」「前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。」)によって米軍が使用を許されているのは、日米地位協定第2条にもとづいて提供することが合意された施設及び区域のみである。

現在の日本が米軍の占領下にあるのでは無いというのであれば、地位協定第2条にもとづいて提供されているのではない場所で、米軍が勝手に軍事活動を行うことは許されないはずだ。
にもかかわらず、提供施設では無いはずの横浜港の民間埠頭で、米軍の軍事活動が行われようとしている。

実は、2021年の7月にも、フィッシャーは鈴繁埠頭に接岸して揚陸作戦資材を積み込み、マリアナ諸島周辺での「フォレジャー21」演習に出撃し、同年8月には、鈴繁埠頭に戻ってきて演習終了後の揚陸作戦資材を降ろしている。
このような、法的根拠の無い、民間埠頭の軍事使用を繰り返させてはならない。

また、上で述べたように、フィッシャーは、「タリスマン・セイバー2023」で使用する軍事物資を大量に積み込んだまま、横浜港のど真ん中の鈴繁埠頭に接岸したはずだ。
弾薬などの危険物は積み込まれていないのか。爆発事故等の危険は無いのか。
港湾管理者たる横浜市は、市民の安全の確保のため、民間埠頭に停泊したフィッシャーの立ち入り検査を実施すべきではないか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


5月18日、米国のタコマで、輸送艦フィッシャーのランプを登って船積みされる米陸軍ストライカー装甲車。後ろにも大量の軍用車が控えているのが見える。
米軍画像サイトDVIDS記事「USNS Fisher Conducts Onload」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7818337/usns-fisher-conducts-onload


5月20日、タコマで「タリスマン・セイバー2023」に使用する米軍の装備の積み込み作業を続ける輸送艦フィッシャー
米軍画像サイトDVIDS記事「USNS Fisher Conducts Onload」より引用
https://www.dvidshub.net/image/7818351/usns-fisher-conducts-onload


2023-6-17|HOME|