横浜NDに陸軍兵站支援艦がやって来た


8月31日、横浜ノースドックに入港した陸軍兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」(23.8.31 星野 撮影)


艦首部分がランプになっており、港湾以外の海岸線でも積み荷の搬出入をすることができる。
なお、後方の双胴船は音響測定艦エフェクティブ(23.8.31 星野 撮影)


甲板にはLCU(揚陸艇)よりもたくさんの「積み荷」を積むことができる。艦の後部にもランプがついている(23.8.31 星野 撮影)


艦橋上部のマストには、えんじ色の米陸軍輸送科の旗が掲げられている(23.8.31 星野 撮影)

8月31日の朝、横浜ノースドックに米陸軍兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」(GENERAL BREHON B. SOMERVELL LSV-3)が入港した。

第2次大戦時の米陸軍の大将の名前にちなんで命名された「ブレホン・B・サマーヴェル大将」は、米陸軍の「フランク・S・ベッソン・ジュニア大将」級兵站支援艦(LSV: Logistics Support Vessel)の3番艦だ。
このクラスの兵站支援艦は、米陸軍の保有する最も大きな艦船だ。
横浜ノースドックに21世紀に入ってから10隻が運び込まれて「保管」されていた陸軍揚陸艇(LCU)が全長約53メートル、全幅約12.8メートルであるのに対し、陸軍兵站支援艦(LSV)は全長83メートル、全幅約18メートルだ。

兵站支援艦「サマーヴェル大将」はパールハーバーが母港のようだが、オーストラリアにローテーション駐留している米海兵隊と豪軍の演習に参加するなど、太平洋の西側でも活発に活動しているようだ。
今回横浜ノースドックに現れる前、8月前半にはオーストラリア北東部にいた。その後、8月半ばにはニューギニアを訪れて、それからグアムに寄港している。グアムを現地時間の8月25日に出港し、横浜にやって来た。

米陸軍「フランク・S・ベッソン・ジュニア大将」級兵站支援艦は、2016年9月にも横浜にやって来たことがある。このクラスの兵站支援艦の2番艦「ハロルド C. クリンガー3等准尉」(CW3 HAROLD C. CLINGER LSV-2)だ。
この2016年の時は、兵站支援艦「クリンガー」は日米合同演習「オリエントシールド16」の支援にやって来たようだ。
ハワイで演習の装備を積み、名古屋→ホワイトビーチ→広弾薬庫→横浜と移動した記録が残っている。

今回の兵站支援艦「サマーヴェル」の横浜寄港も、米陸軍と陸上自衛隊の合同演習「オリエントシールド23」と関連がありそうだ。
陸上幕僚監部の発表によれば、今年のオリエントシールド演習は9月14日から23日まで。
今回のオリエントシールドの特色の一つとして、「米小型揚陸艇部隊と陸自部隊との初の連携訓練として、島嶼部の特性を踏まえた補給品等の事前集積、追送等を演練」することが挙げられるのだという。
鹿児島県奄美市のHPには、「米軍小型揚陸艇を利用して、沖縄本島から名瀬港を経由して、名瀬運動公園、奄美駐屯地及び瀬戸内分屯地に、陸自の補給品を輸送する兵站訓練」が行われるという記述もある。

既に横浜ノースドックを8月17日に出港した揚陸艇カラボザ(CALABOZA LCU 2009)が、8月21日に一旦ホワイトビーチに到着した後、広島県の広弾薬庫と沖縄の間を往復して現在は那覇軍港に待機している。

また7月後半から8月前半にかけてオーストラリアで行われた多国間合同軍事演習「タリスマン・セイバー23」に参加した別の2隻の横浜ノースドックのLCUのその後の動きも気になるところだが、この兵站支援艦サマーヴェルも、「オリエントシールド23」のためにやって来たのではないか。

とはいえ確かに、陸上自衛隊のニュースリリースや、それを受けた各自治体のHPには「米小型揚陸艇部隊」という文言が出ており、他方、兵站支援艦は「小型」とは言えない大きさの支援艦だ。

しかし、この「小型揚陸艇部隊」という言葉が使われるようになった、今年1月11日の日米2プラス2の共同発表の英語の原文を読んでみると、実際には「小型」揚陸艇部隊という言葉は出てこない。
原文に出てくる言葉は「Composite Watercraft Company」(複合揚陸艇中隊)だ。共同発表の原文は「小型」揚陸艇とは言っていない。つまり、外務省や防衛省は意図的に本来の合意内容とは異なる「訳」を作成し、日本社会に流布させているわけだ。
「小型揚陸艇」という言葉に「訳」することで、部隊の配備や行動が日本社会にもたらす影響も「小型」なものにとどまるという印象を人びとに与えようとする思惑があるのかもしれない。
合意の英語本文とは異なる「訳」を「仮訳」と称しているのは、「仮訳」としておけば恣意的な誤訳であることを指摘されても責任を取らなくて済むと考えているからなのかもしれない。

もちろん、この兵站支援艦が「小型揚陸艇部隊」とやらの一員と称して、このまま横浜に居ついてしまうとは限らない。今回は一時的な滞在である可能性が高いだろう。

とはいえ、横浜に配置するという「小型揚陸艇部隊」と称する部隊の運用する揚陸艇は、具体的にはどの船なのか、横浜を母港としようという陸軍揚陸艇の名前が明らかにされていないのは奇妙なことだ。

横須賀でも佐世保でも、配備されている艦船が具体的にどの船なのか、その名前は明らかにされている。
陸軍の保有する揚陸艇や支援艦にも、それぞれ固有の名前がついている。にもかかわらず、横浜ではそれを米軍も日本政府も明らかにしていない。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」を後ろから見ると、艦橋の下に後部ランプがあることが分かる(23.8.31 読者 撮影)


2023-9-1|HOME|