横浜NDの陸軍揚陸艇部隊、兵士の技能養成進む


横浜ノースドックに停泊する陸軍揚陸艇パロ・アルト(手前)とカラボザ(奥)(23.11.8 星野 撮影)

今年1月の日米2プラス2で、横浜ノースドックに複合揚陸艇中隊(Composite Watercraft Company)(日本政府側の発表では「小型揚陸艇部隊」)を今年「春頃」に「新編」するという合意が突然発表された。

沖縄の第12海兵連隊を第12海兵沿岸連隊(MLR)に改編することと同時に発表された横浜ノースドックへの揚陸艇部隊配備は、米海兵隊の対中国戦争構想であるEABO(機動展開前進基地作戦)における、琉球弧などの列島線に設置されるEAB(遠征前方基地)への輸送手段を確保するためのものだろう。
つまり、琉球弧や日本列島、フィリピンなどの住民を戦争に巻き込む兵器や兵士の輸送を担う、揚陸艇部隊を横浜に設置するということだ。

その後、横浜市基地対策課HPに4月18日付けで「防衛省からの情報提供の概要」として、「横浜ノース・ドックにおいて、小型揚陸艇部隊は予定どおり4月16日(日曜日)に新編された」という情報が掲載されたが、その後は、揚陸艇部隊の動向について何の情報も発表されておらず、部隊名すら防衛省は明らかにしていない。
日本国内のことであっても「米軍の運用」については関知しないという、「日本政府」お得意の主権放棄だ。

横浜港内では、米軍揚陸艇や組み立て式筏などがしばしば大手を振るって動き回っているにもかかわらず、その目と鼻の先に南関東防衛局のある防衛省は何も言わない。

ノースドックをいつでも見ることのできる場所に市庁舎がある横浜市も、日常的に「現場」を監視をしようとはしていないようだ。

米陸軍輸送科とその学校の公式ニュースレター「The Spearhead」(「Spearhead of Logistics」(兵站の穂先)は、米陸軍輸送科のモットーだ)の23会計年度第3四半期版(3 RD QUARTER EDITION: FY23)の冒頭に掲載された輸送科のリーダー、ベス・ベーン大佐(Colonel Beth Behn)の文章「FROM THE DESK OF…」によれば、4月16日に発足した横浜ノースドックの揚陸艇部隊の名称は、「5th Composite Watercraft Company (CWC)」(第5複合揚陸艇中隊)だ。

一般公開されている公式ニュースレターの冒頭に掲載される情報は、機密でも何でもないはずだが、防衛省は、米軍を勝手に忖度して市民には部隊名すら知らせないようにしているのだろうか。それとも、その程度の情報すら知らされないほどまでに、「日本政府」や防衛省は米軍に馬鹿にされているのだろうか。
横浜市も、なぜ積極的に情報の公開を要求しようとしないのだろうか。

4月に発足した横浜ノースドックの5th CWCは、活動を本格化させるための準備を進めているようだ。

米陸軍輸送科インスタグラムに10月20日付けで投稿された記事によると、10月16日に、この部隊所属の特技兵(SPC: Army Specialist)と二等兵(PV2: Private E-2)の2人の兵士の88K免許が、米陸軍海事資格部(MQD: Maritime Qualifications Division )によって認められたのだという。
88Kとは、陸軍の船舶技術者の資格だ。
同インスタグラム記事によると、この2人は、5th CWCでLCU-2000のライセンスを取得した最初の兵士なのだという。
LCU-2000とは、横浜ノースドックに約20年前にAPS(陸軍事前配備貯蔵)の拠点として搬入された揚陸作戦資材の中の、米陸軍ラニーミード級揚陸艇のことだ。
5thCWCは、配属された兵士の技能養成と資格取得の訓練を行い、揚陸艇中隊の本格活動の準備を進めているのだろう。

横浜市基地対策課HPによると、「5名程度の要員」が揚陸艇部隊として横浜に「最初」に常駐するという連絡が今年4月14日に防衛省から横浜市にあったというのだが、その後は要員の追加状況についての発表は無い。
おそらく最初に横浜に常駐して部隊新設の諸準備を担ったのは、それなりの権限を持つ階級の士官や下士官だったのではないだろうか。
しかし、今回船舶技術者の資格を取得した兵士は、特技兵と二等兵だ。つまり、一般の「兵」だ。最初の要員の常駐よりも後に配置された要員なのではないか。
一般の「兵」の訓練が行われているということは、横浜の部隊への兵士の配置が、既に着々と進行していることを意味しているのではないか。

そもそも2002年8月から2004年9月にかけて揚陸作戦セットを横浜ノースドックに運び込んだ時の米軍や日本政府の約束は、「無人の舟艇の保管であって、運航のための 部隊の配置はなく、運用はされない」、「瑞穂ふ頭の機能を高めるものではない」、「@艦船は燃料を抜いて保管するA運航はしない」というものだったはずだ。
この約束は一体どうなったのか。
米軍も「日本政府」も、なぜこの約束を守らないのか
かれらの「約束」とは、それほどまでに軽い、口先だけのものだということなのか。


米陸軍輸送科とその学校の公式ニュースレター「The Spearhead」の23会計年度第3四半期版冒頭部の一部。
赤い線を引いたところに、横浜NDに新設された揚陸艇部隊の名前が書かれている
(U.S. Army Transportation Corps & School“The Spearhead”3 RD QUARTER EDITION: FY23より引用)


米陸軍輸送科インスタグラムに10月20日付けで掲載された記事と写真。
5th CWCに配属された2人の兵士が船舶技術者のライセンスを取得したことなどが書かれている
(U.S. Army Transportation Corpsインスタグラムより引用)


同じインスタグラム記事に掲載された写真。横浜ノースドックに係留されている揚陸艇をバックに、ライセンスを取得した兵士が立っている
(U.S. Army Transportation Corpsインスタグラムより引用)

ところで、10月20日付け米陸軍輸送科インスタグラムの記事は、この揚陸艇部隊の任務の範囲が、米インド太平洋軍の責任領域全体であることを示唆する記述で締めくくられている。

しかし、そもそも日本国内に米軍が基地を置くことが許されているのは、日米安保条約の第6条に「日本国の安全に寄与し、並びに極東における平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」という条文があるからだ。
米軍の駐留が許されているのは、あくまでも日本と極東における「平和及び安全の維持に寄与するため」なのであって、米インド太平洋軍の担当地域への対応のために駐留が許されるとは、どこにも書かれていない。

そして、安保条約の言う「極東」とは、1960年の安保改定をめぐる国会審議での政府答弁によれば「フィリピン以北並びに日本の周辺」を意味している。
つまり、日米安保条約においては、「フィリピン以北並びに日本の周辺」以外の地域の武力攻撃に関して在日米軍が「日本の施設及び区域」を使用することは許されていないのだ。

安保条約に基づいて日本の基地に配置されているはずの部隊が、安保条約で許されていない任務を担当していることを、しれっとインスタグラムに書いて投稿してしまうということは、米軍が普段から日米安保条約の規制すら守らずに行動していて、「日本政府」もそれに追随していることの一つの表れだろう。
「法の支配」を、まずは日本国内で確立することが必要なのではないか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


今年夏にオーストラリアで行われた軍事演習「タリスマン・セイバー」に参加した後、広島の広弾薬庫を経由して9月20日に横浜に戻ってきた揚陸艇パロ・アルト。
しかしもちろん、オーストラリアは「極東」ではない(23.9.20 星野 撮影)


米軍画像サイトDVIDSの2023年9月1日付け記事「LCU 2032 Palo Alto crew rescues man overboard」によると、
オーストラリアでの演習に参加し、横浜に戻ってきた揚陸艇パロ・アルトは、米本土フォート・ユースティスの第7輸送旅団の遠征隊が乗組員となっていた。
ハワイに本拠を置く第8戦域維持コマンドを支援するためだという(23.9.21 星野 撮影)


2023-11-11|HOME|