横浜NDからバヌアツ共和国に移された揚陸艇


今年10月27日、横浜ノースドックからバヌアツに向けて出港する直前の大型タグボートLT801(「ナサナエル・グリーン少将」)と甲板にLCMを載せた揚陸艇チカソーバヨー。
LT801のマストにはバヌアツ国旗が掲げられている(23.10.27 星野 撮影)


横浜ノースドックを出港した大型タグボートと揚陸艇。その後バヌアツのポート・ビラに現地時間の11月18日に到着した(23.10.27 読者 撮影)

今年1月の「日米2プラス2」(日米安全保障協議委員会)で、横浜ノースドックへの揚陸艇部隊「新編」が発表された。
この2プラス2では同時に、第12海兵連隊の沖縄残留と第12海兵沿岸連隊(MLR)への改編が発表されたのだが、琉球弧などの「列島線」を戦場にする米軍の新しい戦争構想「機動展開前進基地作戦」(EABO)の担い手であるMLRを島々に輸送する手段を少なくとも現時点では海兵隊は保有していない中で、少なくとも当面は横浜に配備する揚陸艇部隊に、MLRなどの輸送を担わせるということなのだろう。

揚陸艇部隊の基地として横浜ノースドックが選ばれたのは、APS-4(陸軍事前配備貯蔵)の拠点として2002年から2004年にかけて揚陸艇など大量の陸軍揚陸作戦セットが既に搬入されていたからだ。
これらを搬入する際には、米軍は「無人の舟艇の保管であって、運航のための 部隊の配置はなく、運用はされない」、「瑞穂ふ頭の機能を高めるものではない」などと外務省を通じて約束していたのだが、かれらは「約束」など初めから守るつもりはなかったようで、実際には、揚陸艇は米本土から随時派遣されてきた部隊によって運用されていたし、それ以外の揚陸作戦資材も随時使用されてきた。
そして今回、約束など完全になかったことにしてしまうつもりなのだろう。

ところで、APS-4として横浜港に搬入された揚陸作戦セットの再編が近年進んでいる。

今年は、まず、これまで横浜に備蓄されていた揚陸作戦セットのうち、LCU(揚陸艇)2隻やLCM(より小型の舟艇)2隻、LT(大型軍用タグボート)1隻が、米軍保有ではなくなり、バヌアツ船籍の船となって横浜からバヌアツに送られた。

2隻のLCUとは、陸軍揚陸艇コントレラス(CONTRERAS LCU 2015)とチカソーバヨー(CHICKASAW BAYOU LCU 2012)だ。
今年5月15日にこの2隻の甲板に、民間のクレーンバージによってLCMがそれぞれ1隻ずつ載せられた。
この時点でこれらのLCUとLCMの船体の「US ARMY」の表示が消されていた。また、その近くに停泊していた米陸軍大型タグボート「ナサナエル・グリーン少将」(MG NATHANAEL GREENE LT 801)の「US ARMY」の表示も既に消されていた。
これらの船が米軍のものではなくなったということだろう。

その後、まず6月15日にLCUコントレラスが、LCMを載せて横浜を出港してバヌアツに向かった。

さらに、10月27日には、バヌアツの旗をマストに掲げた大型タグボートLT 801がLCUチカソーバヨーをけん引して横浜を出港し、バヌアツに向かった。

その後、これらの船舶はバヌアツに到着し、現地でバヌアツ船籍の船として民間の事業に使われているようだ。

APS-4の資材として横浜ノースドックに配置されているLCU2000級(ラニーミード級)揚陸艇に対して、米軍は2010年代後半にレドームの設置など通信等の機能の改修工事を行った。
しかし、すべてのラニーミード級揚陸艇に対して改修工事が実施されたわけではなかった。 今年、バヌアツに回航されたコントレラスとチカソーバヨーはいずれも、そのような工事が行われなかった船だ。
つまり、改修工事の対象にならず、「現代化」されなかったLCUを米軍は軍役から外したということだろう。

また、米陸軍は老朽化が進む舟艇LCM(Landing Craft Mechanized)を新しい機動支援艇MSV(Maneuver Support Vessel)に置き換えようとしている。そのために、「いらなくなった」LCMも米軍から除籍してバヌアツの船にしたということなのだろう。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)



今年5月15日、民間のクレーンバージを使ってLCUチカソーバヨーとコントレラスに舟艇LCMを積み込む作業が行われた(23.5.15 星野 撮影)



5月15日、LCMの積み込みを終えたLCUチカソーバヨー(上)とコントレラス(下)。
これらのLCUやLCMはいずれも、船体から「US ARMY」の文字が消されている(23.5.15 読者 撮影)


LCMの積み込み作業翌日の5月16日、横浜ノースドックに並んで停泊するLT801「ナサナエル・グリーン少将」と2隻のLCU(23.5.16 星野 撮影)


LT801の船体にあった「US ARMY」の表示も、既に5月以前に消されていた(23.5.6 星野 撮影)


今年6月15日、横浜ノースドックの埠頭先端部近くに並んで停泊するLCUチカソーバヨー(手前)とコントレラス(向こう側)。
コントレラスはこの直後にバヌアツに向けて出港した(23.6.15 星野 撮影)


その後、LCUチカソーバヨーとLT801は、10月27日の出港まで横浜ノースドックに係留されていた(23.10.10 星野 撮影)


2023-12-17|HOME|